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8 一願(いちがん)
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「もしかして、あの時から椎葉さんとは繋がっていました? ほら、沖田さんに誘拐されて、助けてもらった日……」
桐ケ谷に始めて抱かれたあの日、純がシャワーを浴びている間、桐ケ谷は誰かと電話していた。電話の最後に、桐ケ谷はこう言ったのだ。
『じゃあ頼むぜ、椎葉さん』
あの時は、聞き違いかと思ったものだ。桐ケ谷は、椎葉をひどく嫌っていたから。下々の下だ、とまで言っていたのに……。
「何だ、やっぱり立ち聞きしていたんじゃないか」
桐ケ谷は苦笑した。
「最初は、あんな奴信用できるものかと思っていたんだがな。でもあいつは、熱心に俺にコンタクトを取ってきて。それで仕方なく相手をするうちに、親しくなってな。意外と、ウマが合うんだ。Y街では顔が利くらしくて、証拠集めに奔走してくれたよ」
「へえ、椎葉さんが卓也さんにコンタクトを?」
そんな話は、初耳だった。
「ああ。相当お前を心配していたようだな。幸せにしてやれ、だと。言われなくても、するというのに」
桐ケ谷は純を見つめると、照れくさそうに笑った。
「いつかは、乱暴な真似をして悪かった。……嫉妬したんだ。お前が、その、ずいぶん椎葉のことを信頼しているようだったから……」
真っ正直に告白され、純は思わず赤くなった。
「……ま、まあ、仲良くなったならいいじゃないですか。じゃあ、彼に会いに行ってもいいですか?」
「いや、それとこれとは別だ」
桐ケ谷は、真顔でかぶりを振った。
「行くなら、俺と一緒の時にしろ。……ああ、そうだ。椎葉といえば、番のオメガとの間に、子供ができたそうだぞ」
「ミヤビさんとの子供が?」
次々と知らされるニュースに、純は目を丸くした。
「純。お前、自分を卑下するな。お前は十分、人の役に立っているよ。椎葉もその番も、とても幸せそうだ。……そして、俺もな。純、お前のおかげで、俺は本当に幸せだ」
桐ケ谷が微笑む。純は胸が熱くなった。
「ありがとうございま……」
だが礼を述べかけて、純は妙な感覚を覚えた。何やら、胃がムカムカするのだ。
桐ケ谷に始めて抱かれたあの日、純がシャワーを浴びている間、桐ケ谷は誰かと電話していた。電話の最後に、桐ケ谷はこう言ったのだ。
『じゃあ頼むぜ、椎葉さん』
あの時は、聞き違いかと思ったものだ。桐ケ谷は、椎葉をひどく嫌っていたから。下々の下だ、とまで言っていたのに……。
「何だ、やっぱり立ち聞きしていたんじゃないか」
桐ケ谷は苦笑した。
「最初は、あんな奴信用できるものかと思っていたんだがな。でもあいつは、熱心に俺にコンタクトを取ってきて。それで仕方なく相手をするうちに、親しくなってな。意外と、ウマが合うんだ。Y街では顔が利くらしくて、証拠集めに奔走してくれたよ」
「へえ、椎葉さんが卓也さんにコンタクトを?」
そんな話は、初耳だった。
「ああ。相当お前を心配していたようだな。幸せにしてやれ、だと。言われなくても、するというのに」
桐ケ谷は純を見つめると、照れくさそうに笑った。
「いつかは、乱暴な真似をして悪かった。……嫉妬したんだ。お前が、その、ずいぶん椎葉のことを信頼しているようだったから……」
真っ正直に告白され、純は思わず赤くなった。
「……ま、まあ、仲良くなったならいいじゃないですか。じゃあ、彼に会いに行ってもいいですか?」
「いや、それとこれとは別だ」
桐ケ谷は、真顔でかぶりを振った。
「行くなら、俺と一緒の時にしろ。……ああ、そうだ。椎葉といえば、番のオメガとの間に、子供ができたそうだぞ」
「ミヤビさんとの子供が?」
次々と知らされるニュースに、純は目を丸くした。
「純。お前、自分を卑下するな。お前は十分、人の役に立っているよ。椎葉もその番も、とても幸せそうだ。……そして、俺もな。純、お前のおかげで、俺は本当に幸せだ」
桐ケ谷が微笑む。純は胸が熱くなった。
「ありがとうございま……」
だが礼を述べかけて、純は妙な感覚を覚えた。何やら、胃がムカムカするのだ。
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