ノラの女

五味千里

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十四話 上京Ⅱ

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 それから私は、どうやったらユリ姉のようになれるのか考えた。どうやったら、この日常から抜け出せるのかと。
 家出もしたし、閉じこもったりもした。この見えないしがらみや運命が私からそっぽ向くように心から願っていた。家出をした夕暮れの赤海や暗い自室で塵共を照らす木漏れ日は、私に少しばかりの幻想はちらつかせたものの、しがらみや運命の頑固の性質がそういう些細な抵抗により大きな力で私を修正した。家出をすればひょんとしたことで発見されるし、閉じこもるとドア越しでうーちゃんの泣き声までもが聞こえてきた。
 私は次第に無力感に苛まれるようになった。抗いきれない自身のどうしようもない存在的な非力さに苛立ち、そうしてついに諦念が勝るようになった。言ってしまえば、ユリ姉が鳥になったとか、自由になったとか、そんなものはただの妄想に過ぎなくて、その妄想を掴もうと足掻いても無駄で、私にはもうこの薄明るい道を行くのしかないのだと。それは洞窟に差した灯りが微かに眺められるとその距離が遥か遠くなるように。
 高校二年の夏、一つの私の中の区切りとしてユリ姉に会うことにした。ユリ姉の失踪も一年経つと、細々ながら家と連絡をとりはじめて母を通じてユリ姉の近況も不確に知れた。
 ユリ姉は、新宿の小さなライブハウスでギターを弾いているとのことだった。まだ高校生の私はその言葉に華やかな印象が貫いてきて羨望がやってきそうではあったが、今思うと当時の新宿はガラの悪い連中がウロウロしていて、小さなクラブハウスといえばそういう輩の格好の溜まり場だった。ギターひとつで上京したユリ姉もそれなりの苦労があったのだろう。しかし私はそんな事つゆ知れず、前の願望が再び心を燃やして、何だったらユリ姉にそのまま匿ってもらい、家出の続きをしてしまおうなんて思っていた。
 父もそういう密かな企みを睨んでか、私が東京に行く話をした時、随分な渋り様だった。ユリ姉と一言出すだけでその小心さに陰りが差す父に真正面からいっても勝ち目は少ないだろう。しかし建前に用意した大学見学は我ながら頑強なものらしく、それに中々のちゃんとした大学であることもあって、私は半ば強引に東京に一週間ほど滞在することに成功した。
 
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