平凡な私が絶世の美女らしい 〜異世界不細工(イケメン)救済記〜

宮本 宗

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159 夫、妻への愛、その本気を見せる 前編

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クラフ公爵領にある教会で行われた僕とサイカの結婚式も終わり、今は丁度、賑やかなパーティーの真っ只中だ。

「リュカ殿っ、サイカを頼んだぞ…!娘を決して不幸にするな…!
万が一泣かせるような事をすれば…その時は覚悟しておくのだな…!」

「クライス候…いや、お義父上。安心してくれ。決して不幸になどさせるものか。誰よりも幸せにしてみせる。」

酒の入ったクライス候…もとい義父になった男は目尻を赤くさせながら泣いていた。
サイカは既にマティアスの元へ嫁いでいるというのに、まるで初めて娘を嫁がせるかのような男泣きを見せているではないか。
マティアスを見れば…首を振られてしまう。付き合ってやれという意味だと理解した。

「本来ならば!あと数年手元に置いておきたかったのだ…!!
折角俺の娘として迎え入れたのに…こんなにすぐ嫁に出さねばならんとは…!!サイカはなぁ!妖精なんだ!天から舞い降りた天使の如くそれはそれは愛らしい娘なのだぞっ!!」

「サイカの…僕の妻の愛らしさはそれはもう、深く存じ上げている。お義父上。」

「いいや!俺の娘の愛らしさはリュカ殿が知っているものよりずっとずっと、もっとだっ!!娘の、父親にしか見せぬ顔があるのだ!!いいかっ!サイカに苦労させることがあれば俺は即座に引き離すぞっ!!
…くそ…!父親など、つまらんものだっ…!!」

「……俺たちの時も、こうなる…?」

「ええ、恐らくは。」

ヴァレリアとカイルは今から覚悟を決めたようで二人して顔を見合わせた。
僕はクライス候…いや、義父上に激しく肩を揺さぶられながら脅し文句を聞く事しか出来ない。
僕としてはむさ苦しい男たちに囲まれるより愛するサイカの元へ行きたいのだが……サイカは今、ドライト王国のアメリア王妃と談笑している。
アメリア王妃はサイカの友人だとサイカ本人から聞いた。
“お友達になれたんですよ!”とサイカの嬉しそうな笑顔がだいぶ可愛かったのでよく覚えている。

「もう~!可愛いなぁサイカ…。見てあの嬉しそうな笑顔…もう可愛いしか言葉が出ないんだけど…。」

「アメリア王妃と一緒にいるサイカ、…すごく、嬉しそう…。
ちょっと…嫉妬…。あんなサイカ……初めて、見た。…俺も、サイカに、抱き締められたいのに…。」

「同性の友人ですからね、仕方ありませんよ。
…それにしても…アメリア妃は噂通りとても綺麗な方ですね。」

「まあ、サイカとは比べられないけど。アメリア……姉上も可愛いし綺麗だよね。うんうん。俺はサイカが一番だけど。」

「サーファス殿は段々と…その、…本性が全面に出ていませんか…?」

「…気持ち、分かるよ、俺。俺も…サイカが、可愛いーっていう気持ち、抑えられない、から。」

「…カイル、そなたの話はまた違うものだ。」

「?」

アメリア王妃と話すサイカは僕たちが普段見られないようなサイカだった。
同性同士、しかもそれが友人という関係になるとやはり違うのだなと分かる程。
友人と侍女は違う。どうしたって違いがある。
サイカが気にしない性格でも、サイカに仕える侍女たちはサイカと己の立場を常に気にかけなくてはならない。
自分たちの行動一つでサイカが良くも悪くも思われてしまうのだ。
だからサイカが友人のように気安く侍女たちに接しようと、彼女たちまで同じような態度で接してはならないし、享受してはいけない。
その一線を、侍女たちはきちんと理解している。サイカを敬愛しているからだ。そしてサイカもまた、彼女たちのそんな気持ちを理解している。寂しいと思っても、仕方がない事なのだと理解していた。
だからこそ、同性の友人という存在が出来たのは余程嬉しいのだろう。笑顔が輝いている。


