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①サッシャ・ルスター
4.二か月目(後半)
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サッシャとディランは市場に遊びに来ている。サッシャはちょっといいレストランに誘ったのだが、
「そういうとこは、緊張して食べた気がしない。着て行く服もないし」
とディランが言ったので、市場で食べ歩きとなったのだ。サッシャは食べ歩きなどしたことがないので、朝からドキドキしている。どういう服装をすれば浮かないかディランに聞き、白いシャツに青いスカートを履いてきた。
「この服で大丈夫かな? 浮かない?」
「浮かない、とは言えないかな……。サッシャさんは美人だから何着ても目立つからね」
ディランはあっけらかんといい、サッシャは力が抜ける。ディランは市場に知り合いが多いようで、少し歩くと次々声をかけられる。
「おいおい、ディラン。べっぴんなお嬢さん連れて。なんか買って行けよ」
「ディラン、花ぐらい贈れよ」
ディランは、「それもそうだな」と言いながら、小さな花束を買ってくれる。青と白のかわいい小さな花。
「ありがとう」
サッシャは嬉しくて、そっと花に顔を近づけた。かすかな香りが愛らしい。
「こうしてもいいかもしれない」
ディランは鮮やかな青色の花を店先のカゴから抜くと、茎を丁寧にハンカチで拭いて、サッシャの結った髪にさす。ディランはじっくり見て、明るく言う。
「美人が特上の美人になった」
あまりに飾らない言い方に、サッシャは吹き出す。今までは、「絹のようになめらかな髪」とか、「君の瞳はきらめく海」だの、「薔薇のようにかぐわしい」などと褒められたものだ。詩的ではないが、直接的な褒め言葉は、悪くない。
ディランが売り子たちと軽口を言い合いながら、色んな店で料理を注文する。
「私がご馳走するって約束じゃない」
サッシャがむくれて言うと、ディランは困った顔で頭をガリガリかく。
「あー、好きな人と初めて出かけるのに、おごってもらうわけにはいかないよ」
ディランが照れながら言い、サッシャは目を丸くする。サッシャは言葉が出ない。
「さあ、あそこで食べよう」
ふたりは屋台の隣のテーブル席に陣取る。サッシャがお皿やフォークを並べてる間に、ディランが屋台から注文した料理を運んでくる。
「どうぞお嬢さま、前菜でございます」
ディランが気取った口調で、長い白アスパラガスを半分お皿に入れてくれる。
「白アスパラガスは今の季節が一番おいしいからね。バタークリームソースをからめて食べてみて」
白アスパラガスなら家でもよく出るな、そう思いながらサッシャは口に運んだ。
「あ、甘い。家で食べてるのより甘い。どうして?」
サッシャは目を丸くする。
「すぐそこの農家から仕入れてるから、新鮮なんだ。たいていの物は、とれたてがおいしいよね」
ディランはそう言いながら、あっという間に平らげた。
「次は平民の家でよく昼ごはんに食べるケーゼシュペッツレ。細切れのパスタにたっぷりチーズをからめたもの。食べすぎると胸焼けするから、少しだけね」
ディランはスプーンにふたすくいぐらいをサッシャのお皿に入れ、大半は自分のお皿にのせる。
「チーズがこれだけかかってるのに、優しい味ね。くどくない。確かに少しだけ食べるのがいいかも。子どもが好きそうな味だわ」
サッシャが少しずつ味わっている間に、ディランはペロリと食べてしまう。ディランは屋台から、背中に隠すように料理を持ってくる。
「次はドーンと肉料理、シュヴァインハクセ。どう、迫力あるでしょう。これをたくさん食べてもらいたかったから、シュペッツレは少なめにしたんだ」
テーブルに置かれた料理に、サッシャはのけぞる。
