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88 お泊まり&デート マティアス 中編
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ゆっくりと労るような手付きで頭を撫でられる感覚。
サイカの少し高めの声が優しいメロディを紡いでいる。
その手付きと歌に、そして何よりサイカの体温、匂いに安堵する。
出会ってからいつもそうだ。サイカといるといつも癒される。
癒されて、勇気付けられて、そして幸せを感じる。
初めはその美しさに魅入るように惹かれ、瞬間に恋に落ちた。
俺に小さく微笑んで手を振るサイカにまるで引き寄せられるように体は動き、サイカの水入りの権利を買った。
きっと同じだろう。でも違うかもしれない。そうした不安と少しの希望、葛藤がサイカに会うまで当然あって、そして会えば夢のような時間を過ごすことが出来た。
醜い俺を優しく受け入れてくれたサイカ。
ただの客だとしても、客として接してくれただけであっても、当時の俺にとっては浮かれる程嬉しかった。
客でもいい。客と娼婦というそれだけの関係でもいい。
金の関係でもいい。
あの夢のような時間を、それがたとえ僅かな時間だとしても得られるのであれば馬鹿な男と言われてもいい。
サイカと出会ったばかりの頃はそう自分に言い聞かせていた。
『マティアス様、好きです。』
『私もマティアス様が好き。』
サイカからの好意の言葉を聞くたびに、それが真実であればどれ程いいかと思った。
ただの客ではなく、俺を好きだと言ってくれたなら、どれ程嬉しいかと。
サイカに会えば会う程願いは大きくなっていく。
客として会えるだけでいいと思っていた感情が、それだけでは足りなくなった。
客としてではなく俺を好きになって欲しいと思うようになった。
好きになるだけではなく恋人になりたいと思うようになった。
恋人ではなく妻にしたいと思った。
望みが叶うと次の望みが。そう。次から次へと増えていきキリがない。
もう十分過ぎる程幸せなのに、まだ幸せを望んでいる。
恋人であり婚約者であるサイカを、早く妻にしたいと望んでいる。本当に底が見えない。
「おはようございます。マティアス。」
「…おはよう、サイカ。すまない…ぐっすりと寝てしまった。」
おはようの挨拶だけでこんなにも愛しいと思う。
日常のやりとりを毎日サイカとしたい。そんな日が早く来て欲しいと思う。
「少しは疲れが取れました?」
「ああ。いい気分だ。」
「それなら良かった。」
「退屈だったろう?それに…ずっと同じ体勢で辛くはなかったか?」
「ううん。マティアスの寝顔を見てたらあっという間だったから大丈夫です。
…それから…ありがとう、マティアス。」
「ん?」
「この日の為に、仕事を調整してくれたんでしょう?
二人で長く過ごす為に…今日まで頑張ってくれたんでしょう?
…ありがとう。」
「俺がサイカと一緒にいる時間を無駄にしたくないからそうしただけだ。サイカと一緒にいる時間を邪魔されたくないからそうしただけ。」
「私もマティアスと二人でいたいもの。
だから嬉しい。でも、無理はしないで下さいね。」
出会った頃からそうだ。
俺はずっと、サイカに癒されている。
初めて会った時から、ずっと。
王なんてつまらないものだ。王であるが故にいくつもの制限がある。この国で一番権力を持っているというのに、好きなように生きられない。
今すぐサイカを妻にしたいと思っても、それが出来ない。
幾つもの手間を重ね、民や貴族たちの顔を伺わなければならず、そうしてやっとサイカを妻に出来る日が来る。
何とも煩わしい。下らない。鬱陶しい事ばかりだ。
生まれてからサイカに出会うまで何一ついい事なんて無かった。
何をするにも気力体力を使う。人と会う日は酷く疲弊する。
政務は毎日山のように次から次へと増えていく。
サイカに出会う前までの俺は毎日疲弊していた。生きる事にも。
