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4.30日目
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暗ーい気持ちで始まる三十日目……。
快適な牢屋におさらばし、監視の厳重な塔にドナドナされました。シクシク、毛布も本も捨てられちゃった。
新しいマイホームは、塔の一番上にある薄暗い部屋。窓は上の方にひとつだけで、私の身長では椅子に乗っても届かない。扉の外には看守が常に見張っている。その看守、残念ながらピリピリした雰囲気で、チョロさは皆無。ち、札束で顔をはったいても無駄そうだな。金貨しか持ってないけど。
私が意気消沈してる様を、わざわざ王子が確認しにきた。そして、ふんっと鼻で笑って出ていった。王子のやつー、性格が悪いにもほどがあるわ。くそー。
ざらざらと波立つ心を落ち着かせるため、感謝の正拳突きを始める。百回でぜーぜーした。これ一万回って無理じゃね。
ジョギングと正拳突きは違う筋肉を使うのね、よく分かった。
ヒーヒー言いながらベッドに腰かけると、外に放っていたカミッコたちがワラワラと集まってきた。ゆらゆらわいわいしながら、調べたことを教えてくれる。そう、念話のようなものです。元々自分の抜け毛ですから、なんとなく通じ合うのです。便利です。
そっか、看守ふたりは無事に追放になったのね。打ち首を回避できてよかったよ。カミッコに金貨渡してもらったから、なんとか元気でやっていってくれればいいな。
弱みを握っていた大臣に、秘密のお手紙を書いて裏からこっそり手を回してもらったのです。
「カミッコー、これ大臣に渡してきて~。大臣が読み終わったら手紙は粉々にしてね」
『おはよう大臣君。
看守ふたりの追放を確認した。
約束の機密文書を返してやろう。
私はまだまだ秘密を知っているよ。
看守ふたりと私の身に何か起こったら
王都中にばらまいてやる。
せいぜい命がけで守ってくれよ。
なお、この手紙は自動的に消滅する。
成功を祈る。
悪役令嬢イグワーナ』
はっはっはっ、がんばって守ってくれたまえ。マジで。
さーてお次は。
あみあみあみあみ、三つ編みあみあみ。ふっふっふっ、できました。抜け毛による長ーい三つ編みロープ。イグワーナの髪が長くて剛毛でよかったよ。毎日抜け毛を大事に保管しておいたのですよ。
古今東西のお姫様は自分の三つ編みを伝って、塔を昇り降りするって決まってるんですよ。
とうっ
かっこよく三つ編みロープを上の窓に投げました。むなしく落ちてきました。カミッコが気を使いながら、スルスル~っと三つ編みロープを持ってよじ登って、窓枠に引っかけてくれました。
「ありがとね」
お礼を言うとふわふわゆらゆらするカミッコ。かわいい。
「えいさっ えいさっ」
三つ編みロープを登るけど、遅々として進みません。体が重いし腕力がないので腕がプルプルする。あっ……足が滑って下に落ちる……と思ったら、三つ編みロープが私の腰にクルクルっと巻きつき、窓枠まで持ち上げてくれました。
「ええーそれできるなら最初からやってほしかったよー」
気まずい感じでピルっと震える三つ編みロープ。……そうか、気を使ってくれていたのか……。ともかく登れたわけで、素晴らしい成果である。
が、窓がかなり小さい。ぐいぐいねじ込まないと通り抜けないタイトなジーンズ感。服が、引っかかる~。
「ごめん、もっかい下に降ろしてくれる?」
三つ編みロープに降ろしてもらって、質素なワンピースを脱ぎ、産まれたままの姿に。
「カミッコー、おねがーい!」
サタデーナイトなフィーバーの決めポーズをとる私に、カミッコたちが巻きついていく。
「闇に生まれ闇に帰す、髪を操る漆黒の堕天使! ヘアリーブラック! 見参!!」
全身をピッタリと覆う漆黒の髪製ボディースーツ。気分はキャットウーマン。
凹凸がなくてさえない感じではあるが……。ないんペタンではあるが……。クッ、イグワーナ……悪役令嬢なのに幼児体型ってどういうことなの。
ともかく、準備は整った。さあ、行ってみようか。
カミッコの助けを借りて漆黒の堕天使であり、厨二病でもある私は、王宮でも最上位の警戒がしかれている部屋に忍びこんだ。不寝番の見張りはカミッコがキュッと首に巻きついて眠らせている。
サラリとした手触りの天蓋をくぐると、まだあどけない顔をしたガンディーヤ第二王子がスヤスヤと眠っている。
「殿下、殿下、起きてください……」
ペチペチとやや強めに頬を叩くと、長いまつ毛が重たげに持ち上がる。焦点の合わない瞳は、闇に浮かぶ私の目に気づいて恐怖の色を浮かべた。叫ばれないように、すかさずカミッコが王子の口をふさぐ。
「殿下、大丈夫です。あなたの義理の姉になる予定だったイグワーナです。私と手を組んでください。そうすればあなたに王位を献上しましょう」
激しく瞬きを繰り返す王子。恐慌に陥る五秒前ってところか。
「コケイーノ第一王子殿下と聖女マリワーナは私がいずれ排除します。あなたは黙って見ているだけで、王位がその手に転がりこみます。王位が欲しいですか? 欲しければゆっくりと瞬きしてください」
激しく瞬きを繰り返す王子。……あれ?
