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第一章 極度の男性恐怖症な少女は悪役令嬢に転生する
第九話 母という存在
しおりを挟む「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、メアリー」
「お体の具合はどうですか?」
「大丈夫だと思う」
さすが、お嬢様。
高級ふかふかベッドの効果はすごいですねぇ。
久々にゆっくり寝た気がしますよ。
「良かったです。」
「実はお嬢様にお客様がいらっしゃいまして………」
「お客様………?」
まさか当主様じゃ………
「あ、旦那様ではございませんのでご安心ください!」
その言葉にほっとする。
当主様には申し訳ないですが、やはりしばらく………いえ出来れば一生お会いしたくないです。
………にしても当主様じゃないのはどちら様でしょう………?
「実はもういらっしゃるんです」
「………ね?奥様」
奥様!?
そ、それって………。
「具合は大丈夫?ユリア」
そこにいたのは、女神でした。
わたしを転生させた女神様とは別人ですが、でも、女神様みたいに美しかったんです。
緩やかに巻かれた金の髪、優しい眼差しをを宿す穏やかな薄桃色の瞳。
豊かな胸に折れそうなくらい細い腰。
まさにボンッキュッボンの美人さん。
思わず見とれてしまいました。
こういう方を傾国の美女とでも言うのでしょうか………。
まさかこんなに美しい人が本当にユリアスのお母様だなんて………!!
でも、本当にユリアスと正反対ですね………。
色も違いますし、タレ目ですし………。
「どうかしたの?」
「あ、い、いえ!な、なんでもないです!奥様!」
思わずそう返してしまいました。
そう、やらかしてしまったのです………。
彼女は悲しげに目をふせ
「………そうよね。もう母とは呼んでくれないわよね」
うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!違うんです!違うんですぅぅぅぅぅ!!
あああまりにも綺麗な方だったのでついぃぃぃぃぃ。
それに………。
私の“お母さん”はお母さんだけなんだもの。
だから、転生したばかりで急に現れた“ユリアスのお母様”を“私のお母さん”とすぐに認めることはできなかった。
だって、あまりにも違いすぎるから。
お母さんは普通の人だった。
でも、すごく優しかった。
そのことだけは覚えている。
だから、お母さんが死んだときは悲しかった。
そして、悔しかった。
お母さんに守られてばっかりで、私は何もできなかった。
する勇気もなかった。
甘えてばかりだった。
私にとって“お母さん”は何よりも大事だった。
それと同時にあの辛かった日々の象徴でもあった。
「ごめん………なさい………」
だから、私はまだあなたを………あなた方を家族として認識することはできないんです。
だって、あなたはユリアスのお母様だから。
月乃のお母さんじゃないから。
「ユリア………」
「あ………れ………」
なのに、どうして悲しくなるんだろう。
ポタリ、ポタリと流れていく液体。
それは紛れもなく、ユリアから溢れた涙だった。
「ごめんなさい………泣かせてしまうつもりはなかったの。そうよね、あなたはまだ何もわからないんだもの。急に現れた私を母と呼ぶのはできないわよね。困らせてしまうのは当然よね」
「ちが………」
困らせてるのは月乃。
私がユリアを消してしまったから。
だから、あなたは謝る必要はないんです。
謝るのは………私の方なのに。
「でもね、これだけは忘れないで。たとえ、あなたに記憶がないとしても、ユリアが私たちの可愛い娘に違いはないの。だから、無理に私たちを受け入れてくれなくても良い。私たちはユリアが幸せならそれで充分だから………ユリアがユリアじゃなくなったとしても、どうなったとしても私たちはあなたを愛してるから」
「………っ!」
ふわりと抱き締められながら、そう言われた。
『お母さんは私が邪魔じゃないの?』
お母さんが生きていたとき、聞いたことがあった。
だって、お母さんは私がいるせいであの人から逃れられないから。
私が普通じゃないから。
『どうして?』
『だって私がいるからお母さんは………。私が変だからっお母さんを困らせてばっかりで………』
『………そんなこと、誰がいったの?』
『へ………?』
誰かに言われた訳じゃない。
ただ、こんなやっかいな体質が嫌で、そんな自分が嫌いだった。
でも、お母さんは私を愛し続けてくれた。
いつだって、私の傍で守ってくれた。
『月乃は変じゃない。月乃はお母さんの可愛い娘に違いないんだから。困らせてなんかない。むしろ、お母さんが何もできないから、月乃に苦労をさせているんだもの。謝るのはお母さんの方。だから、月乃はそのままでいい。なにも気にしなくて良い。無理に治そうなんて思わなくて良いの。月乃がどうなったとしても、私は月乃の母親だから。お母さんは月乃のことを世界で一番愛してるから。だから、月乃のためならなんだってできるわ』
なんだか似ているなと思った。
全て同じじゃないけれど、なんだか似ている気がした。
だから気がついたら、その母という存在ににしがみついて泣いていた。
「ふっ……ぅ…………ふぐっ………ぅ」
「いいのよ、たくさん泣いて。甘えていいの。ずっと、ずっと………辛かったのね」
本当は寂しかった。
お母さんが死んで、ひとりぼっちで、誰も助けてくれなくて。
どうして死んじゃったの?って何度も何度も死んでしまったお母さんに問いかけた。
恋しかった。
母という存在が、優しさが、温もりが恋しかった。
誰も愛してくれない世界でひとりだった。
辛くて、かなしくて、死んじゃいたくて。
でも、できなくて………。
ずっと、ずっと………苦しかったの。
ねぇ、お母さん。
私は私のままでいいのかな?
いつか、いつかその時がきたら目の前のこの人を、お母さんじゃないとしてもお母様にしても………いいのかな………?
この人たちに甘えても良いのかな?
今はダメでも、許されなくても。
もしも、いつかが来るのなら私がユリアじゃなくても………その温もりを感じることは許されるのかな………?
前世と………決別しても良いのかな………?
新しい………人生を歩んでも良いのかな。
泣いて、ないて、ないて………。
やがて泣きつかれて私は彼女とメアリーに見守られながら眠った。
彼女はいつまでも私の頭を撫でてくれた。
久しぶりに感じた母の温もりは“お母さん”とは全然違うものだったけど、とても………優しかった。
****(おまけ。その頃のパパン)
「くぅ!どうしてなんだぁユリアぁ!パパだって………パパだっていつもユリアを思っているのにぃ!私だって抱き締めたい!ユリアの寝顔みたい!添い寝しーたーい!!やっぱり母か!?母がいいのか!?いっそ私も女装して………」
「良い雰囲気が台無しじゃないですか。あと、普通に気持ち悪いので境界を越えようとしないでください」
☆☆☆
実はパパンもドアの外にいたのでしたw
コメディが恋しいよわたしゃぁ
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