【完結】旦那様は忘れられない人がいる(R18)

にがうり

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そして(イザベラ視点)

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※イザベラ視点




 エレインが学校を卒業したらすぐにでも結婚したいと、兄は強く主張した。
 しかし、幼い頃から侯爵家の次男と婚約して、随分前から卒業と同時に結婚することが決まっていた私と違い、二人が婚約したのは卒業の半年前。
 婚約から一年は経ってからでないと、結婚式の準備が間に合わないと言われ、しぶしぶ兄は主張を諦めた。



 その代わりに、二人でいる時はまるで、今生の別れを惜しむように、エレインとイチャイチャするようになった。
 ある日、屋敷の庭園で、いつものようにボードゲームに勤しんでいる二人を見かけた。
 私は生暖かい目で、離れたところから見守っていた。
 しかし、どこかおかしい。
 互いに自分の手の内を見せないように、向かい合って行うゲームなのに、盤を前に二人は隣り合って座っていた。

『んっ…ふぅ…あ…はぁ…ん…』
 鼻から抜けるような声と、ぺちゃ、ぺちゃと響く水音。それに、ちゅ、ちゅ、と唇を合わせる音が聞こえた。

 え、これ、キスしてるの?
 しかも、結構深いやつだ。私は動揺してしまった。
 重ねて言うが、ここはハイドリヒ邸の庭なのだ。使用人はうろうろしているうえ、両親も結構な頻度でここにやって来ることがある。そして、屋敷の窓からよく見える。
 兄はどうでもいいが、エレインは見つかったら恥ずかしいだろう。

『あら、エレイン、来ていたのね!』
 私はわざとらしい大声で、背後から現れてみせた。
 途端に、兄を突き飛ばして離れるエレイン。勢いで椅子が倒れてしまった。
『あ、あら、イザベラ!帰っていらしたのね!ごめんなさい、気が付かなくて』
 心なしか乱れた胸元を直しながら、うわずった声でエレインは言った。そしていたたまれなくなったのか、室内に行ってしまった。後に残された兄はというと、私を凝視している。これは、多分、邪魔しないで欲しかった、と言いたいのだろう。

 邪魔されたくないなら、部屋に行けばいいのに。

 私の心の声は、うっかり声に出てしまっていたらしい。またじっと見てきたかと思うと、ぽつりと兄は呟いた。
『……部屋で二人きりだと、僕が色々我慢できそうにない』
 思わず、私は無言になってしまった。女の人に肉弾戦で迫られて逃げ回っていた兄が、あの鋼の理性とまで言われた兄が、発情期の真っ最中の雄の顔になっている。
 人って変わるもんだなあ、と私は妙に感心してしまった。

 ちなみに庭での出来事は、両親含め屋敷の者は皆知っていたようだ。で、見守られていたらしい。知っていたなら、教えて欲しかった。


 そして何だかんだで約一年過ぎ、晴れて二人は結婚した。
 私は、二人が上手くいっているものと疑いもなく、信じていた。

 だから久し振りに会ったエレインに悩みを打ち明けられて、驚愕した。
 ーーーまさか、二人がまだ結ばれていないなんて。

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