平凡な私が絶世の美女らしい 〜異世界不細工(イケメン)救済記〜

宮本 宗

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69 カイル④

「……お菓子がいいか……それとも花?……迷う。…高価なのとか…きっと、気を使うし…」


「…おい、見てみろあれ。」

「まあ、何て醜いのかしら。…どこの娼館に行くのか知らないけれど…あんなのがお客様になるなんて私なら嫌だわ。絶対に相手をしたくないもの。相手の娼婦はきっと醜女ね。他に相手されないわ。でも仕方ないわよね。」

「はは、そう言うな。
お前と違って醜女たちはああいうのを相手しないと生きていけないんだろう?どちらも可哀想じゃないか。」

「ええ本当に!醜く生まれるって本当に可哀想。」

「手に持ってる物…あれは菓子だな。贈られて嬉しいか?はは、あんな安っぽい、しかも菓子なんて贈られて喜ぶ女がいるか。なあ。」

「送る相手が醜女なら喜ぶんじゃないかしら。…ほら、彼女たちって色々大変だから。」


今日は七日振りにサイカに会える日。
月光館が開く一時間前に花街に到着して、サイカへのプレゼントを選んでいたけれど…思っていたより時間が経ってたみたい。
もう何軒か娼館が開いている。
夕暮れ時になった花街はいつの間にか人が増え、俺がプレゼントを物色しているとさっきみたいな声がちらほら聞こえてきていた。
今のは多分、貴族と高級娼婦。
さっきの高級娼婦は美人な部類に入るから…多分自慢とか、優越感でデートしてるんだと思う。


「…デート、……いいな。俺もサイカと…デートしたい…。」


サイカがクライス候の屋敷で過ごしていた時に一度だけ、変装したサイカとデートをした。
変装してぽっちゃりとしたサイカも凄く可愛かった。
仕方がないけど、サイカの綺麗な黒髪までウィッグと帽子で隠さなければならなかったのは残念だった。
いつか堂々と、姿を偽る事なく、ありのままのサイカとデート出来たらいいなって思った。周りの視線ややっかみがすごそうだけど。


「…でも、もうすぐ……それも叶う。」


だってサイカはもうすぐ娼婦じゃなくなるから。
娼婦のサイカじゃなくなって、クライス候の娘になるから。

「……ふふ。」

「兄さん、決まったのか?」

「…あ…じゃあこれ、包んで。」

「はいよ。」


陛下たちとの話し合いで、サイカへの求婚はサイカが娼婦を辞めてクライス候の元へ行ってからという事になった。
節目としてそれが丁度いいと皆納得した。
…陛下は先に求婚して返事も貰ってるけど……サイカは俺の求婚にうんって頷いてくれるかな。それだけが不安。
両思いだけど、好きって言ってくれるけど、でも不安。すごく不安だ。
団長に相談したらこんな答えが帰ってきた。

『恋愛と結婚はまた違うからなぁ。女ってのは現実的なんだよ。好き好き言ってても求婚には頷かない女もいるんだよなこれが。』

『…意味が、分からない。好きだけど、断られる…?』

『あー、俺も結婚してねぇしそういう女がいないからよく分からんけどな。
昔…知り合いが恋人に求婚したんだけどよ…断られちまったんだ。
それまでノロケしか聞いてなかったんだが。』

『……理由は?』

『あの時はまだ兵士が騎士になれる制度もなかった時でな。
今でさえ陛下の計らいで兵士の給金もそこそこいいが…そん時はすげー少なかった。兵士っつーのは要は捨て駒と一緒だからよ。
兵士は戦に参加するだけじゃない。賊や害獣の討伐だってしてたし…死亡率ナンバー1の職業だった。』

『……それが、理由?』

『そ。言えば生活が安定しないってのがどーしても駄目だったんだと。結婚して子供が出来て。これから頑張って育てようって時に旦那が死んじまったら?ま、苦労すんのは残された女の方なわけだ。そういう理由。分かんねえもんだよな。それまでは好き好き言ってたらしいのによ。』

『………。』

『ま、こればっかりは実際に求婚してみねぇと分かんねぇわな。頑張れよ、カイル!』


少しでも安心したくて相談したのに……全然安心出来なかった。
寧ろもっと不安になった。
俺は騎士で、副団長で陛下の護衛でもあるからそこら辺の騎士たちよりお金は沢山貰えるし、寧ろ低位の貴族たちよりは資産があるって断言出来る…から、お金に困らない生活は保証出来る…でも絶対死なないとは言えないし…。
いや、第一にサイカの旦那さんになりたいって希望してるのは俺だけじゃないんだった…。
えっと、じゃあ生活や子育て云々は問題なし?
じゃあ他に…断られるかもしれない理由ってなんだろう…。
最近はこんな調子でずっとぐるぐる悩みっぱなしだ。
多分求婚してサイカがうんって頷いてくれるまでずっとこんな感じだろうなと思う。