否、最早死んでいたのだ。生きながら死んでいた。
ただ人形のように毎日同じ事を繰り返し、そして朝を迎えまた同じ事を繰り返す。
いつまで同じ事が続くのだろう。いつまでこうして生きていかなければならないのだろう。
まるで果てが見えない。そんな地獄のような世界で生きていた。
「お腹空いてないですか?ミケーレが軽食を用意してくれてますよ。」
「それより……そなたを抱きたい。」
「ま、まだ夜じゃ、」
「人払いはしてある。爺に下がっていいと伝えたのもその為だ。…抱きたい。もう久しく抱いていない。」
「マ、マティアス、……ぁ、ま、待って、」
「どうして。婚前交渉をしてはいけないという定めはこの国にない。余所の国にはあるかも知れないがレスト帝国にはない。愛しい婚約者に触れて何が悪い。」
「わ、私、清めてない、昨日の夜に宿屋で体を拭いただけで…あ、汗もかいたし、」
「俺は気にしない。…サイカの匂いがして…それだけで堪らない気持ちになる。」
「ひゃぁっ…!」
首筋を舐めるとサイカの匂いが濃く漂う。
乾いた汗の味。いつもより濃いサイカの香りに性欲が膨れ上がる。
「最後にそなたの胎に子種を出したのはもう数ヵ月も前だ。
婚約者として公になったにも関わらず…俺はそなたを抱いていない。」
抱きたい。抱きたい。サイカとセックスがしたい。
大きく膨れ上がった性欲を静める事は難しい。
愛しい女が目の前にいるのであれば尚更。
「サイカ…。」
「ふぁ…!み、耳…駄目…そ、そこで喋らないでっ…」
「サイカ、ベッドに行こう。…カーテンは閉める。それでいいな?」
「っ、」
「いいな…?」
サイカの色香が強く漂い鼻先から頭を刺激する。
愛しい女の発情した匂い。男にとって好いた女のその匂いは毒だ。理性という理性を奪う猛毒。
「サイカの胎に子種を出したい…。
出し入れしたい。擦って、突き上げて…そなたの小さな子の部屋を満たしたい…。」
「んっ、…はぁ、」
熱くなっていくサイカの身体。
黒い大きな瞳にはうっすらと涙の膜が張り、頬を赤らめうっとりとした表情。いつ見ても愛らしい。いつ見ても堪らない。
サイカの腕が俺の首もとに回りその身が寄せられる。
「……ベッドに……連れて行って…」
潤んだ瞳でそう言われれば俺の中の雄が喜んだ。
昔の俺に言ってやりたい。
あの日に爺が言った様に、もう暫しの辛抱だと。
お前の人生には大きな喜びが待っている。
得難い宝を手に入れ、毎日が薔薇色のような日々に。
そう伝えてやりたい。
女の身体の気持ちよさをお前は知る。
これ程までに気持ちのいい事があったのかと、生まれて初めてセックスの良さを経験する。
それまで二度経験したセックスは何だったのかと思う程、狂いそうになる気持ちよさを経験する。
「はぁっ…!ま、待ってっ…」
「待たない。」
一度触れてしまえば後は貪るように。
脳が焼ききれそうな程の快楽が身体中を支配する、そんなセックスを。毎回経験するようになる。
「ん、ああっ…!マティアス、だめ、…薬っ……ひ、避妊薬…」
「避妊薬…」
「お義父様に、渡されて…、飲まないと…」
「…そう、だな。…サイカが妻になるまでは…そうせねばならないか…。」
孕ませたいと思う女にお前は出会う。
生涯の宝と、お前は出会う。
心の底から欲しいと思う女にお前は出会い、そして心の底から愛するようになる。
避妊薬など捨ててしまいたくなって、白くまろい胎の中に子が出来る奇跡を望むようになる。
「あんっ!」
「サイカ……サイカ…」
「はぁ、…っ、…マティアス…、」
どこもかしこも柔らかい美しい身体。
自分のものにしたくて、痕を付けずにいられなくなる。
独占したいと思う欲を隠しもしない。
その女の何もかもを支配したい気持ちを、お前は初めて知る。
白く、吸い付くような美しい肌にいつくも自分の証を付けて、それで満足しない。
その女の何もかもを奪いたくなる、そんな獣のような欲をお前は初めて知る。
「…サイカ…愛しているっ…!」
「わたしも、…は、…私も、…愛してるっ…」
