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第一章 奏でられる運命の終わりと始まり
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誰も動かない中、静寂を破って石を拾ったのは背を向けていた父だった。ゆっくりと拾われた赤い宝石は近くの机へ無造作に放られ、澄み切った音を立てる。真っ暗な部屋に響く音を機に、止まっていた時間が動き出した。
血の気が失せた顔でリリスはがくりと膝をつく。その様子には目もくれず、父は興味が失せた顔で話の終わりとリリスの退出を告げた。
「確かにご命令を承りました、父様──いえ、サーシャ家当主、ロイド様……」
自分の声を遠くで聞きながら、リリスはふらふらと立ち上がった。何度かよろけて部屋の中のものにぶち当たりながら扉へと歩いていく。なんとか扉にたどり着き、メイドによって開かれていた扉からよろめき出た。
なかなか閉められない扉を怪訝に思い、ふとリリスが振り返ると、後ろから近づいてくる気配があった。いつの間にか椅子を立ったロイドは扉の前で震えるリリスに冷たい一瞥をくれたあと、ゆっくりと目の前へと立つ。次に彼が投げかけた言葉は、リリスを絶望のどん底へと突き落とすものだった。
「お前がやけに懐いているルディオとセレナだが、お前が相手探しの旅に出るよう提案したのはあの二人だ。 お前が帰ってくるまで当主の印を預かることもな。我等はそれに同意した。ゆえにこれは一族の総意だ。悪く思わんように」
お前が無事相手を見つけて帰って来られることを祈っている──全く感情の込もらないロイドの言葉を最後に、扉は目前で閉められた。ガチャン、と重苦しい金属のぶつかる音が空しく響く。壁際で揺れる光はリリスの影を揺らめかせ、人影のない廊下は孤独感をいっそう大きくさせた。
そこからはもうどうやって自室へ戻ったのかも覚えていない。憔悴しきったリリスは部屋にたどり着くなりベッドに倒れこむ。胸は張り裂けそうなほど痛むのに、不思議と涙は一粒もこぼれてこなかった。
誰も信じられなかった。リリスは心のどこかで慢心していたのだ。 甘えていたのかもしれない。当主の印さえあれば、相手は見つけられなくてもサーシャ家にいるぐらいはできるだろう。家を追い出されても、ルディ伯父やセレナ伯母のところへ逃げ込めば、自分の居場所ぐらいはあるだろう。そう思っていた。
だがそれは違った。逃げ込もうと思っていた相手、その人たちからリリスは拒絶されたのだ。自分たちのところへ来るな、甘えるな、と。あれだけ自分を縛っていた足枷はいとも簡単に外された。思いもよらなかった形で、しかもサーシャ家とのつながりも一緒に外して、あっけなくリリスの元から去っていってしまった。今になってその存在の大切さに気づいても、一度手から零れ落ちてしまったものはもう戻ってこない。
「わたし、馬鹿みたい……っ!」
はは、と乾いた笑いが漏れる。少し考えればわかるはずだったのに、そんなこともわからなかった甘さがこの事態を招いた。その結果、家族にも親戚にも捨てられた。もう、自分に残っているものは何もない。今自分にできることは父に言われたとおり、ただ静かに明日の夜ここから立ち去ることだけだ。それがリリスに残された唯一の道だった。
考えれば考えるほど父の言葉が次々に思い出され、ずきりと胸が痛む。もう何も考えたくなくて、リリスは頭痛のし始めた頭をゆっくりと枕にうずめた。気だるい体が求める眠気に身を委ね、そっと目を閉じる。先ほど告げられた言葉など夢だったら、いっそ全部忘れてしまえたら──そう願いながら。
決して叶わぬ願いとは、わかっていたけれど。
そうして次の夜、リリスは父の言葉どおり、住み慣れた屋敷を離れて旅に出たのだった。
血の気が失せた顔でリリスはがくりと膝をつく。その様子には目もくれず、父は興味が失せた顔で話の終わりとリリスの退出を告げた。
「確かにご命令を承りました、父様──いえ、サーシャ家当主、ロイド様……」
自分の声を遠くで聞きながら、リリスはふらふらと立ち上がった。何度かよろけて部屋の中のものにぶち当たりながら扉へと歩いていく。なんとか扉にたどり着き、メイドによって開かれていた扉からよろめき出た。
なかなか閉められない扉を怪訝に思い、ふとリリスが振り返ると、後ろから近づいてくる気配があった。いつの間にか椅子を立ったロイドは扉の前で震えるリリスに冷たい一瞥をくれたあと、ゆっくりと目の前へと立つ。次に彼が投げかけた言葉は、リリスを絶望のどん底へと突き落とすものだった。
「お前がやけに懐いているルディオとセレナだが、お前が相手探しの旅に出るよう提案したのはあの二人だ。 お前が帰ってくるまで当主の印を預かることもな。我等はそれに同意した。ゆえにこれは一族の総意だ。悪く思わんように」
お前が無事相手を見つけて帰って来られることを祈っている──全く感情の込もらないロイドの言葉を最後に、扉は目前で閉められた。ガチャン、と重苦しい金属のぶつかる音が空しく響く。壁際で揺れる光はリリスの影を揺らめかせ、人影のない廊下は孤独感をいっそう大きくさせた。
そこからはもうどうやって自室へ戻ったのかも覚えていない。憔悴しきったリリスは部屋にたどり着くなりベッドに倒れこむ。胸は張り裂けそうなほど痛むのに、不思議と涙は一粒もこぼれてこなかった。
誰も信じられなかった。リリスは心のどこかで慢心していたのだ。 甘えていたのかもしれない。当主の印さえあれば、相手は見つけられなくてもサーシャ家にいるぐらいはできるだろう。家を追い出されても、ルディ伯父やセレナ伯母のところへ逃げ込めば、自分の居場所ぐらいはあるだろう。そう思っていた。
だがそれは違った。逃げ込もうと思っていた相手、その人たちからリリスは拒絶されたのだ。自分たちのところへ来るな、甘えるな、と。あれだけ自分を縛っていた足枷はいとも簡単に外された。思いもよらなかった形で、しかもサーシャ家とのつながりも一緒に外して、あっけなくリリスの元から去っていってしまった。今になってその存在の大切さに気づいても、一度手から零れ落ちてしまったものはもう戻ってこない。
「わたし、馬鹿みたい……っ!」
はは、と乾いた笑いが漏れる。少し考えればわかるはずだったのに、そんなこともわからなかった甘さがこの事態を招いた。その結果、家族にも親戚にも捨てられた。もう、自分に残っているものは何もない。今自分にできることは父に言われたとおり、ただ静かに明日の夜ここから立ち去ることだけだ。それがリリスに残された唯一の道だった。
考えれば考えるほど父の言葉が次々に思い出され、ずきりと胸が痛む。もう何も考えたくなくて、リリスは頭痛のし始めた頭をゆっくりと枕にうずめた。気だるい体が求める眠気に身を委ね、そっと目を閉じる。先ほど告げられた言葉など夢だったら、いっそ全部忘れてしまえたら──そう願いながら。
決して叶わぬ願いとは、わかっていたけれど。
そうして次の夜、リリスは父の言葉どおり、住み慣れた屋敷を離れて旅に出たのだった。
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