あの湖で、君と

kiwi(キウイ)

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3.帰郷のきっかけ、往診の始まり

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  オリバーは育ったこの田舎町が苦手だった。いつも見張られているような閉塞感、人々の詮索的な眼差し。

 だから都会の高校に行ってからは、ほとんど帰ることはなかったし、医大を卒業し付属病院での忙しくも充実した日々を送りだしてからは、さらに一層足が遠のいていった。

 父の小さな医院のことは、同じ医者として気にならないわけではなかった。看護師だった母は、オリバーが十代の時にすでに亡くなっているし、昔からいる高齢のスタッフたちも引退し、最後のほうは父がほとんど一人で切り盛りしている状態だったから。

 後ろ髪を引かれながらもオリバーは日々の暮らしに没頭していたが、ある日父が倒れたという知らせをもらって、その生活は一変することになる。

(父さん、父さん!!)

 オリバーが父のもとに着いた時には、すでに丸三日以上経っていた。町にはちゃんとした入院施設が父の医院しかなかったため、父は近郊の都市の大病院に搬送されていた。

 父は倒れたが、亡くなったわけでもない。致命的なダメージがあったわけでもなかった。特に何の異常もなかったため意識を回復しそうな気もしたが、変わらず今も父は眠り続けている。

 オリバーは、当面の間医院を休業することにした。残ってくれていたわずかなスタッフたちには、紹介状を書いて新しい職場をあっせんした。

 そうして全てが去りガランとした建物の中で、オリバーが一人佇んでいた時だった。

 「オリバー・モーガン様でいらっしゃいますか?私、エリック・アッシャーウッドの秘書のベンジャミンと申します」

 不機嫌を全身で体現したような男が、休業の看板も無視して現れた。

 「エリック様はあなたのお父様の治療を定期的に受けておられました。今、それを止められては困るのです」

 だから代わりにオリバーがやるように、と彼は言った。オリバーは高圧的な物言いにムッとした。彼はオリバーが断るとは思っていないようだった。

 「ですが、もうこの医院は閉めることになったんです!!その依頼はお受けできません!!」

 長年にわたり父に世話になっておきながら、父の容体を気遣うことすらしないベンジャミンに対し苛立ちが募った。

 しかし、断固として拒否するオリバーに対し、ベンジャミンは詫びるどころか、突如激昂した。

 終始ぼそぼそと喋っていたはずの声が、一瞬にして爆発したのだ。

 「あなたの父上は、エリック様を完治させる義務があるのです!!元はといえば、それはっ、あっ、だっ!!」

 (オレのせい?)

 どういう意味だ。聞こうとした瞬間、ベンジャミンは我に返ったように、またぼそぼそとした声に戻った。

 「いえ、なんでもありません。失礼いたしました」

 オリバーが問い詰めようとしたが、ベンジャミンはその事については絶対に口を開くことはなかった。代わりに彼は、まるで切り札を切るかのように冷徹にオリバーに告げた。

 「この医院を再興させるためでしたら、私共は何でもいたします。資金の件、スタッフの件、全てサポートいたします」
 
 そこまで言われて、オリバーの反論は喉の奥に引っ込んだ。
 再興のための全額支援。ベンジャミンと彼の雇い主は、父の医院を守るため、そこまでしてくれるという。金持ちの酔狂な行動だとしても、正直その申し出はありがたかった。

 そして、謎の「あなたのせい」という言葉から、エリックという人と自分に、どんな因縁があるというのか俄然興味が湧いてきていた。真相を知るためにも、オリバーは、その要求を呑むしかなかった。

 「……わかりました。エリック様を診ましょう」

 フン、と偉そうに鼻を鳴らしたベンジャミンの態度を見て、融資の件は後で書面を詳しく確認するべきだな、と思った。
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