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そして(イザベラ視点)
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※イザベラ視点
エレインが学校を卒業したらすぐにでも結婚したいと、兄は強く主張した。
しかし、幼い頃から侯爵家の次男と婚約して、随分前から卒業と同時に結婚することが決まっていた私と違い、二人が婚約したのは卒業の半年前。
婚約から一年は経ってからでないと、結婚式の準備が間に合わないと言われ、しぶしぶ兄は主張を諦めた。
その代わりに、二人でいる時はまるで、今生の別れを惜しむように、エレインとイチャイチャするようになった。
ある日、屋敷の庭園で、いつものようにボードゲームに勤しんでいる二人を見かけた。
私は生暖かい目で、離れたところから見守っていた。
しかし、どこかおかしい。
互いに自分の手の内を見せないように、向かい合って行うゲームなのに、盤を前に二人は隣り合って座っていた。
『んっ…ふぅ…あ…はぁ…ん…』
鼻から抜けるような声と、ぺちゃ、ぺちゃと響く水音。それに、ちゅ、ちゅ、と唇を合わせる音が聞こえた。
え、これ、キスしてるの?
しかも、結構深いやつだ。私は動揺してしまった。
重ねて言うが、ここはハイドリヒ邸の庭なのだ。使用人はうろうろしているうえ、両親も結構な頻度でここにやって来ることがある。そして、屋敷の窓からよく見える。
兄はどうでもいいが、エレインは見つかったら恥ずかしいだろう。
『あら、エレイン、来ていたのね!』
私はわざとらしい大声で、背後から現れてみせた。
途端に、兄を突き飛ばして離れるエレイン。勢いで椅子が倒れてしまった。
『あ、あら、イザベラ!帰っていらしたのね!ごめんなさい、気が付かなくて』
心なしか乱れた胸元を直しながら、うわずった声でエレインは言った。そしていたたまれなくなったのか、室内に行ってしまった。後に残された兄はというと、私を凝視している。これは、多分、邪魔しないで欲しかった、と言いたいのだろう。
邪魔されたくないなら、部屋に行けばいいのに。
私の心の声は、うっかり声に出てしまっていたらしい。またじっと見てきたかと思うと、ぽつりと兄は呟いた。
『……部屋で二人きりだと、僕が色々我慢できそうにない』
思わず、私は無言になってしまった。女の人に肉弾戦で迫られて逃げ回っていた兄が、あの鋼の理性とまで言われた兄が、発情期の真っ最中の雄の顔になっている。
人って変わるもんだなあ、と私は妙に感心してしまった。
ちなみに庭での出来事は、両親含め屋敷の者は皆知っていたようだ。温かい目で、見守られていたらしい。知っていたなら、教えて欲しかった。
そして何だかんだで約一年過ぎ、晴れて二人は結婚した。
私は、二人が上手くいっているものと疑いもなく、信じていた。
だから久し振りに会ったエレインに悩みを打ち明けられて、驚愕した。
ーーーまさか、二人がまだ結ばれていないなんて。
エレインが学校を卒業したらすぐにでも結婚したいと、兄は強く主張した。
しかし、幼い頃から侯爵家の次男と婚約して、随分前から卒業と同時に結婚することが決まっていた私と違い、二人が婚約したのは卒業の半年前。
婚約から一年は経ってからでないと、結婚式の準備が間に合わないと言われ、しぶしぶ兄は主張を諦めた。
その代わりに、二人でいる時はまるで、今生の別れを惜しむように、エレインとイチャイチャするようになった。
ある日、屋敷の庭園で、いつものようにボードゲームに勤しんでいる二人を見かけた。
私は生暖かい目で、離れたところから見守っていた。
しかし、どこかおかしい。
互いに自分の手の内を見せないように、向かい合って行うゲームなのに、盤を前に二人は隣り合って座っていた。
『んっ…ふぅ…あ…はぁ…ん…』
鼻から抜けるような声と、ぺちゃ、ぺちゃと響く水音。それに、ちゅ、ちゅ、と唇を合わせる音が聞こえた。
え、これ、キスしてるの?
しかも、結構深いやつだ。私は動揺してしまった。
重ねて言うが、ここはハイドリヒ邸の庭なのだ。使用人はうろうろしているうえ、両親も結構な頻度でここにやって来ることがある。そして、屋敷の窓からよく見える。
兄はどうでもいいが、エレインは見つかったら恥ずかしいだろう。
『あら、エレイン、来ていたのね!』
私はわざとらしい大声で、背後から現れてみせた。
途端に、兄を突き飛ばして離れるエレイン。勢いで椅子が倒れてしまった。
『あ、あら、イザベラ!帰っていらしたのね!ごめんなさい、気が付かなくて』
心なしか乱れた胸元を直しながら、うわずった声でエレインは言った。そしていたたまれなくなったのか、室内に行ってしまった。後に残された兄はというと、私を凝視している。これは、多分、邪魔しないで欲しかった、と言いたいのだろう。
邪魔されたくないなら、部屋に行けばいいのに。
私の心の声は、うっかり声に出てしまっていたらしい。またじっと見てきたかと思うと、ぽつりと兄は呟いた。
『……部屋で二人きりだと、僕が色々我慢できそうにない』
思わず、私は無言になってしまった。女の人に肉弾戦で迫られて逃げ回っていた兄が、あの鋼の理性とまで言われた兄が、発情期の真っ最中の雄の顔になっている。
人って変わるもんだなあ、と私は妙に感心してしまった。
ちなみに庭での出来事は、両親含め屋敷の者は皆知っていたようだ。温かい目で、見守られていたらしい。知っていたなら、教えて欲しかった。
そして何だかんだで約一年過ぎ、晴れて二人は結婚した。
私は、二人が上手くいっているものと疑いもなく、信じていた。
だから久し振りに会ったエレインに悩みを打ち明けられて、驚愕した。
ーーーまさか、二人がまだ結ばれていないなんて。
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