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未来へ(終)
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それからの私たちは、平穏な毎日を過ごした。
リヒャルト様は時々は具合が悪くなることはあっても、生活に支障のない程度に治まっていた。
「エレイン、来てくれてありがとう!話したい事が沢山あるの」
今日はイザベラの屋敷にお邪魔している。出産して時間も経ち、ようやく生活も落ち着いたので、遊びに来て欲しい、と誘われたのだ。
彼女は少し痩せたようだ。子育てで疲れているだろうから、最初は自粛しようと思ったのだが、「話し相手が欲しい」と強く言われては断れようもなかった。
とはいえ、久し振りにイザベラの顔を見て話が出来て、私も楽しかった。
しかし、イザベラがひとしきり旦那様の愚痴をこぼした後、私たち夫婦の話題に移り、雲行きが怪しくなってしまった。
「良かったわ…一時はどうなることかと、心配していたけど。丸く収まったみたいね。…本当に良かったわ。
ああ、でもエレイン、兄がしつこ過ぎる時は拒否してもいいのよ?いちいち付き合ってたら、貴女の体力が保たないわ」
どうして分かったのだろう。表情に出てしまったらしい。イザベラが声を上げて笑った。
「分かるわよ、婚約時代から兄は鬱陶しい程貴女にべったりしていたから。ウエディングドレスを決めるのにも口出ししてきて、先に進まないって母がぼやいてたもの」
確かに衣装合わせの時、リヒャルト様は珍しく饒舌だった。何十着も着替えさせられた遠い記憶が蘇る。
「…自分以外の男にあまり見られたくなかったんでしょうねぇ。凄い独占欲よね」
ニヤニヤ笑いながら、イザベラは私の胸元に視線をやった。…そういえば、やたら胸元のデザインにこだわっていた気がする。でも、リヒャルト様は気にし過ぎだと思う。
そう言うと、またまた、イザベラは笑った。
「それ、兄に言わない方が良いわよ」
…なんとなく、従った方が良い気がした。
「ま、さすがに妊娠したら兄も控えると思うから、それまでの間よ」
イザベラが断言した。
そうなったらそうなったで寂しくなると思う私も、大概おかしいのかもしれない。
そして、イザベラの予言が現実になる日は、割とすぐにやって来た。
妊娠が分かったその日、家族皆で大喜びしてくれた。
リヒャルト様は浮かれて、その場で子供用のベッドや衣服を注文しようとして、ヘンリエッタ様に止められていた。
今現在私は、出産までの月日を穏やかに過ごしている。
ある日、リヒャルト様が言ってくれた。
「僕と結婚してくれてありがとう。こんなに幸せな時が送れるとは、昔は夢にも思わなかった」
私も同じ気持ちだった。好きな人と結婚出来て、彼の子供を産める人生が私にやって来るとは、昔は考えもしなかった。
子供の頃の夢とは違った生活になってしまったけれど、とても幸せだ。
この幸福がずっと続きますように。
私は大きくなってきたお腹をさすりながら、リヒャルト様の唇にキスをした。
(終)
リヒャルト様は時々は具合が悪くなることはあっても、生活に支障のない程度に治まっていた。
「エレイン、来てくれてありがとう!話したい事が沢山あるの」
今日はイザベラの屋敷にお邪魔している。出産して時間も経ち、ようやく生活も落ち着いたので、遊びに来て欲しい、と誘われたのだ。
彼女は少し痩せたようだ。子育てで疲れているだろうから、最初は自粛しようと思ったのだが、「話し相手が欲しい」と強く言われては断れようもなかった。
とはいえ、久し振りにイザベラの顔を見て話が出来て、私も楽しかった。
しかし、イザベラがひとしきり旦那様の愚痴をこぼした後、私たち夫婦の話題に移り、雲行きが怪しくなってしまった。
「良かったわ…一時はどうなることかと、心配していたけど。丸く収まったみたいね。…本当に良かったわ。
ああ、でもエレイン、兄がしつこ過ぎる時は拒否してもいいのよ?いちいち付き合ってたら、貴女の体力が保たないわ」
どうして分かったのだろう。表情に出てしまったらしい。イザベラが声を上げて笑った。
「分かるわよ、婚約時代から兄は鬱陶しい程貴女にべったりしていたから。ウエディングドレスを決めるのにも口出ししてきて、先に進まないって母がぼやいてたもの」
確かに衣装合わせの時、リヒャルト様は珍しく饒舌だった。何十着も着替えさせられた遠い記憶が蘇る。
「…自分以外の男にあまり見られたくなかったんでしょうねぇ。凄い独占欲よね」
ニヤニヤ笑いながら、イザベラは私の胸元に視線をやった。…そういえば、やたら胸元のデザインにこだわっていた気がする。でも、リヒャルト様は気にし過ぎだと思う。
そう言うと、またまた、イザベラは笑った。
「それ、兄に言わない方が良いわよ」
…なんとなく、従った方が良い気がした。
「ま、さすがに妊娠したら兄も控えると思うから、それまでの間よ」
イザベラが断言した。
そうなったらそうなったで寂しくなると思う私も、大概おかしいのかもしれない。
そして、イザベラの予言が現実になる日は、割とすぐにやって来た。
妊娠が分かったその日、家族皆で大喜びしてくれた。
リヒャルト様は浮かれて、その場で子供用のベッドや衣服を注文しようとして、ヘンリエッタ様に止められていた。
今現在私は、出産までの月日を穏やかに過ごしている。
ある日、リヒャルト様が言ってくれた。
「僕と結婚してくれてありがとう。こんなに幸せな時が送れるとは、昔は夢にも思わなかった」
私も同じ気持ちだった。好きな人と結婚出来て、彼の子供を産める人生が私にやって来るとは、昔は考えもしなかった。
子供の頃の夢とは違った生活になってしまったけれど、とても幸せだ。
この幸福がずっと続きますように。
私は大きくなってきたお腹をさすりながら、リヒャルト様の唇にキスをした。
(終)
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