長く苦しんだ冬は終わり、たった一人の愛しい宝と出会った途端、お前の人生は芽吹き、春が訪れる。
多くの悪意に傷付いてきた心が癒され、暗く寂しい人生が彩り豊かに変わるのだ。
今、苦しんでいるだろう。変わらない日常に、酷くなっていく日常に絶望し続けているだろう。
だがもう暫しの辛抱だ。
お前の人生はたった一人との出会いで大きく変わる事になるのだから。
「…ふ、ふふ…くすぐったい。」
「ん?」
「マティアスの髪…耳に当たっててくすぐったいの…」
貪るようにサイカを食べ尽くした後は枕を間に挟んでヘッドボードに凭れ掛かり、サイカを後ろから抱き締めたまま甘い時間を過ごす。
「変な気分になってしまう?」
「ち、違っ…」
「冗談だ。これ以上付き合わせると辛くなるだろう?明日は出掛けるから…これ以上無理はさせない。」
「…楽しみ?」
「当然だ。そなたと二人、帝都を堂々と歩ける日が来たんだ。嬉しくないわけがないだろう?」
「…私も楽しみ。」
人からどう思われようと構わない。
釣り合っていないと指を指されようと関係ない。
サイカが俺の大切な婚約者であるその事実を、未来の妃であるその事実を全ての人間に知らしめてやりたい。
誰に何と言われようと構わない。
俺がサイカを愛し、サイカが俺を愛している。どう思われようとそれが真実なのだから。
「…マティアス。」
「どうした?」
「明日は…お洒落をするから。楽しみにしててね。」
「……その様子を見るのは駄目か?」
「駄目。明日、お洒落をしたいつもとは違う私を見て欲しいの。」
「……。」
「マティアスに可愛いって思われたい。可愛いでも綺麗でもいい。そう思われたい。
好きな人の為にお洒落をしたい。そういう気持ちになったのも…この世界に来て、マティアスや皆と出会って初めてだから…。」
「……。」
「恋をするって…こんなに幸せな事だったんだって、この世界にきて初めて知ったの。
毎日幸せな気持ちになる。会えない間も、考えるだけで幸せな気持ちになる。」
ああ、堪らない。本当に、何て愛しさだ。
何て愛らしい娘なのだろう、俺のサイカは。
無自覚なのか態となのか。後者であっても構わないが…恐らく無自覚なのだろう。
サイカは根が素直な分、駆け引きや企てが表情に出てしまう。
抱き締めている為にその表情まで見えないが…見えている項や耳が真っ赤になっている。
恋した男の為に、俺の為に明日はお洒落をすると言うサイカ。
着飾って、そして俺に可愛いと、綺麗と言われたい。そう言うサイカ。
これが嬉しくないわけがない。愛しく思わないわけがない。
なんと可愛い女だろうか。
これ程可愛く愛らしい女など他にいるわけがない。
「楽しみにしている。…俺の為に着飾ってくれるそなたの姿を、明日この目にするのを楽しみに待っている。」
「はいっ…!」
本当は着飾らなくともいい。
サイカは着飾らなくとも、十分に美しい。
けれどこの可愛い女は…他の誰かの為ではなく、俺の為にそうしたいのだと言う。
堪らなくなって何度もサイカに口付けた。
何度も。何度も。こちらに顔を向かせ、何度も何度も飽きる事なく。
どうしてこんなにも愛らしい娘がこの世に存在するのだろう。
何もかもが奇跡のような存在。
異なる世界の人間。本来であればこの世界のどこにも存在しないサイカ。
サイカの両親は大切な娘を失い、絶望しているに違いない。
毎日毎日大切な娘を思い、涙を流しているに違いない。
素直で優しく、美しい心を持ったサイカを育てたご両親だ。
俺の両親とは違い、心からサイカを愛していたに違いない。
そんなサイカのご両親の心情を考えると心が痛むが…けれど俺は、サイカが俺の前に現れてくれた奇跡に感謝したい。
サイカを産み、育ててくれた尊いご両親に感謝したい。
俺にとって何よりも大切なサイカを、生涯守っていく。
俺の生涯を懸け、必ず幸せにする。
顔も知らないサイカのご両親に向けそう誓ったのだ。
「サイカ。」
「何ですか?」
「この世界に来てくれてありがとう。
