イヤな上司をなんとかする方法【③エピソード追加】

みねバイヤーン

文字の大きさ
11 / 18
②ルーニー・マーレン

5.三か月目(前半)

しおりを挟む
 仕事終了後、三人は小さなレストランで作戦会議をしている。紙を見ながらルーニーは口をとがらせる。

「なんか、いい案は集まらなかったわね」

 配送のついでに他部署の人たちに聞いてはみたが、キラリと光る改善要望は得られなかった。

「でも、ものすごく感謝されているのはよく分かった」
「そうなんです、こんなに褒めてもらえるなんて。がんばってよかったです」

 グレイスが頬をバラ色に染めてニコニコする。

「やっぱり、窓口に出しに行かなくてよくなったのが、他部署にとっては大きいみたいね」
「まあな、近くの部署ならいいけど、遠くの部署だと届けるの大変だしな」

「せっかく出しに行ってきて、部署に戻ってきたら、ごめーん忘れてたって言われて、また窓口に行くハメになることが多かったそうです」

「そんなの何回もされたら、午前中は他のことできないじゃないの」

 ルーニーは自分のことのようにプンプンする。

「清掃部に配属されたとき、俺はしょっちゅう忘れ物して、はるばる倉庫まで行ったり来たりしてたわ」
「ああー、あったねそういうの。それで、清掃に必要なものをまとめてバケツに入れるようにしたんだった」
「前日に各自がバケツに入れておけば、翌朝はそれ持ってすぐ清掃に向かえるから。部長に褒められたなー」

 ルーニーとキリアンは遠い目をして、ほうっと息を吐く。


「おふたりは以前から、改善されてきたんですね」
「そうねー、早く仕事終わらせて、さっさと帰りたかったからね」
「新人が色々言っても、真面目に聞いてもらえる環境だったし」

 ルーニーとキリアンは身を乗り出して、グレイスに説明する。

「そうなの、だってさ、ここだとライアン主任にしか言えないじゃない」
「ジェフリー部長に言ったら、検討します、で終了だからな」
「ジェフリー部長は、今まで通りのやり方で変えたくない人なのよ。変えるのって確かに面倒だから」

 グレイスはふたりを見て、目を潤ませる。

「私、おふたりと一緒に配属されてよかった。もしひとりだったら、毎日辛かったと思います」
「あの朝の封筒の山を仕分けるの、ずっとやったら虚しくなるな」

 キリアンがげんなりした表情で頷きながら言った。ルーニーは気を取り直して紙をトントンとまとめる。

「きっと、小さなことがきっかけになるはずなのよね。もう一度みんなの聞き取り結果を読んでみましょう」


 三人は紙を回し読みながら、話し合う。グレイスが一枚の紙に目を止めた。

「これ、どうでしょう。『外部に出す封筒は仕方ないけど、王宮内に出す封筒を一回で捨てるのはもったいない。使い回しができればいいなと思います』」

「ああー確かに。封筒も安いわけではないもんな。使い回しかー」

 キリアンは紙で顔を仰ぎながら宙を見上げて考える。ルーニーは首をかしげた。

「でも宛先書いてるもんね。同じ部署に送るなら使い回せるけど……」
「経理部から備品部に届いた封筒は、宛先が備品部ですから。備品部にあっても使えませんよね」

 グレイスも難しい顔をしながら同意する。キリアンが聞いた。

「その封筒を経理部に返せば?」
「誰が? 郵便部にその余裕はないわよ。いや、ちょっと待って。今なんか……」

 ルーニーが手帳にカリカリと書き始める。

「あのさ、封筒の上に紙を貼っちゃえばよくない? こう細長い枠がたくさん書いてある紙。それで、枠の一段に送り主、送付部署、日付を書くの。下に空いてる枠がたくさんあるでしょう。ここに、次の送り主、送付部署、日付を書けば、枠が埋まるまで封筒を色んな部署で使いまわせるわよ」

 キリアンとグレイスが手帳をのぞきこむ。

「それなら、経理部から備品部に届いた封筒を、備品部から財務部に送ったりもできるな」
「配送するときは、一番下の枠だけ見るようにすればいいんですね」

 キリアンとグレイスはパアッと顔を明るくする。ルーニーも早口で案を出す。

「上に書いてある宛先とかは、横線を引いて消してもらえば、配送を間違えなくていいかも」
「紙の枠が全部埋まったら、その上に新しい紙を貼れば、また使える」
「そこまで封筒がもつかしらねえ」

 ルーニーは渋い顔をした。封筒はそこまで丈夫ではないような気がする。

「でも、一回で使い捨てるよりは絶対いいよ。全部署で封筒代が節約できる」
「明日、ライアン主任に相談してみましょう」


 翌日、ライアン主任に小部屋でこっそり紙を見せながら相談したところ、大感激された。

「君たち三人、本当にすごいな。これさ、外部から王宮に届いた封筒も使えるじゃないか」

 ライアン主任は興奮して腕を大きく動かした。ルーニーはポンッと手を打つ。

「あ、そういえばそうですね。紙を貼るんですもんね。外部からの封筒も活用できるなら、封筒代が削減できそうですね」

 ライアン主任は、真剣な目で三人に指示する。

「ジェフリー部長にはうまいこと話しておくから、上に貼る紙の見本を作ってくれる? 他の部署にも見本を見せて聞いてみよう」


 他部署に聞いて見たところ、至急と書く欄、送付書類名を書く欄などを追加することになった。軽く聞いただけでも、各部署の評判は上々だ。

「封筒がもったいないなーと思ってたんだよ」
「最近の郵便部はすごいな」
「次はうちに異動してきなよ」

 三人は、ちょっといいレストランで祝杯をあげた。

「がんばった私たちに、かんぱーい」
「乾杯」

 三人は久しぶりに、心ゆくまで飲んで食べた。ひとつの山を越えた、そんな気がした。


 そんなおめでた気分の郵便部に、招待状の嵐が吹き荒れた。毎日、数百枚の招待状が王宮から届くのだ。しかも、全てが大至急だ。

 仕分け室でルーニーは頭を抱える。

「ギャー、なんでこんなに招待状が多いのよ」
「アレックス第三王子殿下が留学から帰国されて……」
「帰国祝賀会が急遽開かれるそうです」

 キリアンとグレイスが小さな声でコソコソ言う。ルーニーは目をむいた。思わず、本音を漏らしてしまう。

「なんで急に帰ってくるのよ」
「留学先で婚約者を見つける予定が、誰も気に入らなかったんだって」
「そんな無茶な」

「自立してるけど楚々としてる感じの女性が好きらしい」
「滅茶苦茶いってんな。要求が矛盾してるー」

 ルーニーは地団駄を踏む。地団駄なんて、子どものとき以来だ。ルーニーは深呼吸をしながら、落ち着こうと頭を振る。グレイスが招待状をパラパラと見ながら、顔を上げた。

「あ、ルーニーさん。大丈夫です。ほとんどが王宮外への発送です。まとめて業者に渡せばいいだけです」
「よかったー。王家の招待状となると、部署に一括ドーンと届けるわけに行かないもの。一人ひとり手渡しだったら、終わらないわ。家に帰れなくなるところだった」

 ルーニーは脱力して机に突っ伏す。


「ちょっと」

 後ろから声が聞こえた。

「招待状は私が担当するって決まってるんだけど」

 アンバーがえらそうな上から目線で手を伸ばしてくる。ルーニーはサッと立ち上がると、木箱をドサッとアンバーに渡した。アンバーは、フンッと鼻息を立てると、出て行った。


「何あれ、怪しくない?」

 三人はアンバーを監視することに決めた。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

処理中です...