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波乱の箱庭 3(side王様達)
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サイファ達がラトナの希望する街歩きを色々と計画している頃───。
連絡を受けた国王トレヴァは王太子シヴァと共に各方面に事実確認をして問題の入城ルートの洗い出しをしていた。
そもそもラトナが城に来たあと、あらゆる抜け道をチェックして警備体制を強化し、万全を期したはずなのだ。
そして今日までそれはきちんと機能していた。
なのに今日、思わぬところで降って湧いた非常事態に冷静を装ってはいたがトレヴァ達王族は内心で酷く焦り、また怒っていた。
「一体どういうことだ。何故今日に限ってあんなのが王城に、しかも王族専用のプライベートの区画に紛れ込んだのだ!」
トレヴァは隠しきれない怒りと共に近衛騎士団長のリナレスに詰め寄った。
「申し訳ございません。今詳しく調査中ですが使用人の中に数名、ルモイ侯爵家の手の者から袖の下を貰った者がいたようでして」
近衛騎士団長リナレスの話によれば、ここ二週間ほどの間に新たに雇った使用人の中にルモイ侯爵家の息のかかった者が複数人いたらしい。
王族の護衛をする近衛騎士にはいなかったが、城内の警備をする王立騎士団の中でも特に新人の若い騎士に秘かに接触して袖の下を渡したりハニートラップを仕掛け、懇ろな仲になったところで警備体制をそれとなく聞き出していたそうだ。
中には協力させて近衛騎士の気を逸らせたりということもしていたという。
その隙を突いてしれっとルモイ侯爵令嬢を堂々とプライベートの区画に連れて行ったそうだ。
そのルモイ侯爵令嬢だが、たまたまなのか故意なのか、今日は父親である侯爵が領地に関する書類の提出があるとかで登城しており、そこに令嬢も付いてきたということだ。
そして侯爵が仕事で席を外したときに別行動でサイファの離宮まで入り込んだわけだ。
「幸いというか、ラトナ達が離宮にいなくてよかったが。アレのサイファへの執着はどうにかならないモノか・・・・・・」
そう呟くトレヴァ。何故かアレは昔からサイファを唯一の番いと思い込んでいるのだ。
今までもサイファがアレを番い認定したことはないというのに。
「本当にサイファ達が離宮にいなくてよかった。万が一、蜜月中の二人の邪魔をしたとなれば令嬢はおろかこの城とて無事では済まなかっただろう」
王太子シヴァの言葉にリナレス近衛騎士団長が渋い顔で頷いた。
「しかしあのご令嬢は幼き頃より妄想癖が酷かったですな。今回も改装中だったサイファ殿下の離宮をさもご自分のためのように仰っております」
リナレス近衛騎士団長はそのことを思い浮かべたのか、死んだ魚のような目をした。
シヴァはその目に心当たりがあった。
過去、リナレスは幾度となくああいった場面に出くわし、噛み砕いて分かりやすく決まり事を説明するも、まるで会話にならずにいつも疲れた顔をしていたな・・・・・・。
「ともかく、今ルモイ侯爵と令嬢を拘束していますから、詳しい話を聞くとしましょう」
そう言うシヴァに頷くトレヴァ。
「故意にせよ偶然にせよ、ただの外戚である侯爵令嬢がプライベート区画に不法侵入したのだ。親であるルモイ侯爵にも責が十分にある」
リナレス近衛騎士団長も同様に頷く。
トレヴァは続けた。
「王太后の生家なれども王家の決まり事を犯すのであればそれなりの処罰をせねばな。調子に乗っていつまでも我が物顔をされたままでは困る」
ルモイ侯爵家は色々と誤解しているようだが、トレヴァは一国の王として政治的なことには厳しい。
上に立つ者の責務を十二分に分かっていて、必要とあらば例え身内であろうと冷酷に斬り捨てる。
今回のことは今までのルモイ侯爵家の不遜な行い以上に、王族を侮り軽く見ていると取られてもおかしくない、許されざる行為なのだ。
「いつ断罪をしてやろうかと好機を窺っていたが、ちょうどいい」
「自ら堕ちてくれましたからね」
ふふふ、はははと不敵に腹黒く笑う国王陛下と王太子に、近衛騎士団長のリナレスは溜め息を吐く。
「これでルモイ侯爵家は終わりだな」
やっと令嬢とのあの意味不明で無意味なやり取りをしなくて済むと、ほっとする近衛騎士団長だった。
───事情聴取の結果、ルモイ侯爵が仕組んで令嬢には物心つく前から洗脳のように『サイファ殿下の番いはお前だ』と言い聞かせていたそうだ。
令嬢自身はもう疑いようもなくそう刷り込まれていて、どうしようもない。記憶を喪失しない限りは矯正できないそうだ。
───それから数時間ののち、ルモイ侯爵は爵位剥奪のうえ王都から一族共に永久に追放。
彼らに関わった者達も解雇されたり犯罪奴隷に落とされることが決まった。
元令嬢はサイファとラトナに近付くと問答無用で転移させられる特別な魔導具の首輪を嵌めて放逐することになった。
その魔導具は二人の半径一㎞以内に入ると強制的にランダムな場所に転移するというもので、転移場所は無作為で転移する距離もめちゃくちゃ。しかも転移するのは本人のみで誰も巻き添えにしない。
よってどこかの森だったり海だったり、はたまた魔物の巣かもしれない場所にたった一人飛ばされることになる。
傅かれて蝶よ花よと育ってきた元令嬢ならすぐに死んでしまうだろう。
『娘が可愛ければ二人に近づけさせないことだな』