こんがり焼けた豚肉のかたまりに、ナイフが突き刺さっている。まさにドドーンと肉料理だ。見ただけで胸焼けがしそうな大迫力。サッシャはふたりで食べ切れるか不安になる。
ディランが手際よく肉をナイフでそぎ、茶色の濃いソースをかける。
「はい、どうぞ。豚のスネ肉ね。食べ切れなかったら家に持って帰るから、心配しなくていいよ」
サッシャは安心して食べ始めた。香ばしい肉と濃厚なソースはよく合う。サッシャはディランが入れてくれた分でお腹いっぱいになった。
ディランが心配そうにサッシャを見る。
「もうお腹いっぱいになった? デザートを頼もうかと思ってたんだけど」
「いえ、もうお腹いっぱい。これ以上は何も入らない」
サッシャはスカートの下のお腹が目立ってないか、気になって仕方がない。ディランはお皿を片づけると、サッシャを促す。腹ごなしの散歩はいい考えだ。サッシャは立ち上がって、ディランと並んで歩き始める。
ふたりは市場から少し離れたところにある公園に足を踏み入れた。公園には若い男女がたくさん歩いている。サッシャは少し気恥ずかしくなった。ディランはのんびり歩きながら聞く。
「サッシャさんはさあ、なんで働いてるの? 貴族女性は働かなくていいんだよね?」
「うーん、私は自立したいんだ。お金貯めて、家から出てひとり暮らししたい。父の顔色をうかがって、息をひそめて生きるのはいやなの」
サッシャは少し目を落として、青いスカートを軽くはたく。ディランは横目でチラリとサッシャを見る。
「お父さん厳しいの?」
「そうね、貴族としては普通じゃないかな。娘というより、商品だよね。いかに高く、いい条件で売りつけるか。そんな感じ。私はもう傷あり商品だから、父からの評価は最低ね」
サッシャは軽く息を吐いた。風がサッシャの髪についた青い花を揺らす。
「傷ってなにかあったの?」
「私の婚約者が妹を好きになってね。婚約解消したんだ」
「そんなのサッシャさん、何も悪くないよね」
ディランが呆れたような、少し怒ったような声で言う。
「まあ、貴族ってそういうもんなのよ」
「めんどくさいね」
「めんどくさいよ」
ふたりは顔を見合わせて苦笑いした。
「どうして料理人になったの?」
「食べるのが好きだから」
「ハハハハ、そうかー」
サッシャは花壇の花に優しく触れながら笑った。
「料理人なら、どこでも生きていけるし。おいしいごはん作ってあげれば、みんなご機嫌になるしね」
「よく王宮に勤められたね。平民はなかなか雇ってもらえないよね?」
「俺のおじさんが、ちょっと有名な冒険者なんだ。その伝手でもぐりこめた」
「へー、そんなことあるんだ。よかったね」
ディランはポケットに両手を突っ込んで、少し前屈みになり、上目遣いでサッシャを見る。
「おじさんの家に住ませてもらってるしね。おじさん滅多に帰って来ないから、ちょうどいいんだ。台所がすげー充実してんの。今度なにか作ってあげる」
「わー、ありがとう。私は料理したことないんだ」
サッシャはディランの目を見ると、肩をすくめる。
「貴族女性はしないんだよね、料理人が家にいるんだよね?」
「そうなの。ひとり暮らしするまでに、こっそり練習しないと。毎日外食だと、お給料がすぐなくなっちゃう」
「俺が教えてあげるよ。まあ、なんでも切って炒めれば、それなりの味になるから」
ディランがニヤッと笑う。
「あ、ありがとう。嬉しい。洗濯も練習しないと。掃除は大丈夫な気がする」
「洗濯は、頼んじゃえばいいんじゃない。俺も洗濯は金払ってやってもらってる。洗っても干す時間がないから」
「そうなんだ。色々勉強しないと。ひとり暮らしになったら、何もかも自分でやらなきゃいけないものね」
「王宮で働けるなら、そんなのすぐ覚えられるよ」
サッシャは漠然とした不安が、小さくなった気がした。
「まあ、いざとなったら、俺の家に転がり込んできなよ。おじさんの家だけどさ」
ディランがサッシャの手を握る。
「うん……」