ご両親を思うと辛かろう。友を思うと辛かろう。
二十五年、そなたは故郷で暮らしてきた。思い出も沢山あっただろう。愛した者たちとの突然の別れに戸惑い、酷く悲しんだだろう。今平気な顔をしていても、思い出せば色んな感情が出てくるに違いない。」
「……うん。」
「この世界に来たことでそなたが失ったものは沢山ある。
だが、故郷にいた頃よりもそなたを必ず幸せにしてみせる。
そなたがこの世界に来たことを後悔しないように、俺は生涯、努力し続ける。」
「…うんっ。…私…マティアスを好きになって、本当によかった。マティアスの傍にいると、すごく安心する。お義父様とは違う安心感。マティアスの腕の中が…私は一番安心出来るの。
あの時もそう。マティアスが来るまで涙も出なかった…。」
「恐ろしい思いをさせたな…。」
「ううん。それはマティアスのせいでも月光館の皆のせいでもない。あの男が悪いだけ。…マティアスが来るまで涙も出なくて、感情もどうなってるのか分からなかった。
でも…マティアスに抱き締められて漸く…私の中にあった恐いって感情が戻った。マティアスの腕の中が、世界で一番…安心できる場所だと思ったの。…今もそう。」
「そうか…。それは嬉しいことだ。」
「あの時…私に会いに来てくれてありがとう、マティアス。
…大好き。」
ああ、まただ。
また、サイカを好きになった。
これ以上ない程愛しているのに、これまで以上に愛しい気持ちになる。
本当にキリがない。
サイカの少し高めの声が優しいメロディを紡いでいる。
その手付きと歌に、そして何よりサイカの体温、匂いに安堵する。
出会ってからいつもそうだ。サイカといるといつも癒される。
癒されて、勇気付けられて、そして幸せを感じる。
初めはその美しさに魅入るように惹かれ、瞬間に恋に落ちた。
俺に小さく微笑んで手を振るサイカにまるで引き寄せられるように体は動き、サイカの水入りの権利を買った。
きっと同じだろう。でも違うかもしれない。そうした不安と少しの希望、葛藤がサイカに会うまで当然あって、そして会えば夢のような時間を過ごすことが出来た。
醜い俺を優しく受け入れてくれたサイカ。
ただの客だとしても、客として接してくれただけであっても、当時の俺にとっては浮かれる程嬉しかった。
客でもいい。客と娼婦というそれだけの関係でもいい。
金の関係でもいい。
あの夢のような時間を、それがたとえ僅かな時間だとしても得られるのであれば馬鹿な男と言われてもいい。
サイカと出会ったばかりの頃はそう自分に言い聞かせていた。
『マティアス様、好きです。』
『私もマティアス様が好き。』
サイカからの好意の言葉を聞くたびに、それが真実であればどれ程いいかと思った。
ただの客ではなく、俺を好きだと言ってくれたなら、どれ程嬉しいかと。
サイカに会えば会う程願いは大きくなっていく。
客として会えるだけでいいと思っていた感情が、それだけでは足りなくなった。
客としてではなく俺を好きになって欲しいと思うようになった。
好きになるだけではなく恋人になりたいと思うようになった。
恋人ではなく妻にしたいと思った。
望みが叶うと次の望みが。そう。次から次へと増えていきキリがない。
もう十分過ぎる程幸せなのに、まだ幸せを望んでいる。
恋人であり婚約者であるサイカを、早く妻にしたいと望んでいる。本当に底が見えない。
「おはようございます。マティアス。」
「…おはよう、サイカ。すまない…ぐっすりと寝てしまった。」
おはようの挨拶だけでこんなにも愛しいと思う。
日常のやりとりを毎日サイカとしたい。そんな日が早く来て欲しいと思う。
「少しは疲れが取れました?」
「ああ。いい気分だ。」
「それなら良かった。」
「退屈だったろう?それに…ずっと同じ体勢で辛くはなかったか?」
「ううん。マティアスの寝顔を見てたらあっという間だったから大丈夫です。
…それから…ありがとう、マティアス。」
「ん?」
「この日の為に、仕事を調整してくれたんでしょう?
