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37 農園とブランシュ 1

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お腹いっぱいの僕とは違い、朝と昼の御飯を僕が寝ているうちにしっかり食べていたらしいレイヴンだったけど広場の方に出ている屋台の良い匂いに食欲が刺激されたらしい。

「ブランシュ、農園に行く前にちょっと食べてもいいか?」
『うん、全然オッケーだよぉ。香ばしい匂いだもんねぇ』

そう言って僕はくんくんと匂いを嗅ぐが、やはりお腹が減ってはいない。そりゃあアレだけ注がれれば当然なんだけど・・・。

レイヴンは串焼きの屋台に向かった。僕は右手をレイヴンに繋がれているのでそのまま引っ張られていく。

「串焼き一つ頼む」
「ようレイヴン。嫁さん連れて何処に行くんだい?」

屋台の親父さんにニヤニヤされて聞かれたレイヴンが無表情でぶっきらぼうに告げる。

「農園だ。ブランシュに畑を見せたい」
「へえ、取り立てて目新しいモノは無いと思うけどな」
『そんなことないですよ。羊さん達触るの初めてだったし、野菜も知ってるようで知らない育ち方みたいだし? 楽しみです』

僕が思わずという感じでそう言って、屋台の親父さんもレイヴンもキョトンとしたあと笑った。

「確かにブランシュには初めてのモノばかりだな」
「そういえば精霊だっけ? 確かに人の生活なんて珍しいよな。楽しいならよかった。それならほらレイヴン、さっさと食って連れてってやれ」
「・・・・・・言われずとも分かってるよ」

ムッとしながらバクバク食べるレイヴンにほにゃっと笑う僕。
そんな対称的な僕達を見て笑う他の屋台の店主達。
賑やかな笑い声を背にレイヴンは僕の手を引きながら農園に向かっていった。

そうして牧場とは反対方向にある大きな農場に辿り着くと、僕は昨日と同じように目をキラキラさせてはしゃいだ。

『おっきいねえ! 広いねえ!』

うん、僕の語彙力なんてこんなモンだ。でもレイヴンは何となく誇らしげに言った。

「だろう? ここでこの里の野菜をほぼまかなっているんだ」
『へええ、じゃあ種類もいっぱい?』
「数えたことはないが、かなりあると思うぞ。まあ、最初は例のレンコンを見に行くか」
『おおう。泥の中じゃなくて畑にニョキニョキってヤツ!』
「そう。とりあえず誰かに声をかけて───」

レイヴンが辺りを見回すと、ちょうど一人こっちに気付いたようで、近付いてきた。その人にレイヴンが声をかける。

「おい、サンド。ちょうど良いところに来た」
「・・・・・・えー、何かヤな予感」

そう言って寄って来たサンドと呼ばれた男性は、レイヴンみたいに黒髪黒目で短髪の、レイヴンよりもがっしりした体格の男の人だった。歳は三〇代前半? 日に焼けた小麦色の肌でニカッと笑った。

「やあ、お嫁ちゃん! こんにちは。少しはこの里に慣れたかい?」
『あ、はい。凄く馴染み深い食べ物とかあって懐かしいです』
「へええ、そりゃあよかった。で、今日はどうしたんだい?」
「ブランシュに畑を見せに来た。どうやら自分の思ってた様子と違うらしくて、見てみたいんだと。案内してくれるか?」

レイヴンがサンドにそう言ったので、僕もうんうんと首を縦に振った。いやだって、どんな風に育ってるのか気になるもの。

それが伝わったのか、苦笑しながら案内役を買って出てくれたサンド。
畑を歩きながら自分は農園の跡取り息子だと教えてくれた。兄弟姉妹が男三人と女二人で長男なんだって。
凄い兄弟いっぱいで楽しそうだと言ったら笑っていた。

「小さいときは飯の取り合いが凄くて男も女も関係なく喧嘩してたけど、今は仲がいいぜ。後で紹介するよ」
『ありがとうございます』

そうして連れられてきた場所は、初見ではちょっとどころかかなりホラーな光景が広がっていた。

『───犬○家の一族・・・・・・!?』

地面から逆立ちした足のようなレンコン? がニョキニョキ、見渡す限りの畑を埋め尽くしていたのだった。





※本家本元は湖の水面でしたが、ここは畑w




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