サッシャはうつむく。頬が熱くなった。
サッシャとディランは、休みのたびに会うようになった。食べ歩きをしたり、ディランの家で料理を習ったり。サッシャは作るより、食べる方が得意ということが分かった。
「料理は俺がする。皿洗いはサッシャに任せた」
ふたりの間で協定がまとまった。
***
「申請書類のひな型を大幅に見直したのね。以前のと、新しいのを見せてくれる?」
サッシャはヘレナ女史に二枚の申請書を渡す。やり遂げた自信があるので、先月とは打って変わって落ち着いている。
「いいじゃないの。品目毎に申請させるのではなく、一枚の紙でたくさんの備品を申請できるようにしたのね。紙の削減になるし、手間が大幅に減るわ」
ヘレナ女史が書類を見比べながら、片ひじをついて頭をのせる。
「気づいたあとだと、どうしてもっと早くそうしなかったのかって思うのだけど。日々惰性で同じことを繰り返す人が多いから」
ヘレナ女史は淡々と言った。
「手柄はちゃんと他の人にあげたのね?」
「はい」
「それでいいわ。まだ目立つのは得策ではない。手柄を譲り、あなたと一緒に働くと得だと、周囲に思わせなさい」
「はい」
ヘレナ女史は木の棒をサッシャの方に向かって転がした。サッシャは机から落ちる寸前に受け止める。
「次の課題は、同僚たちの仕事の流れをまとめて資料にすること。同僚の反感を買わないよう、工夫しなさい」
「はい。ありがとうございます」
サッシャは木の棒を握りしめ、深々とお辞儀をした。
部屋を出てしばらくすると、ハイケが待っている。
「お疲れさま。ごはんでも食べに行かない?」
「いいですね、行きましょう!」
「あの、木の棒って結局なんなんですか?」
「ああ、あれねー。私のときは飴玉だったのよね。食べずに置いててよかったわよ」
ハイケが肩をすくめる。
「あの方ずっと禁煙してて口寂しいから何か口に入れてるのよ。特注ね。で、それを目をかけた若手にあげるの。まあ、大事に取っておきなさい」
「はい」
サッシャは木の棒をハンカチに包んで、カバンの奥に入れる。
サッシャとハイケは軽やかに歩き出した。
「そういうとこは、緊張して食べた気がしない。着て行く服もないし」
とディランが言ったので、市場で食べ歩きとなったのだ。サッシャは食べ歩きなどしたことがないので、朝からドキドキしている。どういう服装をすれば浮かないかディランに聞き、白いシャツに青いスカートを履いてきた。
「この服で大丈夫かな? 浮かない?」
「浮かない、とは言えないかな……。サッシャさんは美人だから何着ても目立つからね」
ディランはあっけらかんといい、サッシャは力が抜ける。ディランは市場に知り合いが多いようで、少し歩くと次々声をかけられる。
「おいおい、ディラン。べっぴんなお嬢さん連れて。なんか買って行けよ」
「ディラン、花ぐらい贈れよ」
ディランは、「それもそうだな」と言いながら、小さな花束を買ってくれる。青と白のかわいい小さな花。
「ありがとう」
サッシャは嬉しくて、そっと花に顔を近づけた。かすかな香りが愛らしい。
「こうしてもいいかもしれない」
ディランは鮮やかな青色の花を店先のカゴから抜くと、茎を丁寧にハンカチで拭いて、サッシャの結った髪にさす。ディランはじっくり見て、明るく言う。
「美人が特上の美人になった」
あまりに飾らない言い方に、サッシャは吹き出す。今までは、「絹のようになめらかな髪」とか、「君の瞳はきらめく海」だの、「薔薇のようにかぐわしい」などと褒められたものだ。詩的ではないが、直接的な褒め言葉は、悪くない。
ディランが売り子たちと軽口を言い合いながら、色んな店で料理を注文する。
「私がご馳走するって約束じゃない」
サッシャがむくれて言うと、ディランは困った顔で頭をガリガリかく。
「あー、好きな人と初めて出かけるのに、おごってもらうわけにはいかないよ」
ディランが照れながら言い、サッシャは目を丸くする。サッシャは言葉が出ない。
