月の至高体験

エウラ

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本編

21 ナイショの皇家お宅訪問 その弐

ひとまず転移したのは、僕が皇家でいつも使っている執務室、のような部屋。

とても執務室とは言えない古びた薄暗い部屋で、机もただの頑丈な一枚板を4本の柱で固定しただけ。椅子もただの板張りの安い木で出来たモノ。

壁一面には本棚があるが、今は何一つない。

スオウが、部屋が埃を被ってないのに違和感を感じているようだ。

「ココは状態維持の魔法をかけてある。後、封印結界の魔法で誰も入れない。まあ、誰も来ないけどね? 来るときは問題が起こったとき」

そもそも、今は帝国にいるから来ることはないだろう。

「その、棚とかに何もないのは?」
「ああ、全部インベントリに入れてあるんだ」
「インベントリ?」
「アレ、コッチにはないのか。異空間収納? アイテムボックス?」

前世、聞きかじったゲームの知識を使ってるから、色々と齟齬が・・・・・・。

「異空間収納なら分かるが、使える者は少ない。容量もまちまちで余り多くはないと聞く。・・・・・・え、まさかこの本棚全部?!」
「他にも重要書類とか、狩った魔物の素材とか? ・・・・・・僕のは容量無限だから」

たぶんこれも不味い案件なんだろうな?

「・・・・・・ひとまず置いといて、これからどうするんだ?」

渋い顔をしながら聞いてきたのに苦笑して。

「インビジブルをかけたまま代理人の傍に転移しようと思ったけど、時間的にちょっと遅いから今日は僕の部屋に寄ってから戻ろうか」
「分かった。部屋は?」
「この隣に」

そう言って扉を開けると、相変わらず何もない部屋が広がっていた。

一つだけある窓の傍に小さいベッド。薄いマットレスに擦り切れそうな生成りのシーツ。角が解れた枕が一つだけ。毛布と言えない薄いタオルケットのようなモノ。

サイドテーブルとも言えないただの物置台。

古びて傾いたクロゼットには何もない。

錆び付いた小さい鏡。足も伸ばせないほどの小さいバスタブと洗面台、トイレ。

コレがここでの僕の世界だ。

「・・・・・・花江が解雇されてからここに入ったのはスオウが初めてなんだ。こんなのでも僕の初めてを貰って欲しくて・・・」

そう言ってスオウを見つめた。
遣る瀬ない顔をしたスオウが、僕をぎゅっと抱きしめてくれた。

「この部屋で抱きしめてくれたのも花江以外で初めてだ」

僕も抱きしめ返した。

「・・・帰ろうか」
「・・・・・・うん」

当たり前のように『帰ろう』って言ってくれるスオウに、僕は何をしてあげられるかな?

ーーー帰る場所があるって、こんなにも嬉しいんだよ、スオウ。





あれからオクタヴィア家に転移したサクヤは思ったよりも疲れたらしく、夕御飯を食べてる途中で船を漕ぎ出し、スオウに介助されながら風呂に入って早々に寝てしまった。

おそらく常ならば絶対に見せない子供のような仕草に、心を許してくれているようで嬉しかった。

「サクヤは?」
「もうグッスリ眠っている。まあ、安眠香も焚いてきたからたぶん起きないよ」
「そうか。それで、向こうの様子はどうだった?」

父さんの執務室に集まったのは兄さんと俺の3人。各務にはサクヤをみて貰ってる。
まあ影があちこちにいるんだけど。

「酷いモンだったよ。次期当主の執務室でもなけりゃあ、住む部屋でもない」

そう言って、記録媒体の魔導具を出して映像を再生した。
実はイヤーカフがその魔導具になっていて、任意で記録を残せる。

「・・・・・・思った以上に酷い扱いだね」

兄さんが眉間にシワを寄せる。
父さんも無言で頷いた。

「なんか、部屋に何も無いんだけど?」
「ああ、そうだ。聞いたら『インベントリ』に全部入ってるって・・・。それも容量無限だってさ。信じられる?」
「インベントリ?」
「コッチでいう異空間収納だって。たぶん前世の知識で創った魔法じゃないかな?」

全員無言で深ーい溜息。

「・・・・・・どんだけ爆弾抱えてるんだろうね」
「ソレもひっくるめて護ると決めたんだから、俺は後悔しないよ」
「反省はしようね? 誰のせいでサクヤが疲れてると思ってる?」
「・・・・・・スミマセン」
「・・・とりあえず、この連休中スオウはサクヤの色々な非常識さを確認して。ガオウは学園内での事を重点的に」
「「はい」」

とりあえずは解散で。また明日、とそれぞれ戻っていった。

自分の部屋に戻ると、各務が控えていた。

「サクヤ様は良くお眠りになっております」
「そう」

スオウをジッと見つめていた各務が言った。

「・・・ここからは乳兄弟として言わせて貰うが、スオウ。昨夜はやり過ぎだ。サクヤ様の言うとおり、初心者にする事じゃない。気持ちは分かるが、今夜は自重しろ」
「・・・・・・父さんにも言われたよ。大丈夫、さすがに今夜はしないよ」

昨夜は箍が外れてしまったけど、サクヤが大事なんだから。

壊さないよ。

「大変結構です。では、お休みなさいませ」

「ああ。お休み」

ベッドでサクヤを抱きしめて眠る。

「いい夢を。サクヤ」
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