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第三章 ささえ
(4) いざ鹿児島
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ゴールデンウイーク二日目、いよいよ本土に遊びに行く日がやって来た。
元々前から、一度みんなで旅行したいな、とぼんやり思っていた。
そこに二週間くらい前、突然ナナ様が現れて、
「時が来たわ。今から動けば、きっと良い方向に彼女を導けるはずよ」
と告げてくれた。
そこで、まずは他のみんなに、そして遅れて梢ちゃんに、連休中のプチ旅行を提案したのだった。
一緒に遊べば、きっと梢ちゃんとも仲良くなれるはず。
そう強く信じて。
朝早く、わたしたちは島の北側にある空港に集合した。
みんなそれぞれ思い思いのおしゃれをして、きたる本土の旅行に臨もうとしている。
梢ちゃんは果たしてちゃんと来てくれるか、実は少しだけ心配だったけど、集合時間が近づいた頃に、遅れてすまなさそうに姿を見せた。
飛行機に乗っている間も、隣同士ではしゃぐわたしと美樹をよそに、野薔薇と早百合、そして梢ちゃんはどこか落ち着かない様子で座っていた。
中でも梢ちゃんは、途中何度かちらっと見た時には目をつぶって何かを呟いているようだった。
鹿児島空港に到着した後は、バスに乗って鹿児島市内へと向かう。
やがて中央駅のバスターミナルに降り立つと、そこでわたしたちが目にしたのは、今まで見たこともないような高いビルと、綺麗に整備された街の風景だった。
「着いたよ、鹿児島市!」
駅前広場に一足先に駆け出して、辺りをきょろきょろ見回し始める美樹。
遅れて追いつくと、まだ元気があり余っている様子で、駅ビルのてっぺんを指さした。
「じゃあ、早速乗ろうよ。アミュラン!」
急かす美樹を先頭に、わたしたちは駅ビルの最上階を目指した。
『アミュラン』とは、中央駅ビルの屋上に設置されている巨大な観覧車のことだ。
その存在感は、今や鹿児島市のシンボルにまでなっている。
事前に調べた情報によると、普通の赤いゴンドラに交じって壁が全面透明なバージョンもあるらしい。
美樹ははじめそれに乗りたがっていたけど、さすがに怖いとメンバー全員が反対したため、渋々普通のゴンドラで妥協した。
連休中でかなり人が多かったものの、辛抱強く並んで、いよいよ自分たちの順番になった。
二つのゴンドラに分かれて、いそいそと中に乗り込む。
ゴンドラが上がるにつれて、比例するかのように、段々と気分まで高揚していった。
そして。
「わあ、キレイ!」
思わず、声に出てしまう。
ゴンドラの大きな窓から見えたのは、遠くに桜島を望む鹿児島市の全景だった。
ビルや建物が段々小さくなり、まるでパノラマのように目の前に広がる。
太陽の光を反射してキラキラ光る海を挟んで、その奥に見える桜島はとても猛々しく、改めてここは火山と海の街なんだなと実感した。
時間も経つのを忘れて、しばし遠くの景色に夢中になった。
駅ビルを出て広場周辺を歩きながら、ふと梢ちゃんのことが気になり振り返る。
すると、彼女はわたしたちから少しだけ離れた場所にいた。
わたしはすぐさま駆け寄って手を掴むと、元気よく彼女に声を掛ける。
「ほーら、次は天文館に行くよ。市電乗り場まで、レッツゴー!」
そしてそのまま梢ちゃんの手を引いて、みんなの元まで連れて行く。
彼女は少しだけよろけそうになりながら、人ごみの中を頑張って付いて来た。
市内最大の繁華街『天文館』に着いた後も、わたしたちははしゃぎながら色々お店を見て回った。
買い物をして、ご飯も食べて、島にはないゲームセンターで目一杯遊んで、とにかく楽しんだ。
梢ちゃんも時折笑顔を見せて楽しそうにしていたので、少しだけ油断してしまった。
あの時、もうちょっとだけ冷静になって常に周りを見ていれば、あのようなことは起きなかったかもしれない……。
UFOキャッチャーの景品を抱えながら歩行者天国を進んでいると、早百合が慌ただしくきょろきょろしながら聞いてきた。
「そういえば、梢ちゃんは?」
つられて辺りを見回す。
