わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり

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兄弟たちの衝突 3

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 慌てた様子のフォンジーに迫られたロアナは、どちらかというと、ウルツの発言よりも彼の接近とその剣幕に驚いた。

「フォ、フォンジー様……?」
「ロアナ、兄上に何をされたの⁉」

 強く握られた腕は痛いほどではないが、慌てた様子の青年の顔が目の前。
 鼻と鼻がついてしまいそうな距離にある瞳は、一刻でも早く真実を知りたいと請うように揺れていて。その切実な色に、ロアナは圧倒されてしまった。
 それだけでなくとも、彼は王国でも名の知れた美青年。
 抜群のスタイルに完璧に思える顔の造形。白い肌はきめ細やかで、近づくと爽やかな香りがかすかにかおる。
 そんな彼の、まつげの一本一本までもがはっきり見える距離に踏み入って、平気でいられる娘などいるだろうか。
 いくらロアナがわきまえのある侍女であろうとも、見惚れてしまうし、同時にとてもいたたまれない……。
 間近に見たフォンジーが美しければ美しいほど、彼の視界に自分の不用意な顔が存在していて大丈夫かと恥ずかしさが首をもたげる。
 自分がフォンジーのまつげまで見えるということは、フォンジーからもそうであるということ……。

(ぇ……大丈夫なのわたし……? 大丈夫なの⁉ これって“お目汚し”……とかいうやつなのでは……!?)

 固まっていたロアナは、どうしてもフォンジーの麗しい顔と見つめあっていられなくて、ぎこちなく視線を下に逃がす。
 と、その居たたまれなさは、どうやらフォンジーにも伝わった。
 素直にぱっと赤くなった娘の顔を見て、青年はハッとする。

 自分がいつの間にか、彼女の両腕をつかんでいた。

「ぁ……ご、ごめんロアナ……!」

 というか、顔があまりに近すぎた。
 そのことを認識したとたん、恥ずかしそうにうつむいている娘同様フォンジーの頬もあっという間に朱色に染まる。※ロアナ見てない。
 青年はすぐにロアナから手を放し、慌てて後ろに一歩下がる。

「ご、ごめんねロアナ、僕、つい……。痛かった?」
「いえ……」

 フォンジーは不安そうに彼女の両腕を見るが。
 ロアナはまずは解放された両手をもちあげて、熱くなった自分の頬に触れた。が、その手はすぐにそのまま照れをごまかすように前髪を整えて。ここでやっと彼女の気まずそうだった視線がフォンジーに戻ってきた。

「申し訳ありません、あの……大丈夫でございます」

 ぎこちなく微笑みながらも、ロアナは自分の顔がまだ赤いのは分かっていた。
 侍女の自分が貴人に、しかも年下の王子に顔を赤くしているだなんて。恥ずかしいやら、不遜な気がするやらで、真っすぐフォンジーが見上げられなかった。

(──あら……?)

 しかしここで彼女はハタと気がついた。
 そういえば……先ほども同じようなことで驚いたことが何かあった。

「え……と……?」

 美貌の王子との接近で、正直記憶が消し飛んでしまいそうだが……。なんだかとても嫌な予感がして。

「? ……ロアナ?」

 引っかかりを覚えて動きをとめたロアナに、フォンジーは心配そうな顔。しかし、自分が少々強引なことをしてしまった手前、青年の勢いはやや沈静化。彼に見守られながら、ロアナは考えこむ。

(……そうだわ……さっき、ウルツ様とも同じような状況が……)

 ここで自分のビビりジャンプを思い出したロアナは、ハッとした。

 ……つまり、先ほどのウルツの謎の『身体に触れた』という謝罪は、あのとき彼が自分を受け止めてくれていたことを言っていたのだ。

(ぇ……な、なんて律儀なお方なの……?)

 そのことに思い当たったロアナは、一瞬呆然。
 あんなのは『触った』と謝られるようなことではない完全なる事故。
 これにはロアナはホッとした。つまり、ウルツにはなにも責められることはないということである。

(よかった……)

 フォンジーの剣幕をみて、このままでは兄弟のケンカがはじまってしまうのではと怖かった。
 自分にも兄弟がいるロアナは、兄弟ゲンカにはトラウマがある。
 口が悪い兄に、怒るとすぐに手を出す弟。二人がケンカになると、すぐに腕力に訴えるもので、彼女の家では血が流れることもしばしば。
 それを幼い頃から見ていたロアナは怖くて。できれば他人であっても兄弟ゲンカはしてほしくない。
 だが、これならきっとフォンジーも納得してくれるだろう。

 安堵したロアナは、しかしふと考えた。

(でも……そもそもどうしてあんなことになったんだった? 確か……わたしがウルツ様に驚いて跳びあがって……それで、ウルツ様に向かって倒れ掛かってしまっ、た……?)

 そのときなぜか、やけに弾力のあるものにぶつかったような記憶があるが、とっさのことでウルツの魔法を目撃していなかった彼女にはその辺りの記憶があいまいである。
 というわけで……。
 その辺りの記憶がすっぽり抜け落ちている娘が記憶を統合すると、こうなった。

「ぇ……つまり……わたしが(驚いて)ウルツ様に抱き着いた……抱き着いた⁉」
「え……?」

 自分の行動を整理してつぶやいていた娘は、自分の言葉にぎょっとする。当然その言葉をフォンジーも聞いていて、青年はあらんかぎりに目を見開いた。

「ロアナが……兄上に抱き着いたの……?」

 フォンジーは衝撃をうけ、絶句。
 しかし、魔法に助けられた段階を見落としているロアナの解釈によると、そうなってしまう。
 その事実(※勘違い)に、ロアナは震えあがった。

 ……つまり、そしられるべきは自分であったはずなのに、誤って王子に兄を責めさせたあげく、かの王子はそのことに対してはなんの異議も唱えずに去って行ってしまったのである。
 これには……兄弟ゲンカに過敏なロアナは愕然。罪悪感に喉もとを締め上げられる思い。

「っ……わ……わああああ……!」
「え……ロ、ロアナ……⁉」

 青ざめていたロアナはさらに顔色が悪くなり、懺悔の叫びが厨房中に響き渡った。
 突然床に沈み込んでしまった娘に、フォンジーが慌てふためいている。
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