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この異世界に不幸があるわけない!

賭け

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「どうしたもんだか」
寮について元の姿になったアイリスが俺と向き合うようにお茶を飲む。
「この際、円城寺じゃなくても良いんじゃないか?」
そうだよ。
円城寺じゃなくても人くらいこの学校はわんさかいるんだから、別に円城寺にこだわらなくても。
アイリスは、「それが…」と申し訳なさそうに肩を下げた。
「コータが来る前から勧誘はしてみたけど…」
見つからなかったのか。
だから、俺がチームに入るっていた時あんなに嬉しそうだったのか。
「そういえば、マドカと知り合いっぽかったけどニホンではどういう関係だったの?」
「え?円城寺と」
アイリスが頬杖をつきながら口を尖らせた。
なになに、妬いて…。
「いや、別に深い意味はないから勘違いしないで」
ないわーと言いながら顔を引きつらせる。いや、そんな顔しなくてもいいだろ。
「はぁ…幼馴染だったんだ」
「オサナナジミ?なにそれ」
アイリスは首をかしげるので簡単に説明する。
「要するに、幼い頃からの友人ってこと?」
「まぁ、そんなところだ」
アイリスはへぇーと頷く。
円城寺…いや、円とは中学校に入学する前までは普通に仲が良かったけど、俺たちは疎遠になっていった。
元々、コミュ力と抜群の容姿が円を一気に人気者にさせた。
「高校進学をきっかけに円は引っ越して、一年経った後一度街で見かけたんだけどな…」
円がこの世界にいるってことは、なんらかの理由で亡くなったことになる。
それに、人と関わろうとしない円の性格もきになる。会えなかった間に何かあったのだろう。
そんな時、寮の玄関からノックする音が聞こえた。
こんな時間に誰なんだ?
「私、出るわ。トランスフォーム…」
アイリスが学校内での姿に変わると玄関へと向かった。
なんか、嫌な予感がする。
玄関から聞こえる騒々しい音とかすかに聞こえるアイリスともう一人の声。
言い争ってる?

「あら?あなた噂の転入生じゃない」

入ってきたのはアイリスではなく体格の良い女性だった。
しかも、この声に覚えがある。
あれじゃね?アイリスに蹴りを入れてた。
うわ、あんな太い足に蹴られたら痛そー。それに、濃いメイクは化け物みたいだな。
「…初めまして、こんばんは」
失礼のないようには言った自信がある。
大丈夫だ。
大丈…
「この私を知らないですって?」
えええ、なんか怒ってるんだけど。
知らねえよ。ここに来たばっかなのに知るわけないだろ。
つか、アイリスは何してんだよ。
「…はい、なにせここにはつい最近来たばかりなので」
「ふぅーん…まぁ、いいわ」
女は、アイリスの座っていた椅子に腰掛け足を組んだ。
あの…なんだその…太い足で組まれても。
「私は、プラシリア・フォン・ガバニール。アイリスに聞けば詳しいこと教えてくれるはずよ」
プラシリアはくくくと笑う。
「俺は、相澤孝太です…」
「コータね覚えたわ」

「何しに来たのよ、プラシリア!!」

おっせーよ。となるくらいアイリスは登場が遅かった。
俺は、プラシリアの背後からアイリスを覗くととんでも無い姿になっていた。
いつの間にか元の姿の服装なのだが、露出狂がさらに露出狂になったかのように服が所々破けている。
目のやり場に困るだろ。
「いや、あなたがチームを結成させようとしてるなんて話を聞いちゃって?」
「トランスフォーム!ここで、あんたを…」
アイリスは、制服姿になり手にはバズーカが握られていた。
「いいわ、だったら私も」
プラシリアは、手から何か紫色の液体が出てきた。
これも魔法?
つか、アイリスこんな狭いところであんな技やるつもりか?
ふざけんなよ!!
せっかくの宿を壊されてたまるか!
「デーモンズタイ」
今日は、魔法を使ってなかったから使える!
それにしても…一気に二人に使うとすぐ疲れるな。
「ちょっと、コータ解きなさいよ」
「魔法が使えない?」

「バカかお前ら!宿ぶっ壊したら許さねえからな」

俺の気迫に二人は黙った。
「面白いわ、あなたそのレベルの魔法が使えるだなんて」
プラシリアが笑う
「けど、もう魔力尽きるんじゃ無い?」
ドキッとした。
咄嗟に魔法を解いたがプラシリアは見透かしたような表情を浮かべた。
「それじゃ、せっかくの能力も意味を持たないわね」
プラシリアは小さくテレポーテーションと言うと去って行った。
アイリスは、ガクンと座り込んだ。息も荒い。
何者だんだ。アイツ。


それから、一週間。俺たちは、毎日毎日円城寺の元へ行っては勧誘を続け見事に玉砕。
「また来たよ…」
ついにはウザがられるまでに。円城寺もだんだん俺たちから逃げるようになった。
俺は大丈夫なのだが、アイリスのメンタルがズタボロで寮に帰っては暴飲暴食を繰り返している。
それを俺が止める繰り返し。
それに並行して二ヶ月に一回行われるといわれるトーナメント戦が近づいていた。
クラス内もピリピリしており、予選であるクラス内でのトーナメント戦を明日に控えていた。
「あの、プラシリアも代表になるんだろ?」
「あの人は強いからね」
プラシリアの能力は、毒らしい。
体からあらゆる毒を生み出し攻撃する。そんなプラシリアの武器は無いらしい。
いや、正確には使っているところが見たことがなく隠し持っている可能性もあるとアイリスが言っていた。
アイリスと俺は今日の昼休みも円城寺のところへ向かっていた。
「良い加減にして下さい…」
「お願いだから!!マドカがチームに入ってくれないと困るの」
アイリスが土下座しそうな勢いで円城寺に抱きつく。
「しつこい!もう」
「じゃあ、賭けをしない…?」
何言ってんだ?
ついに、頭までイカれたのか?
「は?」
「トーナメント戦で私たちのどちらかがマドカに勝ったらチームに入って!」
……。
「マドカが勝ったらもう、しつこくしないからぁぁぁあ!!!!」
わんわん泣きだすアイリスを今すぐにでも引っ張って帰りたい。
周りも好奇の目で見てるし、円城寺なんて嫌そうにアイリスを睨んでる。
他人のふりでもしようかなぁ。
「わかったよ!わかったから離れて静かにして」
「本当!!やったー」
喜んでるアイリスの首根っこをつかんで引きずるとジタバタアイリスが暴れ始めた。
それでもズルズル引きずりいち早くこのバカを連れて帰りたかった。
こっちだって明日の練習がしたいんだよ!

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