みるみるうちに、顔の血の気が引いていくのがわかった。
「ど、どうしよう」
「落ち着け、取りあえずスマホにかけたら?」
野薔薇の言葉に一旦心を落ち着かせてから、みんなの方を交互に見る。
しかし、みんなもそれぞれお互いの顔を見合わせるばかりだった。
「……あ、あれ。誰もこずちゃんの連絡先、知らないの?」
美樹が焦りながら尋ねる。
わたしたちの誰もが、それにただ頷くことしかできなかった。
「こりゃ、本当にマズいな」
野薔薇が顔を曇らせる。
あまりの失態に、旅行言い出しっぺのわたしはとっさに頭を下げた。
「ごめん! 移動中とか余裕がある時に聞くつもりでいたんだ。本当に、ごめんなさい……」
「いや、桜良だけのせいじゃないよ。みんな、すっかり忘れていたんだもん。今更あれこれ言ったって、しょうがないって」
早百合のフォローに、少しだけパワーを貰った気がした。
しばらく悩んだところでいい案は出ず、野薔薇が全員を見渡しながら提案する。
「とりあえずさ、ここにつっ立っててもしょうがないだろ。手分けして、今まで行った店を全部回ってみよう」
「うん、そうだね。天文館の何処かには間違いなくいるはずだから。早く捜そっか」
早百合も後に続く。
わたしたちは時間を決めて、それぞれ割り振った場所をしらみつぶしに捜し回ることにした。
しかし、どれだけくまなく捜しても、梢ちゃんらしき子を見つけ出すことはできず、仕方なく元の場所に戻ることになった。
「うーん、やっぱダメかー。せめて、何か手掛かりでもあれば……」
美樹が悔しそうに、せわしなく動き始める。
最早、なりふり構っていられない。
わたしはみんなを呼び寄せてから、そっと耳打ちした。
「ごめん、ちょっと離れる」
「どうした。もしや、何かわかったのか?」
野薔薇が期待のこもった目で尋ねるも、うまく言葉にできず、申し訳なく思いながらひとまずごまかす。
「ごめん。そうじゃなくて、その、お手洗いに……」
彼女はガッカリした顔で、しっしっ、と手を振った。
「すぐ戻るから!」
こうしている間にも、梢ちゃんの身には危険が迫っているかもしれない。
一刻の猶予も許さない状況の中、わたしは最後の望みに全てを賭けると、一人繁華街の雑踏へと入っていった。
元々前から、一度みんなで旅行したいな、とぼんやり思っていた。
そこに二週間くらい前、突然ナナ様が現れて、
「時が来たわ。今から動けば、きっと良い方向に彼女を導けるはずよ」
と告げてくれた。
そこで、まずは他のみんなに、そして遅れて梢ちゃんに、連休中のプチ旅行を提案したのだった。
一緒に遊べば、きっと梢ちゃんとも仲良くなれるはず。
そう強く信じて。
朝早く、わたしたちは島の北側にある空港に集合した。
みんなそれぞれ思い思いのおしゃれをして、きたる本土の旅行に臨もうとしている。
梢ちゃんは果たしてちゃんと来てくれるか、実は少しだけ心配だったけど、集合時間が近づいた頃に、遅れてすまなさそうに姿を見せた。
飛行機に乗っている間も、隣同士ではしゃぐわたしと美樹をよそに、野薔薇と早百合、そして梢ちゃんはどこか落ち着かない様子で座っていた。
中でも梢ちゃんは、途中何度かちらっと見た時には目をつぶって何かを呟いているようだった。
鹿児島空港に到着した後は、バスに乗って鹿児島市内へと向かう。
やがて中央駅のバスターミナルに降り立つと、そこでわたしたちが目にしたのは、今まで見たこともないような高いビルと、綺麗に整備された街の風景だった。
「着いたよ、鹿児島市!」
駅前広場に一足先に駆け出して、辺りをきょろきょろ見回し始める美樹。
遅れて追いつくと、まだ元気があり余っている様子で、駅ビルのてっぺんを指さした。
「じゃあ、早速乗ろうよ。アミュラン!」
急かす美樹を先頭に、わたしたちは駅ビルの最上階を目指した。
『アミュラン』とは、中央駅ビルの屋上に設置されている巨大な観覧車のことだ。
その存在感は、今や鹿児島市のシンボルにまでなっている。
事前に調べた情報によると、普通の赤いゴンドラに交じって壁が全面透明なバージョンもあるらしい。
美樹ははじめそれに乗りたがっていたけど、さすがに怖いとメンバー全員が反対したため、渋々普通のゴンドラで妥協した。