二人で長く過ごす為に…今日まで頑張ってくれたんでしょう?
…ありがとう。」
「俺がサイカと一緒にいる時間を無駄にしたくないからそうしただけだ。サイカと一緒にいる時間を邪魔されたくないからそうしただけ。」
「私もマティアスと二人でいたいもの。
だから嬉しい。でも、無理はしないで下さいね。」
出会った頃からそうだ。
俺はずっと、サイカに癒されている。
初めて会った時から、ずっと。
王なんてつまらないものだ。王であるが故にいくつもの制限がある。この国で一番権力を持っているというのに、好きなように生きられない。
今すぐサイカを妻にしたいと思っても、それが出来ない。
幾つもの手間を重ね、民や貴族たちの顔を伺わなければならず、そうしてやっとサイカを妻に出来る日が来る。
何とも煩わしい。下らない。鬱陶しい事ばかりだ。
生まれてからサイカに出会うまで何一ついい事なんて無かった。
何をするにも気力体力を使う。人と会う日は酷く疲弊する。
政務は毎日山のように次から次へと増えていく。
サイカに出会う前までの俺は毎日疲弊していた。生きる事にも。
否、最早死んでいたのだ。生きながら死んでいた。
ただ人形のように毎日同じ事を繰り返し、そして朝を迎えまた同じ事を繰り返す。
いつまで同じ事が続くのだろう。いつまでこうして生きていかなければならないのだろう。
まるで果てが見えない。そんな地獄のような世界で生きていた。
「お腹空いてないですか?ミケーレが軽食を用意してくれてますよ。」
「それより……そなたを抱きたい。」
「ま、まだ夜じゃ、」
「人払いはしてある。爺に下がっていいと伝えたのもその為だ。…抱きたい。もう久しく抱いていない。」
「マ、マティアス、……ぁ、ま、待って、」
「どうして。婚前交渉をしてはいけないという定めはこの国にない。余所の国にはあるかも知れないがレスト帝国にはない。愛しい婚約者に触れて何が悪い。」
「わ、私、清めてない、昨日の夜に宿屋で体を拭いただけで…あ、汗もかいたし、」
「俺は気にしない。…サイカの匂いがして…それだけで堪らない気持ちになる。」
「ひゃぁっ…!」
首筋を舐めるとサイカの匂いが濃く漂う。
乾いた汗の味。いつもより濃いサイカの香りに性欲が膨れ上がる。
「最後にそなたの胎に子種を出したのはもう数ヵ月も前だ。
婚約者として公になったにも関わらず…俺はそなたを抱いていない。」
抱きたい。抱きたい。サイカとセックスがしたい。
大きく膨れ上がった性欲を静める事は難しい。
愛しい女が目の前にいるのであれば尚更。
「サイカ…。」
「ふぁ…!み、耳…駄目…そ、そこで喋らないでっ…」
「サイカ、ベッドに行こう。…カーテンは閉める。それでいいな?」
「っ、」
「いいな…?」
サイカの色香が強く漂い鼻先から頭を刺激する。
愛しい女の発情した匂い。男にとって好いた女のその匂いは毒だ。理性という理性を奪う猛毒。
「サイカの胎に子種を出したい…。
出し入れしたい。擦って、突き上げて…そなたの小さな子の部屋を満たしたい…。」
「んっ、…はぁ、」
熱くなっていくサイカの身体。
黒い大きな瞳にはうっすらと涙の膜が張り、頬を赤らめうっとりとした表情。いつ見ても愛らしい。いつ見ても堪らない。
サイカの腕が俺の首もとに回りその身が寄せられる。
「……ベッドに……連れて行って…」
潤んだ瞳でそう言われれば俺の中の雄が喜んだ。
昔の俺に言ってやりたい。
あの日に爺が言った様に、もう暫しの辛抱だと。
お前の人生には大きな喜びが待っている。
得難い宝を手に入れ、毎日が薔薇色のような日々に。
そう伝えてやりたい。
女の身体の気持ちよさをお前は知る。
