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番外編②:桐ケ谷と沖田の話
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嫌な予感がした。僕は卓也に、華の存在を伏せていた。卑怯なのはわかっていたが、打ち明ける勇気がなかったのだ。
――お前、教室にノートを忘れてたろ?
卓也は僕に、ノートを差し出した。
――わざわざ持ってきてくれたのか? 今度大学で会う時でよかったのに。
――試験も近いし、早い方がいいかと思ってな。
そこへ、明るい声がした。
――どうしたの? お友達?
華が、部屋から出て来たのだ。僕は仕方なく、二人を引き合わせた。卓也は気を遣ったのか、すぐに帰って行ったが、華はその後、興奮冷めやらぬ様子だった。
――あの人、アルファだよね? すごーい。身近にアルファの人なんて、初めて見た!
ベータとかアルファとか関係ないじゃん、そう僕を励まし続けてくれたのは何だったのか。やや苛ついたものの、僕は聞き流すことにした。
だがそれからというもの、華からの連絡はぷつりと途絶えた。そして数日後。卓也が僕を呼び出した。彼は、言いにくそうに告げた。華が大学まで押しかけてきて、自分に告白したのだと。
――でも、俺は断った。それをお前に言っておこうと思ってな。お前を傷つけるとは思ったが、黙っているのはフェアじゃないから。お前は、親友なんだからな。
僕は華の存在を黙っていたというのに、卓也はそう言った。そして彼は、こう続けた。
――こう言っちゃ何だが、あの女は止めとけ。二、三分話しただけのよく知らない男に飛びついて、長年の付き合いの男を裏切るなんて、ろくなもんじゃない。
卓也の言うことは全て正論だった。そして、彼に非がないのもわかっていた。それでも僕は、悔しくてしかたなかった。華が卓也を選んだのは、アルファだからだ。やはり、ベータはアルファに勝てないのだ……。
――お前、教室にノートを忘れてたろ?
卓也は僕に、ノートを差し出した。
――わざわざ持ってきてくれたのか? 今度大学で会う時でよかったのに。
――試験も近いし、早い方がいいかと思ってな。
そこへ、明るい声がした。
――どうしたの? お友達?
華が、部屋から出て来たのだ。僕は仕方なく、二人を引き合わせた。卓也は気を遣ったのか、すぐに帰って行ったが、華はその後、興奮冷めやらぬ様子だった。
――あの人、アルファだよね? すごーい。身近にアルファの人なんて、初めて見た!
ベータとかアルファとか関係ないじゃん、そう僕を励まし続けてくれたのは何だったのか。やや苛ついたものの、僕は聞き流すことにした。
だがそれからというもの、華からの連絡はぷつりと途絶えた。そして数日後。卓也が僕を呼び出した。彼は、言いにくそうに告げた。華が大学まで押しかけてきて、自分に告白したのだと。
――でも、俺は断った。それをお前に言っておこうと思ってな。お前を傷つけるとは思ったが、黙っているのはフェアじゃないから。お前は、親友なんだからな。
僕は華の存在を黙っていたというのに、卓也はそう言った。そして彼は、こう続けた。
――こう言っちゃ何だが、あの女は止めとけ。二、三分話しただけのよく知らない男に飛びついて、長年の付き合いの男を裏切るなんて、ろくなもんじゃない。
卓也の言うことは全て正論だった。そして、彼に非がないのもわかっていた。それでも僕は、悔しくてしかたなかった。華が卓也を選んだのは、アルファだからだ。やはり、ベータはアルファに勝てないのだ……。
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