連休中でかなり人が多かったものの、辛抱強く並んで、いよいよ自分たちの順番になった。
二つのゴンドラに分かれて、いそいそと中に乗り込む。
ゴンドラが上がるにつれて、比例するかのように、段々と気分まで高揚していった。
そして。
「わあ、キレイ!」
思わず、声に出てしまう。
ゴンドラの大きな窓から見えたのは、遠くに桜島を望む鹿児島市の全景だった。
ビルや建物が段々小さくなり、まるでパノラマのように目の前に広がる。
太陽の光を反射してキラキラ光る海を挟んで、その奥に見える桜島はとても猛々しく、改めてここは火山と海の街なんだなと実感した。
時間も経つのを忘れて、しばし遠くの景色に夢中になった。
駅ビルを出て広場周辺を歩きながら、ふと梢ちゃんのことが気になり振り返る。
すると、彼女はわたしたちから少しだけ離れた場所にいた。
わたしはすぐさま駆け寄って手を掴むと、元気よく彼女に声を掛ける。
「ほーら、次は天文館に行くよ。市電乗り場まで、レッツゴー!」
そしてそのまま梢ちゃんの手を引いて、みんなの元まで連れて行く。
彼女は少しだけよろけそうになりながら、人ごみの中を頑張って付いて来た。
市内最大の繁華街『天文館』に着いた後も、わたしたちははしゃぎながら色々お店を見て回った。
買い物をして、ご飯も食べて、島にはないゲームセンターで目一杯遊んで、とにかく楽しんだ。
梢ちゃんも時折笑顔を見せて楽しそうにしていたので、少しだけ油断してしまった。
あの時、もうちょっとだけ冷静になって常に周りを見ていれば、あのようなことは起きなかったかもしれない……。
UFOキャッチャーの景品を抱えながら歩行者天国を進んでいると、早百合が慌ただしくきょろきょろしながら聞いてきた。
「そういえば、梢ちゃんは?」
つられて辺りを見回す。
みるみるうちに、顔の血の気が引いていくのがわかった。
「ど、どうしよう」
「落ち着け、取りあえずスマホにかけたら?」
野薔薇の言葉に一旦心を落ち着かせてから、みんなの方を交互に見る。
しかし、みんなもそれぞれお互いの顔を見合わせるばかりだった。
「……あ、あれ。誰もこずちゃんの連絡先、知らないの?」
美樹が焦りながら尋ねる。
わたしたちの誰もが、それにただ頷くことしかできなかった。
「こりゃ、本当にマズいな」
野薔薇が顔を曇らせる。
あまりの失態に、旅行言い出しっぺのわたしはとっさに頭を下げた。
「ごめん! 移動中とか余裕がある時に聞くつもりでいたんだ。本当に、ごめんなさい……」
「いや、桜良だけのせいじゃないよ。みんな、すっかり忘れていたんだもん。今更あれこれ言ったって、しょうがないって」
早百合のフォローに、少しだけパワーを貰った気がした。
しばらく悩んだところでいい案は出ず、野薔薇が全員を見渡しながら提案する。
「とりあえずさ、ここにつっ立っててもしょうがないだろ。手分けして、今まで行った店を全部回ってみよう」
「うん、そうだね。天文館の何処かには間違いなくいるはずだから。早く捜そっか」
早百合も後に続く。
わたしたちは時間を決めて、それぞれ割り振った場所をしらみつぶしに捜し回ることにした。
しかし、どれだけくまなく捜しても、梢ちゃんらしき子を見つけ出すことはできず、仕方なく元の場所に戻ることになった。
「うーん、やっぱダメかー。せめて、何か手掛かりでもあれば……」
美樹が悔しそうに、せわしなく動き始める。
最早、なりふり構っていられない。
わたしはみんなを呼び寄せてから、そっと耳打ちした。
「ごめん、ちょっと離れる」
「どうした。もしや、何かわかったのか?」
野薔薇が期待のこもった目で尋ねるも、うまく言葉にできず、申し訳なく思いながらひとまずごまかす。
「ごめん。そうじゃなくて、その、お手洗いに……」
彼女はガッカリした顔で、しっしっ、と手を振った。
「すぐ戻るから!」
こうしている間にも、梢ちゃんの身には危険が迫っているかもしれない。
一刻の猶予も許さない状況の中、わたしは最後の望みに全てを賭けると、一人繁華街の雑踏へと入っていった。
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