「…可愛いじゃないか…もう抱き潰す予感しかしない…。」

「…リュカ。今のは心の声か?」

「あ?」

「口に出していたぞ。」

「……は?」

「ん、…サイカ、可愛いよね…。」

「ええ…ですが、何やら物騒な事を言っていましたね。抱き潰す、とか。」

「ほら、クライス候の顔真顔になってるよ。」

からかうような視線。
…サイカに関しては同じく加減出来ないマティアスやヴァレリア、カイルは睨み付けておいた。
それにしてももう少し気を使ってくれても構わないんじゃないか、とも思う。
帝都とクラフ公爵領は離れている。だから僕はサイカと中々会う事が出来ない日々を送っていたのだ。
愛する婚約者と満足に会う事も触れ合う事も出来ず悶々とした日々を送っていた僕を労る奴はここにはいないらしい。
愛して病まない。僕の全てと豪語してもいい可愛い婚約者を漸く妻に迎える事が出来たんだ。欲を持つなという方が無理なんだ。
今だって、あの細い腰を引き寄せ口付けしたいのを我慢している。
今だって、あの柔らかい体に包まれたいのを、あの気の狂いそうな程いい匂いのする体を味わいたい、その気持ちを我慢しているというのに、こいつらと来たらどいつもこいつも気遣いというものが出来ん奴らだ。

「リュカは一刻も早く初夜を迎えたいそうだ。全く、堪え性がないな。」

「そうみたいですね。」

「…抱き潰さないで、あげて。」

「煩いぞ。」

お前たちにだけは言われたくない。特にマティアス、お前だけには!とだけ言っておく。

「お前たちの言う通り、僕は堪え性がないみたいだ。」

だからさっさとサイカの元に行かせろ、と妻になったサイカの元へ足を早める。
先に僕に気付いたのはアメリア王妃で、サイカに何か…恐らく僕の存在を伝えるとサイカが振り向く。

「リュカ!」

僕を見て嬉しそうなその笑顔の何と可愛いことか。
それだけで胸が踊る。

「一度ご挨拶させて頂きましたが改めて…。ドライト王国王妃、アメリアと申します。
ご結婚、心よりお祝い申し上げます。」

「先にアメリア王妃にご挨拶して頂くなど…御無礼をお許し下さい。」

「何を仰いますか。同じ大国と申しますが、その差は歴然。
レスト帝国は今や押しも押されぬ、世界一の大国と言っても過言ありませんわ。そしてクラフ公爵様はレスト帝国で皇族に次ぐ尊い身。
わたくしが先にご挨拶させて頂くのは当然に御座います。わたくしよりも、クラフ公爵様の方がお立場は上なのですから。」

「そう言われると…困ったな。」

「…リュカが本当に困ってる…。珍しい…!」

「こら、笑うな。」

「ふふ。ごめんなさい。」

「ではわたくしはそろそろ失礼致しますわね。」

「え?もうですか…?」

「ふふふ。ご夫婦になったお二人の邪魔は出来ませんわ。
妃殿下、またお会いしましょう。楽しみにしております。」

「ええ、また!」

「はい、必ず。」

去っていくアメリア王妃を名残惜しいといった様子で見つめるサイカに何となく悪い事をしたな、という気持ちになる。…が、念願叶いやっと愛しい女を妻に出来たんだ。今くらいは僕の我が儘を聞いてほしい。否、僕と一緒にいる間は僕を誰よりも優先させてほしい。