「い、いらっしゃいませ…。」

「サイカ、予約してる。」

「は、はい。い、いつもの待合室でお待ち下さい。
オーナーをお呼びしますっ、」

「…うん。」


この月光館にも何度も通っているけれど…やっぱり他の女の人は苦手だ。まず向こうの態度があんなだから…俺も苦手って思う。
弟のアレクみたいに人当たりがよければまだ向こうの態度も違うんだろうけど…こればっかりは性格だから仕方ない。
俺は人見知りだし、言葉も流暢じゃないし、会話だって引き出しが極端に少ない。
前回弟の奥さんになった女性に挨拶した時も散々だった。
向こうも俺も挨拶をしただけ。その後は弟が話を振らなければ互いに会話もなかったし視線すら合わない。
父さん…は別として。お義母さんや弟とはにこやかに、楽しそうに話をするけれど俺との会話になると途端に顔をひきつらせる。そして間が出来る。
すごく疲れた。もの凄く。早く終わらないか、早く寮に帰りたいとあの時はそんなことばかり思ってた。


「カイル様いらっしゃいませ。サイカの元へご案内しましょう。」

「ん、宜しく。」

「ええ。カイル様とこうしてお会い出来るのもあと少しですねぇ。…寂しくなります。」

「…俺も。もう、この店に来ないんだなって、思うと…寂しい気持ち。」

「ありがとうございます。…カイル様、陛下やクライス侯爵閣下にもお伝えしましたが……サイカをどうぞ宜しくお願い致しますね。」

「ん。任せて。ちゃんと支える。大事にするし、幸せに、する。」

「その言葉を聞いて安心しました。カイル様を含め陛下にクライス侯爵閣下、ヴァレリア様にリュカ様。皆様であればきっと、サイカ大事にする、幸せにするという言葉通り、いつまでもあの子を守ってくれるでしょうから。
そしてカイル様も、幸せになって下さい。皆様が幸せであればサイカもきっと幸せですから。」

「……。」


オーナーの目は真剣そのものだ。真剣だけどすごく優しい目をしている。
この人は俺を、皆を心から信じてくれていると分かる。


「色々ありがとう。」

「いいえ。…では、本日もごゆっくりお楽しみ下さい。」

「うん。」


結婚式には是非オーナーを呼ぼうと思う。
娼婦たちも呼べたらサイカはきっと喜ぶだろうけどそれは難しいからせめてオーナーだけは絶対に呼んで、サイカの晴れ姿を見てもらいたい。


「カイル、いらっしゃいませ!」

「っ、……うん、来たよ。」


いつもサイカは可愛い笑顔で、元気一杯で、嬉しそうな声で俺を迎えてくれるから、俺もすごく嬉しい。
そしていつも、胸がきゅっとなって一瞬息が詰まる。サイカが可愛くて、嬉しそうに迎えてくれるのが嬉しくて。


「…これ、差し入れ。」

「差し入れ?…わ、お菓子!嬉しいです…!」

「…ほんと?」

「勿論!私が甘いの大好きだって、もう知ってるでしょう?」

「…宝石とかは、やっぱりいらない…?」

「うーん、宝石は…いいかな。宝石の価値っていまいち分からないですし…。いや、綺麗だなって思うんですけどね?でも傷付けたらとか無くしたらとか、変な気を使っちゃうから。
私はお菓子とか花とか、日常で使える物の方が嬉しい。」

「……ふふ、そうだね。そういう所も、俺、大好きだ。」


地位、金、財産、家柄。
人柄、容姿。
人を好きになる要素は結構沢山ある。
今日悪口を言ってた人間に聞かせてやりたい。見せてやりたい。
俺の恋人は菓子一つで、花で、安い小物や雑貨一つでこんなにも喜んでくれる。
宝石なんかでその身を着飾らなくてもサイカはすごく綺麗だ。
誰よりも何よりも、きらきら輝いてる宝石も霞むくらいすごく綺麗で可愛い。
あの娼婦はきっと地位と家柄、金でしか人を見ていない。
隣にいた貴族の男もそうだ。あの男も、あの娼婦をアクセサリーとしか見ていない。
美しい女を周りに自慢したいだけ。
自分はこんな美しい娼婦を買う事が出来るんだと自分より立場の低い男たちに自慢して、優越感に浸りたいだけ。
だけどそれはすごく寂しい事だ。
俺を可哀想と言っていたけれど、俺からしたらあの人たちこそ可哀想だ。
あの人たちはこんな、じんと胸が温かくなる幸せを知らないんだろうから。


「一緒に食べましょう、カイル!」

「…ん。そのつもりで二つ買った。……また、あーんって、されたいし、したくて。」

「ふふ、じゃあお皿を用意しますね。
カイルは座ってて下さい。」

「…手伝う?」

「ううん、大丈夫。すぐだから。」

「ん。…じゃあ、待ってる。」


テキパキと準備をするサイカの後ろ姿や横顔を見守りながら、今日も幸せを噛み締める。
本当に、俺は何て幸せ者だろう。
母さんにも疎まれ嫌われ、愛してもらえず寂しかった。
名前さえ、最後の最後まで呼んでくれなかった。
生まれて来た事を何度も後悔した。
俺さえ生まれなければ、母さんは幸せだったのかなって。
殺したい程憎まれ嫌悪され、すごくすごく悲しかったし苦しかった。
幸せなんて感じた事無かった。早く人生が終わってしまえばいいと思ってた。
だけど今は…すごくすごく幸せ。すごく、毎日が楽しい。

