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プロローグ
しおりを挟むAm 4:55 未だ真っ暗なオフィス街の片隅。重い体を引き摺るように歩く女がいた。髪はぼさぼさ、目は腫れぼったく、肌もくすんで荒れている。
もう少し、あと少し…
呪文を唱えるように歩いて行く。目指す先は、この静まりかえった暗闇に浮かぶ光の下。痺れる足を叩きながら歩く。
もうすぐだ、この階段を降りたら眠れる。寝過ごしても駅員さんが起こしてくれるだろうし、人が増えれば目が覚めるだろう。
ああ… 眠い…
中1で両親を交通事故で亡くし、中3では祖母を祖父に至っては物心も付かないうちに亡くしている。そこから苦痛の人生。
今は、1Kの一人暮らし。連日の残業で心身ボロボロ、終電間に合わず会社で仮眠をとっては始発で帰り、2時間後にまた出社。
重い足を一段一段下ろしていく。
チャララン・チャララン
始発電車がホームに入ってきた。
あっ、待って! まだ来ないで、今降りるから。今行くから。
ズルッ!
あっ!
積んだな… 頭が焼けるように痛い。短い人生だったな、楽しいこと、な~んにも無かったな。寧ろこれで良かったのかも………
汝… 目覚めよ…
あたたかい… 私、寝ているのかなぁ… 気持ちいいな。
目覚めよ… 六花……
だれ? 私を呼ぶのは。ほっといてよ、眠いの、このまま寝かせて。
目覚めよ… 目覚めよ、六花…… 目覚めよ…
うう…… 寝たいのに。このまま起きたく無いのに。だいたい起きてどうなるのよ。私、死んだよ…
……もしかして、助かっちゃったの? まだ、死んでないの?
「何だ、その如何にも残念な思念は、助かったと喜ぶべきだろうに」
「疲れたのよ! 悔しい事ばかりで、嬉しい事・大切だと思える事も何も無いのに、何を喜べば良いの! …はぁ」
ため息交じりの怒りの発露。今までの我慢がぶち切れて、怒鳴り返しながら睨み付けた。
が、うわぁー 理想のキャラだ。目の前には、容量の少ないPCではとても再現出来ない様な、この世の者とも思えない(実際、あの世の御方でした)きれいな男性がいた。
だれ?
私は男性の周りに目をやる。白い空間に白い柱、なのに天井は無い。
私は自分の手を見る。自分で自分を触る。温かい、生きてる?
「否、死んでいる。早朝、利用者が居なかった為、発見が遅れたのと、出血と寒さと空腹により体温低下、普段の不摂生がたたり心臓発作を起こしたのだ」
「死んだ… ここは何処ですか、あなたは誰?」
分かってる。でも、何故今更あなたがいるの? 呼んだ時に答えてくれなかったくせに?
「……私は、其方とは違う世界の神と言われる者だ。其方の世界の神に頼まれた事が有り、目覚めるのを待っていたのだ」
「それはお手数をかけます。で、なんでしょう? 因みに、私、無神論者なので有り難みとか、感じませんから」
「…… 桐谷六花、其方の魂を私の世界に移す事だ」
「なんで? 別に良いし、未練無いよ」
「先に伝えた様に、六花の神に『違うから』」
「わたし無神論者って言いましたよね、目の前に居るので存在を否定はしません。でも【私の】って付けないで下さい! 何故ですか、頼まれたのなら理由が有りますよね? 理由は何ですか」
「理由か… 理由は贖罪。其方の両親は… 天界の不手際なのだ」
目の前の神の表情が少しだけ憂鬱そうだ。
「人生台帳を整理している際に、たまたま神が嚔をしてリストをばらまいてしまった。拾い集めようとした天使が六花のページを踏んでしまい、慌てた天使は足形とともにページの端を破いてしまった。ここで終われば、少し其方の運気が下がるが、神が修正することが出来たのだ… が、悪い事は重なる。更に動転した天使は其方の両親のページも破いてしまったのだ。しかも、名前の箇所を…… 修正は出来ぬ」
頭が痺れる。さっきまで温かかった体温が一気に下がった。
「本来は両親と共に祖母を看取るはずだった。あのまま助けても良い方向には転換されないので、これを機に、別世界でやり直した方が良いのでは無いかと」
「はあ~? 私の不運は神のせいだったわけ? …貴方の言う事は分かりました。でも何で本人が来ないの? まず、謝ってよ! そこからでしょう!」
「済まぬ。属している世界が同じ故に、見る事…聞く事が出来ぬ決まりが有るのだ。私が天界を代表して謝罪する。桐谷六花殿、今までの事、誠に申し訳ありません」
目の前の神は、深々と頭を下げた。人間の私に。
「うっ…うううう… うぁぁぁー……」
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