14 / 14
十四話 上京Ⅱ
しおりを挟む
それから私は、どうやったらユリ姉のようになれるのか考えた。どうやったら、この日常から抜け出せるのかと。
家出もしたし、閉じこもったりもした。この見えないしがらみや運命が私からそっぽ向くように心から願っていた。家出をした夕暮れの赤海や暗い自室で塵共を照らす木漏れ日は、私に少しばかりの幻想はちらつかせたものの、しがらみや運命の頑固の性質がそういう些細な抵抗により大きな力で私を修正した。家出をすればひょんとしたことで発見されるし、閉じこもるとドア越しでうーちゃんの泣き声までもが聞こえてきた。
私は次第に無力感に苛まれるようになった。抗いきれない自身のどうしようもない存在的な非力さに苛立ち、そうしてついに諦念が勝るようになった。言ってしまえば、ユリ姉が鳥になったとか、自由になったとか、そんなものはただの妄想に過ぎなくて、その妄想を掴もうと足掻いても無駄で、私にはもうこの薄明るい道を行くのしかないのだと。それは洞窟に差した灯りが微かに眺められるとその距離が遥か遠くなるように。
高校二年の夏、一つの私の中の区切りとしてユリ姉に会うことにした。ユリ姉の失踪も一年経つと、細々ながら家と連絡をとりはじめて母を通じてユリ姉の近況も不確に知れた。
ユリ姉は、新宿の小さなライブハウスでギターを弾いているとのことだった。まだ高校生の私はその言葉に華やかな印象が貫いてきて羨望がやってきそうではあったが、今思うと当時の新宿はガラの悪い連中がウロウロしていて、小さなクラブハウスといえばそういう輩の格好の溜まり場だった。ギターひとつで上京したユリ姉もそれなりの苦労があったのだろう。しかし私はそんな事つゆ知れず、前の願望が再び心を燃やして、何だったらユリ姉にそのまま匿ってもらい、家出の続きをしてしまおうなんて思っていた。
父もそういう密かな企みを睨んでか、私が東京に行く話をした時、随分な渋り様だった。ユリ姉と一言出すだけでその小心さに陰りが差す父に真正面からいっても勝ち目は少ないだろう。しかし建前に用意した大学見学は我ながら頑強なものらしく、それに中々のちゃんとした大学であることもあって、私は半ば強引に東京に一週間ほど滞在することに成功した。
家出もしたし、閉じこもったりもした。この見えないしがらみや運命が私からそっぽ向くように心から願っていた。家出をした夕暮れの赤海や暗い自室で塵共を照らす木漏れ日は、私に少しばかりの幻想はちらつかせたものの、しがらみや運命の頑固の性質がそういう些細な抵抗により大きな力で私を修正した。家出をすればひょんとしたことで発見されるし、閉じこもるとドア越しでうーちゃんの泣き声までもが聞こえてきた。
私は次第に無力感に苛まれるようになった。抗いきれない自身のどうしようもない存在的な非力さに苛立ち、そうしてついに諦念が勝るようになった。言ってしまえば、ユリ姉が鳥になったとか、自由になったとか、そんなものはただの妄想に過ぎなくて、その妄想を掴もうと足掻いても無駄で、私にはもうこの薄明るい道を行くのしかないのだと。それは洞窟に差した灯りが微かに眺められるとその距離が遥か遠くなるように。
高校二年の夏、一つの私の中の区切りとしてユリ姉に会うことにした。ユリ姉の失踪も一年経つと、細々ながら家と連絡をとりはじめて母を通じてユリ姉の近況も不確に知れた。
ユリ姉は、新宿の小さなライブハウスでギターを弾いているとのことだった。まだ高校生の私はその言葉に華やかな印象が貫いてきて羨望がやってきそうではあったが、今思うと当時の新宿はガラの悪い連中がウロウロしていて、小さなクラブハウスといえばそういう輩の格好の溜まり場だった。ギターひとつで上京したユリ姉もそれなりの苦労があったのだろう。しかし私はそんな事つゆ知れず、前の願望が再び心を燃やして、何だったらユリ姉にそのまま匿ってもらい、家出の続きをしてしまおうなんて思っていた。
父もそういう密かな企みを睨んでか、私が東京に行く話をした時、随分な渋り様だった。ユリ姉と一言出すだけでその小心さに陰りが差す父に真正面からいっても勝ち目は少ないだろう。しかし建前に用意した大学見学は我ながら頑強なものらしく、それに中々のちゃんとした大学であることもあって、私は半ば強引に東京に一週間ほど滞在することに成功した。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる