上 下
15 / 15

未来へ(終)

しおりを挟む
 それからの私たちは、平穏な毎日を過ごした。
 リヒャルト様は時々は具合が悪くなることはあっても、生活に支障のない程度に治まっていた。




「エレイン、来てくれてありがとう!話したい事が沢山あるの」 

 今日はイザベラの屋敷にお邪魔している。出産して時間も経ち、ようやく生活も落ち着いたので、遊びに来て欲しい、と誘われたのだ。

 彼女は少し痩せたようだ。子育てで疲れているだろうから、最初は自粛しようと思ったのだが、「話し相手が欲しい」と強く言われては断れようもなかった。
 とはいえ、久し振りにイザベラの顔を見て話が出来て、私も楽しかった。
 

 しかし、イザベラがひとしきり旦那様の愚痴をこぼした後、私たち夫婦の話題に移り、雲行きが怪しくなってしまった。
「良かったわ…一時はどうなることかと、心配していたけど。丸く収まったみたいね。…本当に良かったわ。
ああ、でもエレイン、兄がしつこ過ぎる時は拒否してもいいのよ?いちいち付き合ってたら、貴女の体力が保たないわ」
 どうして分かったのだろう。表情に出てしまったらしい。イザベラが声を上げて笑った。
「分かるわよ、婚約時代から兄は鬱陶しい程貴女にべったりしていたから。ウエディングドレスを決めるのにも口出ししてきて、先に進まないって母がぼやいてたもの」
 確かに衣装合わせの時、リヒャルト様は珍しく饒舌だった。何十着も着替えさせられた遠い記憶が蘇る。
「…自分以外の男にあまり見られたくなかったんでしょうねぇ。凄い独占欲よね」
 ニヤニヤ笑いながら、イザベラは私の胸元に視線をやった。…そういえば、やたら胸元のデザインにこだわっていた気がする。でも、リヒャルト様は気にし過ぎだと思う。
 そう言うと、またまた、イザベラは笑った。
「それ、兄に言わない方が良いわよ」
 …なんとなく、従った方が良い気がした。
 
「ま、さすがに妊娠したら兄も控えると思うから、それまでの間よ」
 イザベラが断言した。
 そうなったらそうなったで寂しくなると思う私も、大概おかしいのかもしれない。





 そして、イザベラの予言が現実になる日は、割とすぐにやって来た。
 妊娠が分かったその日、家族皆で大喜びしてくれた。
 リヒャルト様は浮かれて、その場で子供用のベッドや衣服を注文しようとして、ヘンリエッタ様に止められていた。

 今現在私は、出産までの月日を穏やかに過ごしている。
 
 ある日、リヒャルト様が言ってくれた。
「僕と結婚してくれてありがとう。こんなに幸せな時が送れるとは、昔は夢にも思わなかった」
 私も同じ気持ちだった。好きな人と結婚出来て、彼の子供を産める人生が私にやって来るとは、昔は考えもしなかった。
 子供の頃の夢とは違った生活になってしまったけれど、とても幸せだ。

 この幸福がずっと続きますように。
 私は大きくなってきたお腹をさすりながら、リヒャルト様の唇にキスをした。



                               (終)
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

うちの聖女様は規格外のようです。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,251pt お気に入り:409

婚約破棄された令嬢は、実は隣国のお姫様でした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:45,336pt お気に入り:3,314

【3話・完結】娼館でABーC【R18】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:11

【完結】R18 狂惑者の殉愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:362

【完結R18】いいひとを好きになってしまいました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:72

処理中です...