「サイカ。」

「うん?」

「待ちきれない。…寝室に行くぞ。」

僕の言いたい事は十分過ぎる程伝わったのだろう。
顔どころか全身を赤くしたサイカは、俯きながらも僕の裾を握った。

「抱えていく。…恥ずかしければ僕の胸に顔をうずめておけばいい。」

「…もしかして、…注目、されてる…?」

「ああ。大注目だ。」

「うっ…」

夫婦になった二人が揃っているんだ。注目されないわけがない。
周りの人間にも僕らがこれから何処へ向かうのか当然気付かれているのだろう。
不自然に視線を泳がせたり顔を赤くさせたり、あからさまにいい笑顔だったり気付いているが気付かない振りをしていたり、はたまた未だ信じられないような顔をしていたりと反応は様々だ。
僕に抱えられたサイカは顔を隠していても視線を感じているらしく、“リュカ”とか細い声を出す。
瞬間、胸をぎゅっと鷲掴みされたような堪らない気持ちになる。
何て可愛いんだ、僕の妻は。可愛い可愛い。とんでもなく可愛い。
自然と寝室に向かう足取りも早まってしまう。

「…あ、あの、リュカ、」

「ん?」

「…お、お風呂、…入りたい…ん、だけど…」

「必要ない。」

「で、でも、緊張して汗とか…いっぱいかいたし…」

「気にしない。」

「…わ、私は気にするかな…」

「どうせこれから汗を掻くんだ。」

「……ダメ?」

「ぐっ…!」

上目使いになっておねだりするようにダメ?と聞かれてしまえば駄目だ、と言えるはずもない。
理性という理性を総動員させた僕は侍女たちを呼びサイカの身を清めるよう伝えたんだが……あの凶悪なくらい可愛いサイカを目の前にして耐えてみせた僕を誰か褒めろ。あの兵器並みの可愛さを前にして理性が働いた僕を誰でもいいから褒め称えるべきだと心から思う。

サイカが湯殿にいる間に僕も身を清め、サイカの身支度が整うのを待つ。
其ほど時間は経っていないのに落ち着かない。
もう何度もサイカを抱いているのに、まるで初めてサイカを抱くような気持ちだった。
この屋敷も随分変わった。義母たちの部屋も弟妹たちの部屋ももう不必要なものだ。
自室に執務室、サイカの部屋、そして各々の部屋とは別に夫婦の部屋も作った。勿論僕とサイカの部屋にもベッドは置いてあるが、この屋敷にいる限り、サイカが夜眠るのは自室ではなく夫婦の為に作った部屋しか認めない。
それぞれの部屋にベッドを置いたのは…まあ、義母たちや弟妹たちの部屋を無くした分かなり広い部屋になったので色々物を置かないと余りにも生活感がないと言うか殺風景になると言うか…そんな理由だったりする。

「ぶふっ…!落ち着きのない旦那様とか珍しい…。」

「笑うな。…というかお前、声かけたか?」

「ドアの前で何度も声を掛けましたが…返事がなかったので全然聞こえてないな、と。勝手に入って申し訳ありません。」

「…いや、すまん。全く聞こえてなかった。」

「でしょうね。男性用の避妊薬をお持ちしました。」

「サイカには?」

「侍女が準備しております。」

「そうか。………相変わらず苦い…サイカはいつもこんな苦いのを飲んでいたんだよな…。」

「苦い分良く効くんですよ。奥様はそういったお仕事をされていたのでこの苦さにも慣れていらっしゃるのでしょう。避妊薬など男側は余り必要ない物ですから。…ご夫婦となってもまだまだ、ままならないですね…。」

「まあ仕方ないさ。マティアスとの子が先でないと。」

「ですね。承知しておりますとも。」

マティアスとサイカの間にはまだ子供が出来ていない。
中には一年夫婦生活をしてまだかという煩い奴らもいるらしいが…僕からすればまだ一年だろ、と思う。
その一年間でも、二人がゆっくり過ごせた時間は僅かだったはずだ。
マティアスは大国、レスト帝国の王。誰よりも多忙な男で、サイカもその妻となったからにはゆっくりのんびり、好きなように自由に…とはいかない。此方が自由にのんびり過ごせと言った所でサイカの性格ではそんな事は出来ないだろう。真面目で責任感のある、心根の優しい女だ。
サイカは自分のすべき事を考えるし、出来る事を探す女なんだ。
自分だけ悠々自適に過ごすなんて事は出来ない。
苦労も喜びも共にと考える、そんな女なんだ。僕たちが愛する女は。