これ程までに気持ちのいい事があったのかと、生まれて初めてセックスの良さを経験する。
それまで二度経験したセックスは何だったのかと思う程、狂いそうになる気持ちよさを経験する。
「はぁっ…!ま、待ってっ…」
「待たない。」
一度触れてしまえば後は貪るように。
脳が焼ききれそうな程の快楽が身体中を支配する、そんなセックスを。毎回経験するようになる。
「ん、ああっ…!マティアス、だめ、…薬っ……ひ、避妊薬…」
「避妊薬…」
「お義父様に、渡されて…、飲まないと…」
「…そう、だな。…サイカが妻になるまでは…そうせねばならないか…。」
孕ませたいと思う女にお前は出会う。
生涯の宝と、お前は出会う。
心の底から欲しいと思う女にお前は出会い、そして心の底から愛するようになる。
避妊薬など捨ててしまいたくなって、白くまろい胎の中に子が出来る奇跡を望むようになる。
「あんっ!」
「サイカ……サイカ…」
「はぁ、…っ、…マティアス…、」
どこもかしこも柔らかい美しい身体。
自分のものにしたくて、痕を付けずにいられなくなる。
独占したいと思う欲を隠しもしない。
その女の何もかもを支配したい気持ちを、お前は初めて知る。
白く、吸い付くような美しい肌にいつくも自分の証を付けて、それで満足しない。
その女の何もかもを奪いたくなる、そんな獣のような欲をお前は初めて知る。
「…サイカ…愛しているっ…!」
「わたしも、…は、…私も、…愛してるっ…」
長く苦しんだ冬は終わり、たった一人の愛しい宝と出会った途端、お前の人生は芽吹き、春が訪れる。
多くの悪意に傷付いてきた心が癒され、暗く寂しい人生が彩り豊かに変わるのだ。
今、苦しんでいるだろう。変わらない日常に、酷くなっていく日常に絶望し続けているだろう。
だがもう暫しの辛抱だ。
お前の人生はたった一人との出会いで大きく変わる事になるのだから。
「…ふ、ふふ…くすぐったい。」
「ん?」
「マティアスの髪…耳に当たっててくすぐったいの…」
貪るようにサイカを食べ尽くした後は枕を間に挟んでヘッドボードに凭れ掛かり、サイカを後ろから抱き締めたまま甘い時間を過ごす。
「変な気分になってしまう?」
「ち、違っ…」
「冗談だ。これ以上付き合わせると辛くなるだろう?明日は出掛けるから…これ以上無理はさせない。」
「…楽しみ?」
「当然だ。そなたと二人、帝都を堂々と歩ける日が来たんだ。嬉しくないわけがないだろう?」
「…私も楽しみ。」
人からどう思われようと構わない。
釣り合っていないと指を指されようと関係ない。
サイカが俺の大切な婚約者であるその事実を、未来の妃であるその事実を全ての人間に知らしめてやりたい。
誰に何と言われようと構わない。
俺がサイカを愛し、サイカが俺を愛している。どう思われようとそれが真実なのだから。
「…マティアス。」
「どうした?」
「明日は…お洒落をするから。楽しみにしててね。」
「……その様子を見るのは駄目か?」
「駄目。明日、お洒落をしたいつもとは違う私を見て欲しいの。」
「……。」
「マティアスに可愛いって思われたい。可愛いでも綺麗でもいい。そう思われたい。
好きな人の為にお洒落をしたい。そういう気持ちになったのも…この世界に来て、マティアスや皆と出会って初めてだから…。」
「……。」
「恋をするって…こんなに幸せな事だったんだって、この世界にきて初めて知ったの。
毎日幸せな気持ちになる。会えない間も、考えるだけで幸せな気持ちになる。」
ああ、堪らない。本当に、何て愛しさだ。
何て愛らしい娘なのだろう、俺のサイカは。
無自覚なのか態となのか。後者であっても構わないが…恐らく無自覚なのだろう。
