24 / 26
24 番外編 愛妻弁当 その3
しおりを挟むヒョウガは急いで意識のないサナを医師に診て貰う。
どうやら後頭部をすりこ木で強打されたようだが、子供のような体格のサナだ。
思ったよりもダメージが深かったのだろう。
未だ意識を取り戻さない。
頭皮が切れたようで、血の固まりが手に付く。
ほぼ乾いているソレは、かなり前に出血したモノのようだ。
「・・・ご近所の奥さんが、いつもならとっくに洗濯物が干されている時間になっても干し場に出ていないって気になって、もしかしたら具合でも悪いのかと思って家に声をかけたら返事がないって」
「・・・そうか」
「それで警備隊に付いてきて貰って家に入ったら、荒らされていて、勝手口の付近に血の跡が・・・それで、サナさんが攫われたのでは、と」
「・・・分かった。スマン、ありがとう。助かった」
治療中、門番の一人が付いてきてくれて、そう説明を受けた。
・・・・・・以前の誘拐事件で懲りたはずなのに、再び、このざまだ。
肝心な時に、いつも俺は・・・・・・。
血が滲むほど拳を握りしめていると。
「・・・・・・ヒョ・・・ガ・・・」
「・・・っサナ」
微かにサナがヒョウガを呼ぶ声が聞こえた。
「サナ、痛くないか? ごめんな、怖い目に合わせた」
「ヒョ・・・のせい・・・ない」
「・・・ウン、良かった・・・・・・」
何とか言葉を紡いで再び意識を失ったサナ。
医師は安心させるように言った。
「意識が戻ったので大丈夫そうですが、念の為、今日と明日はここでこのまま、様子を見ましょう。今は痛み止めを飲ませたので眠っただけです。傷は浅いので心配いりません。ヒョウガさんも一度帰って、着替えなどの用意をして、となりのベッドで泊まって下さって結構ですよ、ね?」
「・・・・・・ありがとうございます。家を片付けてから、また伺います。サナをお願いします」
「はい、任されました」
診療所を出て、ヒョウガは自宅へと向かう。
さっきの門番も付いてきた。
家では警備隊がたくさん、現場検証をしていたようだった。
ヒョウガが来たのに気付くとばっと敬礼して、説明をしてくれた。
「どうやら、人目が付きにくい裏手から侵入したようです。裏庭にお二人以外の新しい足跡が付いてました。それから勝手口にも。台所の食器は洗って片されていたので、そのすぐ後に襲われたのではと」
「・・・そうか」
「家中の棚や引き出しを漁っています。現状維持の為にそのままにしてあります。何かとられたものがないか確認をお願いします」
「そうだな。まあ、貴重品は基本、インベントリに入れているから何も無いと思うが、片付けながら確認をしよう」
そう言って勝手口に足を運ぶ。
サナが襲われたという場所だ。
現場検証は済んでいたようで人気は無かったが、足元を見ると赤黒く染みが出来ていた。
「---サナ、痛かったろう・・・」
サナの倒れていた場所だろう。
血痕が生々しい。
今となっては、意識が無かったことは逆に良かったのかもしれない。
ずっとあんな袋の中で恐怖に震えているよりははるかにマシだろう。
それでもアイツらを許せそうに無いが。
大切な番いを傷付けられて平常でいられるヤツはいないだろう。
だが警備隊の采配に頼るしか無いと堪えた。
ここは街で、警備隊がいて、俺はただの冒険者だから。
街の外・・・もっと先の森の方で見つけていたら躊躇無く殺っていたな。
実に惜しいことをした・・・。
そんな不穏な考えを顔には出さずに、黙々と部屋を片付けながら確認をする。
「やはり持ち出されたモノは特にはない。強いて言えば、サナを拘束していた紐や袋だな」
「分かりました。まあ、何かあれば後日でも構いませんので、気付いたことがあれば何時でもどうぞ」
「ああ、分かった」
そう応えたあとに、警備隊員が聞きづらそうに言った。
「・・・あの、サナ殿は---」
「意識は戻った。念の為、診療所に今日と明日は泊まる。俺もこれから支度をして向かうから、何かあればそちらへ来てくれ」
「了解しました。良かったです! では我々はこれで失礼します」
・・・サナは色んなヤツに愛されているな。
嫉妬してしまうくらい多くの住人に慕われている。
「早く元気な姿を見せないとな」
ヒョウガは家の鍵をしっかりとかけると、サナと自分の着替えなどのバッグをインベントリに突っ込んで、サナの眠る診療所へと向かうのだった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
476
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる