月の至高体験

エウラ

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本編

137 お義兄さんは激怒する(sideガオウ)

俺は今、猛烈に怒っている。
何故って、そりゃあいっとう大切なサクヤちゃんを傷つけられたからだ。

常日頃から馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、ここまで阿呆で馬鹿でクソだとは思わなかった。ちょーっと考えが甘かった。

サクヤが廃嫡されたあとに帝国の第二皇子になったことをごく少数の関係者以外に公表しなかったのはわざとだ。
新しい皇子の身分のせいでサクヤがまた煩わしい思いをしないようにという配慮と、スメラギ・ハルキとその背後のスメラギ公爵家を上手く誘導して、彼らの罪を白日の下にさらすためだ。

悪い言い方になるが、サクヤには囮というか餌になってもらったようなものだ。もちろんサクヤ本人は何も知らないし気付かせもしないけど。
何があっても俺達が護る──そう思っていたし、実際に護れていた……はずだった。

だから気が抜けたんだ。
追い詰められたネズミがネコを咬むということが起きて、改めて見通しが甘かったんだと気付かされる。

今回、怪我は命に別状のあるものではなかったが、それは結果論。打ち所が悪ければ命がなかった可能性が高いのだから。
本当なら傷一つ付けないように万全でいなければならなかったのに。

自分の不甲斐なさに憤る。いや、おそらく父達も同じ気持ちだろう。

先ほど影に言伝を頼み、サクヤの身分を公表する許可を父に求めた。今回の怪我があるからすぐに二つ返事で許可が下りるだろう。
そもそも公表していなくてもサクヤはとっくに第二皇子殿下なのだから、コイツらは全員、不敬罪どころの騒ぎではない。知らなかったという言い訳は当然通らないから覚悟するんだな。

そうしてわずか数分で影が戻ってきた。

『ガオウ様、リオネル様よりとのお言葉です』
「──りょーかい」

聞こえた声に返事をしてイルミナをチラリと見る。ちゃっかり椅子を持ち出し、腕と足を組んで座るイルミナに苦笑する。完全に観客か傍観者を決め込んでいるよ。
こっちを見る視線で『さっさとやれ』という心の声が聞こえる。

はいはい。
さぁて、それでは開幕といきますか。

「さて、お前ら全員注目ー! 今から重大発表をするからよーく聞くように!」

俺は部屋全体に通る声で告げる。ここにいるCクラスの全員が俺に注目したのを確認して、ニヤリと笑う。

「お前らがさっき怪我をさせたサクヤだが、以前にスメラギ公爵家を廃嫡された直後にこのオクタヴィウス帝国の皇帝陛下の養子となった。今現在はオクタヴィウス・サクヤ第二皇子殿下という身分だ。この意味、分かるよな?」
「……え?」

そう言ったら、全員がポカンとして固まった。
おーい、ちゃんと理解したのか? お前らの頭はどうなってる。何故アホ面を晒しているんだ。

「……皇子殿下?」
「え、廃嫡されたから平民だろう?」
「そんなのうそに決まってる!」
「誰も知らないぞ、そんなこと! 嘘つきめ!」

やっと口を開いたかと思えば、出てくるのは疑問や悪態ばかり。

「いや、うそじゃないし。そもそも俺の身分も理解してるのか? 口汚く罵っている相手はこの帝国の皇帝の甥で大公家の嫡男なんだが? それだけで不敬罪が適応されるぞ。学園内は無礼講というわけじゃないからな」

そう言ってすごめば、気付いてハッとしたヤツらはばつが悪そうな顔で大人しくなったが、それも数人だ。
他は全く気にしていないのか思い至らないのか、ぎゃあぎゃあと喚いて煩い。

特にスメラギ・ハルキ。

「うそだうそだ! アイツがここの皇子になんてなれるはずないだろう! あんな無表情でつまらなくて役立たずな悪役令息が皇子だって!?」
「お前の言ってる言葉でよく分からないところはほっといても、サクヤがつまらなくて役立たずなんてことは全くないから黙れよ」

威圧を込めて睨めば、ひぃっと情けない声を出して腰を抜かすハルキ。それを俺は鼻で笑う。

「ふっ、これくらいで怖じ気づくくらいなら最初から喚くんじゃないよ。とにかくサクヤが第二皇子で、うちのスオウの婚約者なのは事実だから」

そう言って俺は婚約の正式な書類の控えをペラッとコイツらに見せる。この国の貴族として少なからず教育を受けた者ならば、これが偽造できない書類だと分かるはず。否、この国の貴族じゃなくても周辺諸国のお国事情くらいは学んでいるよな……?

そう思ってコイツらの顔を見渡すと、キョトンとしたヤツらがちらほらいるんだが?

──いや、さすがに分かるよな? 今は驚いているだけだよな? ハルキはともかく、まさか自国のお前らもそこまで阿呆じゃないよな?

そんな俺の願いは、このすぐあと、虚しく砕け散ることになる。




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