「さあ、あそこで食べよう」
ふたりは屋台の隣のテーブル席に陣取る。サッシャがお皿やフォークを並べてる間に、ディランが屋台から注文した料理を運んでくる。
「どうぞお嬢さま、前菜でございます」
ディランが気取った口調で、長い白アスパラガスを半分お皿に入れてくれる。
「白アスパラガスは今の季節が一番おいしいからね。バタークリームソースをからめて食べてみて」
白アスパラガスなら家でもよく出るな、そう思いながらサッシャは口に運んだ。
「あ、甘い。家で食べてるのより甘い。どうして?」
サッシャは目を丸くする。
「すぐそこの農家から仕入れてるから、新鮮なんだ。たいていの物は、とれたてがおいしいよね」
ディランはそう言いながら、あっという間に平らげた。
「次は平民の家でよく昼ごはんに食べるケーゼシュペッツレ。細切れのパスタにたっぷりチーズをからめたもの。食べすぎると胸焼けするから、少しだけね」
ディランはスプーンにふたすくいぐらいをサッシャのお皿に入れ、大半は自分のお皿にのせる。
「チーズがこれだけかかってるのに、優しい味ね。くどくない。確かに少しだけ食べるのがいいかも。子どもが好きそうな味だわ」
サッシャが少しずつ味わっている間に、ディランはペロリと食べてしまう。ディランは屋台から、背中に隠すように料理を持ってくる。
「次はドーンと肉料理、シュヴァインハクセ。どう、迫力あるでしょう。これをたくさん食べてもらいたかったから、シュペッツレは少なめにしたんだ」
テーブルに置かれた料理に、サッシャはのけぞる。
こんがり焼けた豚肉のかたまりに、ナイフが突き刺さっている。まさにドドーンと肉料理だ。見ただけで胸焼けがしそうな大迫力。サッシャはふたりで食べ切れるか不安になる。
ディランが手際よく肉をナイフでそぎ、茶色の濃いソースをかける。
「はい、どうぞ。豚のスネ肉ね。食べ切れなかったら家に持って帰るから、心配しなくていいよ」
サッシャは安心して食べ始めた。香ばしい肉と濃厚なソースはよく合う。サッシャはディランが入れてくれた分でお腹いっぱいになった。
ディランが心配そうにサッシャを見る。
「もうお腹いっぱいになった? デザートを頼もうかと思ってたんだけど」
「いえ、もうお腹いっぱい。これ以上は何も入らない」
サッシャはスカートの下のお腹が目立ってないか、気になって仕方がない。ディランはお皿を片づけると、サッシャを促す。腹ごなしの散歩はいい考えだ。サッシャは立ち上がって、ディランと並んで歩き始める。
ふたりは市場から少し離れたところにある公園に足を踏み入れた。公園には若い男女がたくさん歩いている。サッシャは少し気恥ずかしくなった。ディランはのんびり歩きながら聞く。
「サッシャさんはさあ、なんで働いてるの? 貴族女性は働かなくていいんだよね?」
「うーん、私は自立したいんだ。お金貯めて、家から出てひとり暮らししたい。父の顔色をうかがって、息をひそめて生きるのはいやなの」
サッシャは少し目を落として、青いスカートを軽くはたく。ディランは横目でチラリとサッシャを見る。
「お父さん厳しいの?」
「そうね、貴族としては普通じゃないかな。娘というより、商品だよね。いかに高く、いい条件で売りつけるか。そんな感じ。私はもう傷あり商品だから、父からの評価は最低ね」
サッシャは軽く息を吐いた。風がサッシャの髪についた青い花を揺らす。
「傷ってなにかあったの?」
「私の婚約者が妹を好きになってね。婚約解消したんだ」
「そんなのサッシャさん、何も悪くないよね」
ディランが呆れたような、少し怒ったような声で言う。
「まあ、貴族ってそういうもんなのよ」
「めんどくさいね」
「めんどくさいよ」
ふたりは顔を見合わせて苦笑いした。
「どうして料理人になったの?」
「食べるのが好きだから」
「ハハハハ、そうかー」
