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5 暗雲

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 すうっと、全身の血が凍り付くような気がした。
「沖田さん!」
 純は大声を上げた。沖田が、怪訝そうに振り返る。
「この週刊誌、今日発売ですよね? 今すぐ買って来てもらえませんか?」
「これがどうかしたんですか……」
 言いながら近づいて来た沖田は、広告を見て顔色を変えた。
「……まずいですね」
「どうしましょう?」
「落ち着いて。純さんは未成年ですし、顔や氏名が載ることはないはずですよ。取りあえず、買って来ます」
 沖田は、純を慰めるようにぽんぽんと肩を叩くと出て行った。その間も落ち着かない純は、桐ケ谷に電話をかけた。レイプだけでも耐え難い屈辱だったというのに、それがマスコミにさらされるなんて……。
『身体は、もう平気なのか?』
 電話に出た桐ケ谷は、開口一番尋ねた。
「大丈夫です。それより、大変なんです」
『週刊誌か?』
 桐ケ谷は、すでに知っている様子だった。
「はい……。まだ読んだわけではないんですけど、新聞の広告を見てびっくりして……」
『ああ。恐らく国会はそれ一色になるだろう。でも落ち着け。お前はまず、身体を本調子にすることを考えろ』
 それでも純は、不安で仕方なかった。
「でも、沖田さんも見出しを見て、すごく心配していました。今、買いに行ってくれているんですけど……。あ、でも、僕は未成年だから、顔や氏名が載ることはないだろうって言ってくれました」
 すると桐ケ谷は、なぜか黙り込んだ。
「……桐ケ谷さん?」
『……ああ、何でもない。一人にしてしまうが、冷静にな。俺が守ってやるから』
 電話は、カチャリと切れた。純は、ほっとため息をついた。桐ケ谷に『守ってやる』と言われただけで、不思議なくらい気持ちが落ち着くのを感じた。
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