「旦那様、侍女が参りました。奥様の支度が整ったのではないでしょうか。」

「開けろ。」

「はい。」

「失礼致します旦那様。奥様の支度が整いましたのでご報告に参りました。」

「避妊薬は飲ませたか?」

「はい。湯殿から出られた際、お渡し致しました。
全てお飲みになったのも確認しております。また、お部屋にも旦那様と奥様の避妊薬を三日分程ご用意致しております。」

「そ、そうか。…コホン。…ルドルフ、僕が呼ぶまで決して声を掛けるな。用があれば此方から呼ぶ。いいな?」

「承知致しました。」

「あと…奴らが来ても通すな。絶対にだ。」

「ええ、お任せ下さい。旦那様と奥様、ご夫婦となられたお二人の大切なお時間!例え陛下がお相手だろうとこの命をもって阻止してみせます!」

「……いや、命は大事にしてくれ。」

「いってらっしゃいませ!旦那様!!」

父たちを追い出してからルドルフの性格がよく分からなくなった。
父たちがいた頃は無表情が常で、冗談を言うような男ではなかったのにこの変わり様。
いや、ルドルフ本人から事情は聞いたが未だ茶目っ気のあるルドルフに慣れない。
…お茶目?お茶目か。お茶目…だな?
サイカとの結婚式が近付くにつれ浮かれていたのは僕だけではなかった。
使用人たちもそうだが特にルドルフが酷かった。

『奥様…いや、サイカ奥様?いや、やっぱり奥様の方がいいか…。
奥様おはようございます!奥様いってらっしゃいませ!奥様紅茶は如何ですか!?お帰りなさいませ、奥様!!…うん、いいぞ…。』

一人で何やら練習していたのを見かけた時は気が触れたのかと思った。
一週間前、五日前、二日前…結婚式が近付くにつれどんどん酷くなっていくルドルフ。
目が爛々としていて落ち着きのないルドルフに思わず引いた。気持ち悪すぎて。
それくらい楽しみにしているんだな、と見てみぬ振りをした僕は正しかったと思う。

「……ふう、」

夫婦の為の寝室が近付くにつれ、緊張が増す。
緊張と不安があるのは、まだ実感がないからだ。
だけど喜びも期待もある。足元がふわふわとして、夢と現実の区別が未だについてない。
もしかして今も、夢を見てるんじゃないだろうか。
ドアを開けても、サイカがいないかもしれない。
今日はまだ今日じゃなくて、結婚式も夢で、僕たちはまだ婚約者同士なのかも知れない。
恐る恐る寝室のドアを開けるとベッドに腰かけるサイカが見えた。

「……。」

ああ、いた。ちゃんといた。でも幻かも知れない。夢なら有り得る。何故なら、何度も夢に見た光景だからだ。目覚めて落胆した日も何度かあって、だから確かめたくとも足が動かなかった。
今すぐ触れたいのに、一歩も動けない。
夢なら、覚めてほしくない。この幸せな今日の夢を、ずっと見ていたい。今日こそは。

「リュカ。」

ゆっくりとした動きでサイカが立ち上がる。
蝋燭が心許なく部屋の一部を照らしていてサイカの顔はよく見えない。

「つかまえた。」

「…!」

僕の目の前まで来たサイカは、薄いネグリジェを身にまとっていた。

「私、リュカの奥さんになったんだよ。」

「……。」

「それからリュカは、私の旦那様になったんだよ。」

「………そう、だな…」

僕を見上げるサイカの瞳が、きらきらと輝いている。
大きな黒い瞳に魅入られたように、僕はサイカに口付けた。

「…ん…、」

「……サイカ、」

僕の、美しい妻。
僕の、愛しい妻。
夢でもいい。夢でもいいから、その代わり一生覚めてくれるな。
未だ実感がない中、僕とサイカの、夢の様な初夜が始まった。
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