「殿下はもしや王位がいらない?」
ゆっくりと瞬きをする王子。……がーん。
マジかよ
快適な牢屋におさらばし、監視の厳重な塔にドナドナされました。シクシク、毛布も本も捨てられちゃった。
新しいマイホームは、塔の一番上にある薄暗い部屋。窓は上の方にひとつだけで、私の身長では椅子に乗っても届かない。扉の外には看守が常に見張っている。その看守、残念ながらピリピリした雰囲気で、チョロさは皆無。ち、札束で顔をはったいても無駄そうだな。金貨しか持ってないけど。
私が意気消沈してる様を、わざわざ王子が確認しにきた。そして、ふんっと鼻で笑って出ていった。王子のやつー、性格が悪いにもほどがあるわ。くそー。
ざらざらと波立つ心を落ち着かせるため、感謝の正拳突きを始める。百回でぜーぜーした。これ一万回って無理じゃね。
ジョギングと正拳突きは違う筋肉を使うのね、よく分かった。
ヒーヒー言いながらベッドに腰かけると、外に放っていたカミッコたちがワラワラと集まってきた。ゆらゆらわいわいしながら、調べたことを教えてくれる。そう、念話のようなものです。元々自分の抜け毛ですから、なんとなく通じ合うのです。便利です。
そっか、看守ふたりは無事に追放になったのね。打ち首を回避できてよかったよ。カミッコに金貨渡してもらったから、なんとか元気でやっていってくれればいいな。
弱みを握っていた大臣に、秘密のお手紙を書いて裏からこっそり手を回してもらったのです。
「カミッコー、これ大臣に渡してきて~。大臣が読み終わったら手紙は粉々にしてね」
『おはよう大臣君。
看守ふたりの追放を確認した。
約束の機密文書を返してやろう。
私はまだまだ秘密を知っているよ。
看守ふたりと私の身に何か起こったら
王都中にばらまいてやる。
せいぜい命がけで守ってくれよ。
なお、この手紙は自動的に消滅する。
成功を祈る。
悪役令嬢イグワーナ』
はっはっはっ、がんばって守ってくれたまえ。マジで。
さーてお次は。
あみあみあみあみ、三つ編みあみあみ。ふっふっふっ、できました。抜け毛による長ーい三つ編みロープ。イグワーナの髪が長くて剛毛でよかったよ。毎日抜け毛を大事に保管しておいたのですよ。
古今東西のお姫様は自分の三つ編みを伝って、塔を昇り降りするって決まってるんですよ。
とうっ
かっこよく三つ編みロープを上の窓に投げました。むなしく落ちてきました。カミッコが気を使いながら、スルスル~っと三つ編みロープを持ってよじ登って、窓枠に引っかけてくれました。
「ありがとね」
お礼を言うとふわふわゆらゆらするカミッコ。かわいい。
「えいさっ えいさっ」
三つ編みロープを登るけど、遅々として進みません。体が重いし腕力がないので腕がプルプルする。あっ……足が滑って下に落ちる……と思ったら、三つ編みロープが私の腰にクルクルっと巻きつき、窓枠まで持ち上げてくれました。
「ええーそれできるなら最初からやってほしかったよー」
気まずい感じでピルっと震える三つ編みロープ。……そうか、気を使ってくれていたのか……。ともかく登れたわけで、素晴らしい成果である。
が、窓がかなり小さい。ぐいぐいねじ込まないと通り抜けないタイトなジーンズ感。服が、引っかかる~。
「ごめん、もっかい下に降ろしてくれる?」
三つ編みロープに降ろしてもらって、質素なワンピースを脱ぎ、産まれたままの姿に。
「カミッコー、おねがーい!」
サタデーナイトなフィーバーの決めポーズをとる私に、カミッコたちが巻きついていく。
「闇に生まれ闇に帰す、髪を操る漆黒の堕天使! ヘアリーブラック! 見参!!」
全身をピッタリと覆う漆黒の髪製ボディースーツ。気分はキャットウーマン。
凹凸がなくてさえない感じではあるが……。ないんペタンではあるが……。クッ、イグワーナ……悪役令嬢なのに幼児体型ってどういうことなの。
ともかく、準備は整った。さあ、行ってみようか。
カミッコの助けを借りて漆黒の堕天使であり、厨二病でもある私は、王宮でも最上位の警戒がしかれている部屋に忍びこんだ。不寝番の見張りはカミッコがキュッと首に巻きついて眠らせている。
サラリとした手触りの天蓋をくぐると、まだあどけない顔をしたガンディーヤ第二王子がスヤスヤと眠っている。
「殿下、殿下、起きてください……」
ペチペチとやや強めに頬を叩くと、長いまつ毛が重たげに持ち上がる。焦点の合わない瞳は、闇に浮かぶ私の目に気づいて恐怖の色を浮かべた。叫ばれないように、すかさずカミッコが王子の口をふさぐ。
「殿下、大丈夫です。あなたの義理の姉になる予定だったイグワーナです。私と手を組んでください。そうすればあなたに王位を献上しましょう」
激しく瞬きを繰り返す王子。恐慌に陥る五秒前ってところか。
「コケイーノ第一王子殿下と聖女マリワーナは私がいずれ排除します。あなたは黙って見ているだけで、王位がその手に転がりこみます。王位が欲しいですか? 欲しければゆっくりと瞬きしてください」
激しく瞬きを繰り返す王子。……あれ?
「殿下はもしや王位がいらない?」
ゆっくりと瞬きをする王子。……がーん。
マジかよ
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