「カイルはどっちがいい?」

「……ん?」

「お菓子のこと。どっちが食べたい?」

「…俺は、どっちでもいい。サイカが食べたいの、選んで。
残ったの、食べる。」

「駄目。前もそうだったでしょ?
今日はカイルが決めて下さい。ね?こういうのは順番。」

「………。」

「沢山悩んでいいから。」

「………ん。」


サイカみたいな人、俺は知らない。
男でも、女でも。
初めて会った時もそうだった。質問された答えをずっと考えて、どう言えばいいかずっと考えてて。一つだって満足に答える事が出来ないでいた俺を理解してくれた。
今でさえ騎士団の仲間たちに対して普通に喋れるけど、最初はそうじゃなかった。
入団したばかりの頃は俺の遅い返答に何度も相手を苛つかせた。
それは一人に限ったことじゃなく、沢山。
入団するまで余り会話をしてこなかったから上手く話す事が出来なくて、言いたい事はあるのに言葉が出てこないことが多かった。
何て言えば角が立たないだろう、とか、どういう言い方をすれば理解してもらえるだろう、とか。
頭では色々考えているのに、俺にとってはそれを言葉に出すのが難しい。
だけど、言葉にしないと相手には伝わらない。
伝えようとしている間に相手が苛立って、もういいと去って終わってしまうから伝わらない。もどかしい思いを沢山したし、凄く怒鳴られたりもした。
誰も分かるはずない。人の頭や心の中までは。
分からないから理解出来ない。
自分が出来て当然の事を人は他人にも求めるんだ。
話せて当然、すぐに答えが出るのが当然。
多くの人にとって当たり前のことが、俺には難しい。
今考えてるんだな、と汲んでくれる事もない。
皆そうだったんだ。


「………。」

「…ふふ、どっちも美味しそうだよね。」

「……ん。…自分で、選んだけど……悩む。」

「分かる!沢山悩んで下さい。カイルが選ぶまで待ってますからね。」


どうしてサイカは気付いてくれたんだろう。
あの時俺が必死に考えてるって、分かってくれたんだろう。
今までそんな人いなかったのに。誰も気付いてくれなかったのに。


「…初めて会った時、どうしてサイカ…俺が考えてるって分かった?」

「?」

「サイカからの質問、ずっと答えられなかった時。」

「ああ、…んー…、分かりませんよ。」

「?」

「分からないから確認したんです。
分からないけど、想像する事は出来るでしょう?
色んな人がいるんだから。」

「……。」

「初対面でも躊躇なく話せる人もいれば、人見知りな人だっている。人見知りだって色々ある。人見知りだけど話してみれば人見知りだって分からない人だったり、そもそも話す事自体が苦手な人だったり。
知らないから、分からないから想像する。こうかな、こうなのかなって。それだけです。」

「……。」


それだけ、とサイカは簡単に言うけど、凄いことだと思う。
だってサイカはこうかなって想像して、ちゃんと俺を理解しようとしてくれた。
サイカは優しい。サイカの優しいは『本物』の優しいだ。
だって多くの人は赤の他人の事を知らないから、分からないからと理解しようとしたりしない。
お義母さんもそう。アレクの奥さんだってそう。
興味のない、好意を持っていない人間に対しては理解しようとはしない。ましてそれが初対面なら尚更。



「…俺、サイカを好きになって、本当に良かった。」

「?」

「…俺の恋人は、すごく、すごく、優しい。自慢。サイカが、大好き。」

「ありがとう。私も、カイルを好きになってよかった。
カイルは私の自慢だし、私だってカイルが……その、…だ、大好きです。」

「……照れて言うの、反則。すごく、可愛い。」


他なんてどうでもいい。
他の奴らの為に変わろうとは思わないけど、サイカの為なら変わりたいって思う。
もっともっとサイカと沢山話せるようになりたい。
俺からも沢山、いっぱい喋れるようになりたい。だから苦手でも、頑張る。


「…決めた。…俺は…これにする。」

「じゃあ私はこっちですね!」

「ん。」


俺の求婚にサイカが頷いてくれたらいいな。
すごく幸せだけど、すごく不安だ。
断られたらどうしよう。断られても諦めないけど。でも不安だ。
まだ付き合ってそう月日も経ってない。
サイカと出会って幸せ。
サイカと会って、話をして、キスして触れあって、セックスして幸せ。
サイカと恋人になって、幸せ。
そう、今でさえすごくすごく幸せ。
だけど幸せって限度がないのかもしれない。
恋人になった時、叫びたくなるくらい嬉しくて、これ以上の幸せなんてないと思ってたのに、付き合ってまだそんなには経ってないのに、もうお嫁さんにしたいって思う。
今だって十分過ぎるくらい幸せなのにもっと幸せを望んでしまう。夢見てしまう。

嬉しそうな顔であーんと俺にフォークを向けるサイカを見て、これ以上なんて欲張りかもしれないけど…やっぱり早く奥さんになって欲しいなあと思った。

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