癒しが欲しい魔導師さん

47 魔導師団の師団長は今･･･

４年前にすでに高齢だった魔導師団の師団長は、あの事故(事件)の時には師団長とは名ばかりのただの老人のような状態だった。

物忘れが酷くなり、杖を突きつつ誰かに介助して貰わないと移動も困難な有様で。

書類の確認などは補佐官が全て行っているようなものだった。
その書類も割といい加減な書式で間違いも多かったが、補佐官も面倒だと流れ作業のように承認印を押していたので、何時も事務官達がしわ寄せで苦労していた。

その補佐官も師団長の介助ばかりで嫌気がさして辞めてしまい、セイリュウが強制的に魔導師団に入れられてからはずっとセイリュウに任せていたので、本当に名前だけの状態だった。

ちなみに前世の知識チートをここぞとばかりに使って、いかに簡潔に正確に仕上げられるかテンプレートを作って統一化したのはセイリュウである。
おかげで書類仕事がはかどり、仕事が増えて自分の首を絞めてしまっていたが。

そして師団長とは名ばかりで仕事のしの字もないという事を知ったのはセイリュウが倒れてから。

クズな魔導師達もそこまでとは思っていなかったようだ。
じゃあ、今までセイリュウがしていた師団長の書類仕事は誰がどうやるのか？

揉めに揉めて、結局誰もやらない･･･否、出来なかった。
自分の仕事だけでも手一杯。
それにいくらセイリュウが書式を整えても仕事内容が分かっていない魔導師達はちんぷんかんぷん。

師団長の補佐官もおらず、師団長は寝てばかりの高齢のお爺さん。
魔導師団のツートップが機能していないせいで滞る仕事。

魔導師団は大騒ぎだった。

そんな中、ボケッと何も知らずに師団長は自宅で日向ぼっこをしていた。

否、すでに元師団長だった。

王太子殿下が魔導師団の権限を握ってすぐに役職を剥奪し、余生を過ごせる別宅を用意してそちらに住まわせていた。

王都から遠く離れた森の中、王太子殿下の影を介護という名の監視に付け、食事には徐々に衰弱するクスリを混ぜられてゆっくりと死に向かっていく。

可哀想なんて思わなくていい。

この元師団長も若い頃に権力にモノをいわせて成り上がった愚か者だった。
何人もの優秀な平民の魔導師達を平気で使い潰し、手柄を横取りする悪党だった。

とことん甘い汁を吸って、最終的には老害となった憐れな男だ。

本当は苦しませて逝かせてやろうとしていたが、さすがに老いた頭までは治せない。
だからせめて、誰にも存在を認識されないまま、この世を去って貰おう。

誰の記憶にも残らぬように。

この男が死んだ瞬間、この男と関わりを持っモノ全てから忘れ去られる。

そう言う魔法をかけられている。

ココにいる監視の影の祝福だ。
忘却の祝福。

生きていれば忘れたいことの一つや二つはあるだろう。
其れを自由に選んで忘れさせる祝福。

ある意味呪いだろう。

自分の存在を誰も覚えていないのだから。
どんなに素晴らしい偉業を成し遂げたとしても、悪名を轟かせようとも、全て無かったことになるのだから。

人の記憶から消え去ったときが本当の死であると誰かが言った。



まさにその通りだと思う。



その数日後、ひっそりと息を引き取った男が皆の記憶から消えたことは誰も知らない。

忘却の祝福を持つ影と王太子殿下、王弟殿下レグルス以外は･･･。





※やっと魔導師団長の話、書けました。
忘れられた師団長。･･･忘れさせてやったぜ！