【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり

文字の大きさ
183 / 192

182 辺境領ブレボーデンの寵児(=問題児)

しおりを挟む
 
 普通なら、こんな迷惑極まりない来城者は、即刻捕えればいい。
 公爵家の息子ともあろうものが、こんな夜間に王城に押し入ろうとは。その行為は、十分処罰に値する。
 だが、困ったことに……相手は大貴族メントライン家の嫡男というだけではなく、王国の最北部の辺境領ブレボーデンで、騎士位を与えられたフリード・アルバン・メントライン。
 この男は、その領主の右腕とも謳われる男なのである。

 ブレボーデンは、国王から国境防衛を任されていることもあって、国内でも特別な権力を持つ。
 国境を守るための強力な軍隊を擁し、過去、幾度も他国の越境攻撃にさらされ、鍛えられたその軍事力は、中央政権にも匹敵するほどと言われている。
 領主は忠義者だが、王都の武官たちとくらべると豪快で、悪い言い方をすると、まるで荒々しい山賊の親玉のような粗野な将軍。
 これがまた……ひどい筋肉至上主義の塊なのである。
 彼の治める地では、昔から武力が何よりも物をいい、彼が育てる騎士兵士は、皆その思想を脈々と受け継ぐ。
 厳しい訓練に打ち勝ったものこそが、上に立つに値すると讃えられ、重厚な筋肉が崇拝される。
 まあ……そんな地だ。
 
 そのような脳筋な領に、アルマンやグリゼルダがフリードを追いやったのは、まさに嫌がらせ以外の何ものでもない。
 現在の彼からは想像しがたいが、当時のフリードは、ありきたりな高慢な貴族の令息でしかなく、むしろ学問が得意な洗練された少年であった。
 しかしグリゼルダらは安易にも、公爵の嫡男が、過酷なブレボーデンで揉まれ、潰れてくれるのを願った。
 
 ──ところがだ。

 そんな叔母らの陰湿な企みが、見事に裏目に出たのは現在のフリードを見ていただければ明らかだろう……。
 叔母に辺境に追いやられた憐れな少年は、新天地で才能を開花。武に目覚め、鍛錬することに喜びを得て、とにかくその風土とは水が合った。
 生来の王様気質の負けん気も手伝って、フリードは誰かが自分より上に立つことを良しとせず。プライドと才能でメキメキ頭角を現し、その脳筋さは将軍にとにかく気に入られた。
 豪胆な将軍に目を掛けられた青年は、より筋肉を妄信。腕力を愛する厄介な男へと成長をとげたわけだが……。(「……領主……(なんてことをして下さった……)」※byグステル)

 そんな男が、今、王城に押し入ろうとしている。
 これは大変なことである。
 公爵という父をもつばかりか、将軍の後ろ盾までもつという恐怖の騎士の恐ろしさは、王都にも広く伝わってくるのだ。──つまり、暴君として。

 正直、一介の門番や兵士たちに手に負える存在ではない。

「ああああ……! 勘弁してください閣下!」
「勘弁してほしくば、開城せよ! それとも俺様に門を破壊してほしいのか⁉」
「そ、そんなことされたら俺たちは閣下を捕らえなくちゃいけないんですよ⁉」

 それが当然の職務とはいえ、正直なところ、こんな面倒な男に向かっていくのは門番たちは心底嫌だった。
 まず、取り押さえるだけでも一苦労なのは見て明らか。
 その後に発生するだろう、公爵家と辺境領とのごたごたも、考えるだけでもゾッとする。できればここは、ぜひ彼にはお引き取り願いたい、が……。
 拒む兵士らに強面で迫るフリードの目は、どう見ても目的を遂げるまでは、絶対に引かぬという意思を表す。
 鋭い眼光には、強い敵意がみなぎり、邪魔する者はなんぴとたりとも許さぬと言い放っているようだった。
 これには、居合わせた者たちは皆、誰もが泣きたくなった。この男は、彼らには手にあまりすぎる爆弾。ここで爆発させるも、阻止できず王城の中で爆発させるも、きっと地獄である。

 ……と、そんなときだった。

「……やれやれ……ブレボーデンの者どもの横暴ぶりは、いつもながら目に余りますな……」

 聞こえてきた静かな声。

「ぬ?」

 門番を威圧していたフリードが横を見ると、そこには中年の騎士。
 淡々と歩いてくる冷静なその顔を見て、門番たちがあからさまにホッとする。

「! ツィマーマン様!」

 フリードを冷たいまなざしで刺すその男は、グステルを連行した一行にいた例の王妃の騎士である。彼の背後には、十名ばかりの兵士らの姿もあった。
 警戒感が露わのフリードに、ツィマーマンは冷淡な顔で続けた。

「メントライン家のご子息が、このような時刻にいったい何事ですかな? ブレボーデンの者どもは、粗暴すぎて王城で守るべき規則すらご存じないのか? それとも、父君の教えが悪いのか? このようなことをなさっては、家名に泥を塗りますぞ」

 騎士の忠告は淡々としているが、しかしフリードはそんな言葉を素直に受け入れるような男ではない。

「黙れ! 貴様らこそ、このような時間に、一介の市民たる娘を無理やり連行していったではないか! それが王都での規則だとでも? これが国民に知られれば、王家の名に泥を塗るのは貴様らのほうだ!」

 火の玉のような怒りを露わにする男に、ツィマーマンは内心ではその厄介さを苦く思った。もちろんそれは顔には出さないが。

「ほう……やはりその件でいらしたのか……」

 タイミングからしても、そうではないかと思っていた。
 公爵の令息にせよ、辺境領の騎士にせよ、大きく言えば、結局の位置づけは国王の臣下である。それが投獄の危険を冒して王城前で騒ぎを起こすということは、相手にもそれだけの理由があるはず。
 ツィマーマンは、まずはその理由を、この男から聞き出したいと考えた。
 大貴族メントライン家の子息が、なぜ町民娘の危機に出しゃばって来たのか。
 その娘は、このメントライン家の男の妹グステル・メントラインの恋敵に当たるはず。
 これには何やら複雑な事情がありそうだ、と、ツィマーマン。ならばそれは、王妃の配下としては、ぜひ明らかにしておかなければならない。

 ──が。
 
 ここで騎士は、フリードの顔を見つめながら、ある違和感に首をひねる。

「……ところでフリード卿、なぜ格好を?」

 ツィマーマンが不可解そうに指摘したのは、フリードの顔。
 怒気露わなその顔を覆うは──なぜか、もっふもふの白髭。
 それはまるで、年末にトナカイに乗って子供たちに贈り物を届けに来るぽっちゃりおじいさんのような……。
 その違和感のある代物が、男の赤黒い髪色から考えても、どう見ても付け髭であることを察した騎士は、怪訝。
 だが、それを指摘された大男は、彼を横柄に睨みながら、叫ぶように吐き捨てる。

「っ愛ゆえだ‼」




しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

処理中です...