ルモイ元侯爵にはそう言い聞かせたから、意地でも二人に近づけさせないだろう。
あとはどうなろうと知ったことではない。
連絡を受けた国王トレヴァは王太子シヴァと共に各方面に事実確認をして問題の入城ルートの洗い出しをしていた。
そもそもラトナが城に来たあと、あらゆる抜け道をチェックして警備体制を強化し、万全を期したはずなのだ。
そして今日までそれはきちんと機能していた。
なのに今日、思わぬところで降って湧いた非常事態に冷静を装ってはいたがトレヴァ達王族は内心で酷く焦り、また怒っていた。
「一体どういうことだ。何故今日に限ってあんなのが王城に、しかも王族専用のプライベートの区画に紛れ込んだのだ!」
トレヴァは隠しきれない怒りと共に近衛騎士団長のリナレスに詰め寄った。
「申し訳ございません。今詳しく調査中ですが使用人の中に数名、ルモイ侯爵家の手の者から袖の下を貰った者がいたようでして」
近衛騎士団長リナレスの話によれば、ここ二週間ほどの間に新たに雇った使用人の中にルモイ侯爵家の息のかかった者が複数人いたらしい。
王族の護衛をする近衛騎士にはいなかったが、城内の警備をする王立騎士団の中でも特に新人の若い騎士に秘かに接触して袖の下を渡したりハニートラップを仕掛け、懇ろな仲になったところで警備体制をそれとなく聞き出していたそうだ。
中には協力させて近衛騎士の気を逸らせたりということもしていたという。
その隙を突いてしれっとルモイ侯爵令嬢を堂々とプライベートの区画に連れて行ったそうだ。
そのルモイ侯爵令嬢だが、たまたまなのか故意なのか、今日は父親である侯爵が領地に関する書類の提出があるとかで登城しており、そこに令嬢も付いてきたということだ。
そして侯爵が仕事で席を外したときに別行動でサイファの離宮まで入り込んだわけだ。
「幸いというか、ラトナ達が離宮にいなくてよかったが。アレのサイファへの執着はどうにかならないモノか・・・・・・」
そう呟くトレヴァ。何故かアレは昔からサイファを唯一の番いと思い込んでいるのだ。
今までもサイファがアレを番い認定したことはないというのに。
「本当にサイファ達が離宮にいなくてよかった。万が一、蜜月中の二人の邪魔をしたとなれば令嬢はおろかこの城とて無事では済まなかっただろう」
王太子シヴァの言葉にリナレス近衛騎士団長が渋い顔で頷いた。
「しかしあのご令嬢は幼き頃より妄想癖が酷かったですな。今回も改装中だったサイファ殿下の離宮をさもご自分のためのように仰っております」
リナレス近衛騎士団長はそのことを思い浮かべたのか、死んだ魚のような目をした。
シヴァはその目に心当たりがあった。
過去、リナレスは幾度となくああいった場面に出くわし、噛み砕いて分かりやすく決まり事を説明するも、まるで会話にならずにいつも疲れた顔をしていたな・・・・・・。
「ともかく、今ルモイ侯爵と令嬢を拘束していますから、詳しい話を聞くとしましょう」
そう言うシヴァに頷くトレヴァ。
「故意にせよ偶然にせよ、ただの外戚である侯爵令嬢がプライベート区画に不法侵入したのだ。親であるルモイ侯爵にも責が十分にある」
リナレス近衛騎士団長も同様に頷く。
トレヴァは続けた。
「王太后の生家なれども王家の決まり事を犯すのであればそれなりの処罰をせねばな。調子に乗っていつまでも我が物顔をされたままでは困る」
ルモイ侯爵家は色々と誤解しているようだが、トレヴァは一国の王として政治的なことには厳しい。
上に立つ者の責務を十二分に分かっていて、必要とあらば例え身内であろうと冷酷に斬り捨てる。
今回のことは今までのルモイ侯爵家の不遜な行い以上に、王族を侮り軽く見ていると取られてもおかしくない、許されざる行為なのだ。
「いつ断罪をしてやろうかと好機を窺っていたが、ちょうどいい」
「自ら堕ちてくれましたからね」
ふふふ、はははと不敵に腹黒く笑う国王陛下と王太子に、近衛騎士団長のリナレスは溜め息を吐く。
「これでルモイ侯爵家は終わりだな」
やっと令嬢とのあの意味不明で無意味なやり取りをしなくて済むと、ほっとする近衛騎士団長だった。
───事情聴取の結果、ルモイ侯爵が仕組んで令嬢には物心つく前から洗脳のように『サイファ殿下の番いはお前だ』と言い聞かせていたそうだ。
令嬢自身はもう疑いようもなくそう刷り込まれていて、どうしようもない。記憶を喪失しない限りは矯正できないそうだ。
───それから数時間ののち、ルモイ侯爵は爵位剥奪のうえ王都から一族共に永久に追放。
彼らに関わった者達も解雇されたり犯罪奴隷に落とされることが決まった。
元令嬢はサイファとラトナに近付くと問答無用で転移させられる特別な魔導具の首輪を嵌めて放逐することになった。
その魔導具は二人の半径一㎞以内に入ると強制的にランダムな場所に転移するというもので、転移場所は無作為で転移する距離もめちゃくちゃ。しかも転移するのは本人のみで誰も巻き添えにしない。
よってどこかの森だったり海だったり、はたまた魔物の巣かもしれない場所にたった一人飛ばされることになる。
傅かれて蝶よ花よと育ってきた元令嬢ならすぐに死んでしまうだろう。
『娘が可愛ければ二人に近づけさせないことだな』
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あとはどうなろうと知ったことではない。
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