37 / 87
第三章 ささえ
(5) メーデー
しおりを挟む
何とかしなきゃ。
走りながら、焦りが呟きとなって空気に混じる。
梢ちゃんは大事な後輩で、きっと都会にも慣れていない。
もし彼女に何かあれば、全部誘ったわたしのせいだ。
仲良くなるどころか、わたしは彼女のことを何一つとして見られていなかった。
他の人より少しテンポが遅いところも、年下だからあまり自分の意見を伝えられないのも、何にも考えてあげられなかった。
こんなわたしに、梢ちゃんを導く資格なんて、あるわけないや……。
適当なビルの陰に入り、思わず涙ぐみながらひたすらナナ様に念じる。
お願い、梢ちゃんを捜しているの。
見つけ出して、今すぐゴメンって謝りたいの。
だから、お願いします。
どうかわたしに、知恵を下さい!
そうやって三分くらい念じたけれど、何も変わらない。
もう諦めて、一旦みんなの元に戻ろうとした、その時だった。
ーーーもう。音美から飛んでくるの、大変だったんだからね!
突然聞こえてきた声に、頭の中で思わず名前を叫んでしまった。
最後の頼みの綱であるナナ様に、縋るように梢ちゃんを見つけ出す方法を尋ねる。
ナナ様は、ひとまず落ち着きなさい、と諭してから、いつも通りの優しい口調で耳元に囁いた。
ーーー桜良、よく聞いてちょうだい。一つだけその方法があるわ。
今から集中して、ひたすら梢ちゃんのことを思いながら、周りに耳を傾けなさい。そしたら、この近辺のありとあらゆる音が、一気に貴女の耳に飛び込んでくるわ。
ここは繁華街だから、入ってくる音の量は膨大になって気がおかしくなるかもしれないけど、でもその中から頑張って声を聞き分けるの。もし、その彼女が強く助けを求めているなら、きっとこの状況でも聞き取れるはずよ。
後は、それを元に居場所を捜し求めなさい。ーーーーー
やがて、ナナ様の声は途切れた。
すぐにじっと目を閉じ、聴覚にすべての意識を集中させる。
絶対に、梢ちゃんの声を聞き取ってみせる。
……絶対に、見つけ出すんだから!
強く決意したその瞬間、周りのありとあらゆる音や声が、一気にわたしの耳へと飛び込んできた。
路面電車の軋む音、車のクラクション、買い物客の談笑、店員の掛け声。
それらの音がぐるぐる混ざり合い、不協和音となって鼓膜を襲う。
思わず吐き気を催しながら、それでも必死に堪え、あのか細い声を捜す。
そうして、もう何分ほど集中していただろう。
わたしはとうとう、けたたましいノイズの中に彼女の声を聞き取った。
それは、SOSとして耳に伝わった。
ーーー助けて。
激しく動揺する胸を必死で鎮めつつ、少しでも何か情報はないか、さらに聴覚を研ぎ澄ませる。
やがて、集中して聴いているうちに、いくらか周囲の状況がわかってきた。
どうやら梢ちゃんは、どこかを歩きながら、ただひたすら、助けて、と小さく何度も呟いているみたいだ。
そしてすぐ近くからは、時折別の女性の声が聞こえてくる。
その人は何やらぶつぶつと独り言のように喋っていた。
そちらの方にも、意識を傾けてみる。
「うーん、と。電車通りはもう渡ったから、あとはそこのクレープ屋を右に曲がるだけ。ったく、ほんっと、わかりづらいなぁ」
その後横断歩道のメロディーが小さく流れ、しばらくすると声は聞こえなくなった。
確証はないけど、もしかしたら梢ちゃんはその女性と一緒にいるのかもしれない。
僅かな可能性を信じ、わたしはみんなの待つ場所に戻った。
走りながら、焦りが呟きとなって空気に混じる。
梢ちゃんは大事な後輩で、きっと都会にも慣れていない。
もし彼女に何かあれば、全部誘ったわたしのせいだ。
仲良くなるどころか、わたしは彼女のことを何一つとして見られていなかった。
他の人より少しテンポが遅いところも、年下だからあまり自分の意見を伝えられないのも、何にも考えてあげられなかった。
こんなわたしに、梢ちゃんを導く資格なんて、あるわけないや……。
適当なビルの陰に入り、思わず涙ぐみながらひたすらナナ様に念じる。
お願い、梢ちゃんを捜しているの。
見つけ出して、今すぐゴメンって謝りたいの。
だから、お願いします。
どうかわたしに、知恵を下さい!
そうやって三分くらい念じたけれど、何も変わらない。
もう諦めて、一旦みんなの元に戻ろうとした、その時だった。
ーーーもう。音美から飛んでくるの、大変だったんだからね!
突然聞こえてきた声に、頭の中で思わず名前を叫んでしまった。
最後の頼みの綱であるナナ様に、縋るように梢ちゃんを見つけ出す方法を尋ねる。
ナナ様は、ひとまず落ち着きなさい、と諭してから、いつも通りの優しい口調で耳元に囁いた。
ーーー桜良、よく聞いてちょうだい。一つだけその方法があるわ。
今から集中して、ひたすら梢ちゃんのことを思いながら、周りに耳を傾けなさい。そしたら、この近辺のありとあらゆる音が、一気に貴女の耳に飛び込んでくるわ。
ここは繁華街だから、入ってくる音の量は膨大になって気がおかしくなるかもしれないけど、でもその中から頑張って声を聞き分けるの。もし、その彼女が強く助けを求めているなら、きっとこの状況でも聞き取れるはずよ。
後は、それを元に居場所を捜し求めなさい。ーーーーー
やがて、ナナ様の声は途切れた。
すぐにじっと目を閉じ、聴覚にすべての意識を集中させる。
絶対に、梢ちゃんの声を聞き取ってみせる。
……絶対に、見つけ出すんだから!
強く決意したその瞬間、周りのありとあらゆる音や声が、一気にわたしの耳へと飛び込んできた。
路面電車の軋む音、車のクラクション、買い物客の談笑、店員の掛け声。
それらの音がぐるぐる混ざり合い、不協和音となって鼓膜を襲う。
思わず吐き気を催しながら、それでも必死に堪え、あのか細い声を捜す。
そうして、もう何分ほど集中していただろう。
わたしはとうとう、けたたましいノイズの中に彼女の声を聞き取った。
それは、SOSとして耳に伝わった。
ーーー助けて。
激しく動揺する胸を必死で鎮めつつ、少しでも何か情報はないか、さらに聴覚を研ぎ澄ませる。
やがて、集中して聴いているうちに、いくらか周囲の状況がわかってきた。
どうやら梢ちゃんは、どこかを歩きながら、ただひたすら、助けて、と小さく何度も呟いているみたいだ。
そしてすぐ近くからは、時折別の女性の声が聞こえてくる。
その人は何やらぶつぶつと独り言のように喋っていた。
そちらの方にも、意識を傾けてみる。
「うーん、と。電車通りはもう渡ったから、あとはそこのクレープ屋を右に曲がるだけ。ったく、ほんっと、わかりづらいなぁ」
その後横断歩道のメロディーが小さく流れ、しばらくすると声は聞こえなくなった。
確証はないけど、もしかしたら梢ちゃんはその女性と一緒にいるのかもしれない。
僅かな可能性を信じ、わたしはみんなの待つ場所に戻った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる