わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり

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保護者?たちのいいわけ

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 ですから、俺は下手に口出ししないほうがいいと思ったんですよと、その男は言い訳めいた説明をした。

「………………」
「いや、睨まれても困るんですが……だっていちいち若者の会話に中年オヤジが口出ししてたら、それこそ老害だなんだとウザがられるでしょう?」

 弁解する男に、しかしイアンガードは厳しいまなざし。

「……フランツ……そち……貴様……」
「……なんで言い直すんですか……」
「何が老害じゃ馬鹿者め! 保護者責任というやつがあるではないか!」

 その激高にはフランツは内心(……誰が誰の保護者なんだ……)と、突っ込みたいのはやまやまだったが。もちろん彼は、怒れる主にくちごたえなどしない。

 現在、執務机の向こう側で立腹中の主が問題としているのは、さきほどの厨房での一幕。
 まあ、この場合の“保護対象者”は、おそらく第三王子及び、侍女のロアナであろう。そのふたりについては、フランツにも思うところがある。とにかく黙って側妃の話を聞いておくことにした。

「……(やれやれ)」
「フランツよ……わかっておろう? あの場にいた貴様よりほかに、ロアナの勘違いを即刻正してやれるものは他になかったであろう! 察しの良いそちなら状況はなんとなくわかっていたのでは!? なぜ目撃したことを話してやらなんだ⁉」
「いやー……」

 あの一連のできごとで、ロアナは、ウルツが自分を審査していたのではないかという怯えもそのままに、さらにそこに『自分は王子に抱き着くという無礼を働いたあげく、転倒しそうなところを受け止めてもらったのに弟王子と仲たがいをさせてしまった』……という誤解を抱くことになった。

 それなのに、唯一その場に居合わせ、すべてを目撃していたはずのフランツは、その彼女の思い込みを訂正してやらなかったとイアンガードは怒っているのだ。
 彼女は奥手で鈍くて朴念仁たる息子のことはせっつきたいが、ロアナを不安がらせたいわけではない。
 自分が二の宮をクビになるかもなんて不安はもってのほか。
 
 だが、フランツはそれは無理だと果敢に申し立てる。

「確かに俺もなんとなく、ロアナが何か誤解して怖がっているんじゃねぇかとは思いましたが……俺が見たのは、ただ、ずっともだもだしてぎこちないふたりの作業風景と、ウルツ殿下の声に驚いたロアナが急に跳びあがって、殿下に助けられた──これだけです。あんまり近くで見ていると、ふたりの邪魔だと思ったもんで距離を取ってましたしね。おまけにフォンジー様もやってこられるし、はっきりしたこともわからねぇしで、説明してやれるタイミングってもんがなかったんですよ……」

 料理長はイアンガードを相手にもはっきりと物申す。付き合いが長く、主がけして罪もない相手を八つ当たりなどでは裁かないと理解しているからこそできることだった。……が、フランツの目は、主をじっとりと見返した。

「……それに、そこまで知っておられるということは、どうせまた、殿下は魔法でウルツ様をでばがめしておられたんでしょう? なら、殿下がいってやればよかったではないですか」
「でばがめとは失敬な。そもそも、そのようなことをしたら、ウルツにこなたが覗き見ていたことがバレるではないか」
「………………」

 悪びれなく堂々のたまった主に、フランツはあきれてものも言えない。
 その表情を見たイアンガードは、さすがにまずいと思ったのかウッと渋い顔。聞かれてもいない言い訳を並べ立てる。

「……違うぞ、こなたは別に、二人の心を読んでいたわけではない。さすがに我が子でもない他人様の娘御の心中なぞ覗き見はしないし、それに、こたびはロアナと共にいたときのウルツの心は誓って読んでいない! ただ……ふたりの様子を注視した結果だな……」
「へぇ……はぁ、そーうでございますか」

 イアンガードの言葉に、まあつまり、やっぱり覗いていたんじゃねーかと。フランツがやれやれと首を振ったときのことだった。
 ふたりがいるイアンガードの執務室に、コンコンとちいさな音が響く。
 フランツに、『絶対ウルツには言うな』と、くぎを刺そうとしていたイアンガードは言葉をのんで、扉の方を見た。すると、続けて聞こえてきたのは、聞きなれたマーサの声。

「失礼いたしますイアンガード様。あの、今よろしいでしょうか?」

 面会を求める言葉に、イアンガードがすぐに、かまわぬと答えると。廊下側の扉が開き、その隙間からマーサが顔をのぞかせた。

「どうした? なにかあったのか?」
「いえ……あの、殿下、この者がお話したいことがあるそうなのですが……」

 そう言ったマーサが廊下のほうへ視線をやると、そこから現れたのは緊張した誰かの顔。
 その顔を見た瞬間、イアンガードは肘掛椅子の上でパチパチと瞳を瞬き、彼女の前に立っていたフランツは、おやという顔をした。

「ロアナ……? そち……どうした?」

 やってきたのはロアナだった。

 だが、普段、ロアナのような立場の侍女たちは、主であるイアンガードとのやりとりを、すべて侍女頭を通して行う。
 大切な資料も多い執務室には、主に召されなければ近寄れないことになっているのだが……にも拘らず、二の宮一厳格なマーサが、ロアナをここに連れてきたことがとても意外で。
 しかも、イアンガードとフランツは、たった今まで彼女やウルツのことについて話していたばかりである。
 ややとまどったイアンガードは、ほんの一瞬視線をフランツとマーサに送って。それからイスを立ち、少し白い顔色でそこに立っている娘を出迎えたのだった。

 

 
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