サッシャは花壇の花に優しく触れながら笑った。
「料理人なら、どこでも生きていけるし。おいしいごはん作ってあげれば、みんなご機嫌になるしね」
「よく王宮に勤められたね。平民はなかなか雇ってもらえないよね?」
「俺のおじさんが、ちょっと有名な冒険者なんだ。その伝手でもぐりこめた」
「へー、そんなことあるんだ。よかったね」
ディランはポケットに両手を突っ込んで、少し前屈みになり、上目遣いでサッシャを見る。
「おじさんの家に住ませてもらってるしね。おじさん滅多に帰って来ないから、ちょうどいいんだ。台所がすげー充実してんの。今度なにか作ってあげる」
「わー、ありがとう。私は料理したことないんだ」
サッシャはディランの目を見ると、肩をすくめる。
「貴族女性はしないんだよね、料理人が家にいるんだよね?」
「そうなの。ひとり暮らしするまでに、こっそり練習しないと。毎日外食だと、お給料がすぐなくなっちゃう」
「俺が教えてあげるよ。まあ、なんでも切って炒めれば、それなりの味になるから」
ディランがニヤッと笑う。
「あ、ありがとう。嬉しい。洗濯も練習しないと。掃除は大丈夫な気がする」
「洗濯は、頼んじゃえばいいんじゃない。俺も洗濯は金払ってやってもらってる。洗っても干す時間がないから」
「そうなんだ。色々勉強しないと。ひとり暮らしになったら、何もかも自分でやらなきゃいけないものね」
「王宮で働けるなら、そんなのすぐ覚えられるよ」
サッシャは漠然とした不安が、小さくなった気がした。
「まあ、いざとなったら、俺の家に転がり込んできなよ。おじさんの家だけどさ」
ディランがサッシャの手を握る。
「うん……」
サッシャはうつむく。頬が熱くなった。
サッシャとディランは、休みのたびに会うようになった。食べ歩きをしたり、ディランの家で料理を習ったり。サッシャは作るより、食べる方が得意ということが分かった。
「料理は俺がする。皿洗いはサッシャに任せた」
ふたりの間で協定がまとまった。
***
「申請書類のひな型を大幅に見直したのね。以前のと、新しいのを見せてくれる?」
サッシャはヘレナ女史に二枚の申請書を渡す。やり遂げた自信があるので、先月とは打って変わって落ち着いている。
「いいじゃないの。品目毎に申請させるのではなく、一枚の紙でたくさんの備品を申請できるようにしたのね。紙の削減になるし、手間が大幅に減るわ」
ヘレナ女史が書類を見比べながら、片ひじをついて頭をのせる。
「気づいたあとだと、どうしてもっと早くそうしなかったのかって思うのだけど。日々惰性で同じことを繰り返す人が多いから」
ヘレナ女史は淡々と言った。
「手柄はちゃんと他の人にあげたのね?」
「はい」
「それでいいわ。まだ目立つのは得策ではない。手柄を譲り、あなたと一緒に働くと得だと、周囲に思わせなさい」
「はい」
ヘレナ女史は木の棒をサッシャの方に向かって転がした。サッシャは机から落ちる寸前に受け止める。
「次の課題は、同僚たちの仕事の流れをまとめて資料にすること。同僚の反感を買わないよう、工夫しなさい」
「はい。ありがとうございます」
サッシャは木の棒を握りしめ、深々とお辞儀をした。
部屋を出てしばらくすると、ハイケが待っている。
「お疲れさま。ごはんでも食べに行かない?」
「いいですね、行きましょう!」
「あの、木の棒って結局なんなんですか?」
「ああ、あれねー。私のときは飴玉だったのよね。食べずに置いててよかったわよ」
ハイケが肩をすくめる。
「あの方ずっと禁煙してて口寂しいから何か口に入れてるのよ。特注ね。で、それを目をかけた若手にあげるの。まあ、大事に取っておきなさい」
「はい」
サッシャは木の棒をハンカチに包んで、カバンの奥に入れる。
サッシャとハイケは軽やかに歩き出した。
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