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22 騎士は再び戦慄する
しおりを挟む今朝は用事があったため、何時もよりも早くベッドから抜け出した。
何時もならセイリュウが起きるまでぎゅうっと抱き締めて彼の良い匂いを堪能しながら、彼が目覚めるのを待っているのに・・・。
セイリュウを起こさないように手早く身支度を済ませると、そっとセイリュウの額に口付けを贈り、寝室を後にした。
父の執務室に向かうと、すでに執務をしていたのか、書類の山が机にあった。
兄も補佐に付いている。
「来たか、ロザリンド。こちらへ来い」
ソファに移動する父達と共に座る。
そして父と兄と共に王太子の(正確にはレグルス様の)影から定期報告を受ける。
「第三騎士団からはここ数日の間に、結構な数の異動届が出されているそうだよ」
「まあ、想定内ですね。団長が受理しているのでしょう?」
「そうだな。そちらはすでに手を回してあるから問題ない。お前の補佐官が良い仕事をしてくれているようだよ」
そういってふふふ、と笑う父。
「そうでしょう? 彼は優秀なのです。本当に助かりますよ」
「それと魔導師団の方も凄いことになっているね」
「まあそうでしょうね。机に齧り付いているのでは?」
「良く分かっているねえ。事務官達が地味に嫌がらせ・・・コホン、セイリュウ殿が熟していた分を丸投げしていたよ。毎日遅くまでやっても終わらないとか」
いい笑顔で言う兄。
楽しそうで何より。
「元々、自分達の仕事なのだからやって当然でしょう。寧ろアレを全て終わらせていたセイリュウの処理能力に脱帽ですよ。コレからはそんなこと、もうさせませんけどね」
俺もにっこり笑う。
父も兄も黒い笑顔でにっこり笑って、今回の定期報告会は散会した。
順調に事が進んで何より・・・。
そうして気分良く自室に戻り、扉の前に待機する騎士に様子を窺うと。
「は、少し前に人が動く気配がありましたが、セイリュウ様の気配でしたので、もしかしたらお目覚めかと・・・」
「そうか、戻る前に目が覚めてしまったかな」
そういって静かに部屋に入り、見渡すが姿が無い。
まだ寝室かと、そっと扉を開けて声をかけるが・・・。
「っセイリュウ?!」
目に飛び込んだのは、ベッドの下のラグにうつ伏せで倒れているセイリュウの姿・・・。
俺が声を上げてもピクリともしない様にサーッと血の気が引いた。
俺の叫び声を聞いた騎士や侍女達が大慌てで部屋に入り、旦那様を!とか侍医を!とか指示を出してくれていた。
俺は慌ててセイリュウをそっと抱き上げてベッドに横たえる。
何時から倒れていたのか、薄い夜着を纏っただけの細い体はかなり冷えていた。
「---っ、セイリュウ殿が倒れていたのじゃと?」
少し息を弾ませながら駆けつけた侍医に診察をして貰うと、呼吸も魔力も安定しているとのこと。
「うんうん、問題はないようだ。まあ、体力が落ちているから、ベッドから出るだけで疲れてしまったんじゃろう。コレからは少しずつリハビリで散歩でもさせるといい。その辺り、メニューを考えておくよ」
「ありがとうございます。朝早くから・・・」
「よいよい。年寄りは朝が早いんじゃ。・・・あまり怒らんでやれよ?」
「・・・善処します」
ほっほっと笑いながら侍女に付き添われて戻っていった侍医を見送って、ベッド脇に座る。
他の者も一安心したと定位置に戻っていった。
父達にも連絡が行ったようだ。
気にかけて部屋の入り口に立っていたが、手を振って戻っていった。
「---はぁ、いや、もう・・・・・・」
何でこう、何時もいないタイミングを狙ったように・・・・・・。
よくよくセイリュウに引っ掻き回されているロザリンドだった。
それから少しして目を覚ましたセイリュウに結局お小言を言って怒り、一応、次はないぞと釘を刺す。
その後、父親にタブレットを送りたいと泣かれた時は、やりきれなさで胸が潰れそうだった。
だが、泣けるほどの心の余裕が出来たのだと、今は好きなだけ泣かせてやろうとその潰れそうな胸を貸した。
しばらくして落ち着いたセイリュウにほっとする。
だいぶスッキリとした顔だったからだ。
良かった。
嫌なことは泣いて流してしまえば良い。
セイリュウに頼まれて魔力量を少し上げてやるとタブレットを渡してきたので、アイテムボックスが辺境の神殿にもある事を暴露すると驚いていたが、深くは追及してこなかった。
内緒の意味を悟ったのだろう。
以前から賢い子だとは思っていたが、妙に大人びている時がある。
レグルス様の話しぶりだと色々と秘密がありそうだが・・・・・・、それでも丸ごと俺が護れば良い話だ。
「父上、コレを辺境の神殿、レグルス様に送りたいのですが・・・」
「ん? それは構わんが・・・セイリュウ殿は大丈夫か?」
「ええ、泣いてスッキリしたようです」
「・・・・・・みたいだね。シャツがぐしゃぐしゃだよ。後で着替えておいで。・・・で、それはお前が持っているアレと同じものか」
「はい。遠距離用に魔石を良い物にしてあります。ちゃんと声も届くはずです」
「コレも片が付くまでは発表はお預けだな。本当にセイリュウ殿の功績は素晴らしいのに・・・」
あの国王陛下達め・・・。
忌々しそうに呟く父に同意して、レグルス様に送って貰うと、一旦着替えの為に部屋に戻る。
おざなりにシャツを着替えてセイリュウのもとへ向かうと、チリリとセイリュウのタブレットに着信が・・・。
それを確認したセイリュウが再び号泣し、泣きながら必死に父親に愛の言葉を向ける。
その姿に、嬉しくもヤキモチを焼いてしまうのだった。
その後、再び蜂蜜湯を飲んだのは言うまでもない・・・・・・。
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