サイカは根が素直な分、駆け引きや企てが表情に出てしまう。
抱き締めている為にその表情まで見えないが…見えている項や耳が真っ赤になっている。
恋した男の為に、俺の為に明日はお洒落をすると言うサイカ。
着飾って、そして俺に可愛いと、綺麗と言われたい。そう言うサイカ。
これが嬉しくないわけがない。愛しく思わないわけがない。
なんと可愛い女だろうか。
これ程可愛く愛らしい女など他にいるわけがない。
「楽しみにしている。…俺の為に着飾ってくれるそなたの姿を、明日この目にするのを楽しみに待っている。」
「はいっ…!」
本当は着飾らなくともいい。
サイカは着飾らなくとも、十分に美しい。
けれどこの可愛い女は…他の誰かの為ではなく、俺の為にそうしたいのだと言う。
堪らなくなって何度もサイカに口付けた。
何度も。何度も。こちらに顔を向かせ、何度も何度も飽きる事なく。
どうしてこんなにも愛らしい娘がこの世に存在するのだろう。
何もかもが奇跡のような存在。
異なる世界の人間。本来であればこの世界のどこにも存在しないサイカ。
サイカの両親は大切な娘を失い、絶望しているに違いない。
毎日毎日大切な娘を思い、涙を流しているに違いない。
素直で優しく、美しい心を持ったサイカを育てたご両親だ。
俺の両親とは違い、心からサイカを愛していたに違いない。
そんなサイカのご両親の心情を考えると心が痛むが…けれど俺は、サイカが俺の前に現れてくれた奇跡に感謝したい。
サイカを産み、育ててくれた尊いご両親に感謝したい。
俺にとって何よりも大切なサイカを、生涯守っていく。
俺の生涯を懸け、必ず幸せにする。
顔も知らないサイカのご両親に向けそう誓ったのだ。
「サイカ。」
「何ですか?」
「この世界に来てくれてありがとう。
ご両親を思うと辛かろう。友を思うと辛かろう。
二十五年、そなたは故郷で暮らしてきた。思い出も沢山あっただろう。愛した者たちとの突然の別れに戸惑い、酷く悲しんだだろう。今平気な顔をしていても、思い出せば色んな感情が出てくるに違いない。」
「……うん。」
「この世界に来たことでそなたが失ったものは沢山ある。
だが、故郷にいた頃よりもそなたを必ず幸せにしてみせる。
そなたがこの世界に来たことを後悔しないように、俺は生涯、努力し続ける。」
「…うんっ。…私…マティアスを好きになって、本当によかった。マティアスの傍にいると、すごく安心する。お義父様とは違う安心感。マティアスの腕の中が…私は一番安心出来るの。
あの時もそう。マティアスが来るまで涙も出なかった…。」
「恐ろしい思いをさせたな…。」
「ううん。それはマティアスのせいでも月光館の皆のせいでもない。あの男が悪いだけ。…マティアスが来るまで涙も出なくて、感情もどうなってるのか分からなかった。
でも…マティアスに抱き締められて漸く…私の中にあった恐いって感情が戻った。マティアスの腕の中が、世界で一番…安心できる場所だと思ったの。…今もそう。」
「そうか…。それは嬉しいことだ。」
「あの時…私に会いに来てくれてありがとう、マティアス。
…大好き。」
ああ、まただ。
また、サイカを好きになった。
これ以上ない程愛しているのに、これまで以上に愛しい気持ちになる。
本当にキリがない。
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これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
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