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第四章 真実

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「な……、何がおかしいの?」
「ああ、ごめん。真凜が、盛大な勘違いをしてるなって思ったから」
「勘違いって? 社長の息子なのは、事実だろ?」
 そうだよ、と麻生はけろりと答えた。表情は、意外なほど明るい。
「順を追って説明しようか……。実は僕は、父の会社に入社するのを最初拒んでいたんだ。すると父は言った。三年でいいから、勤めてみろって。ま、その間に気に入って居着くのを、期待していたんだろうけどね」
 そうだったんだ、と真凜は思った。
「そして父は、こうも言った。その三年の間に、誰もやったことがない新規の企画を立ち上げてみろって。その企画を成功させれば、お前の勝ちだ、仕事も結婚も好きにしろってね」
「もしかして……」
「うん。それで僕が企画したのが、この『中世ヨーロッパ展』。今日、無事最終日を終えて、僕は父に会いに行った。遅くなったのは、そのせいだ。父は、このフェアの成功を認めると言った。だから僕は、父にこう宣言したんだ。約束通り、好きにさせてもらうと。心に決めたオメガの子がいるから、彼を番にして結婚する。……そして、『藤堂百貨店』を継ぐこと自体は構わないが、世襲制は僕の代で廃止する、とね」
「類人……」
 真凜は、目を見張った。麻生は、そんな真凜を見て微笑んだ。
「身分を偽っていたのは悪かった。ずっと、一人の人間として見られたいと思っていたんだ。『藤堂百貨店の社長の息子』じゃなくてね。だから、偽名で働いていた。もちろん給料も、他の社員と同じ。実家も出て、自分の収入でここを借りた。真凜に秘密にしていたのは、打ち明けたら絶対跡継ぎのことを気にするだろうと思ったから。だからこうやって、先手を打った」
「僕のために、お父さんと約束を……?」
 お見通しだったのか、と真凜は呆然とした。
「まあ元々、世襲制には反対だったけれどね。今時、古くさいじゃないか? それよりも社員を育てて、その中から適任な人を選ぶ方がいい。……でも一番の理由は、やっぱり真凜かな。不妊のこと、すごく気にしていたみたいだったから……」
 麻生はそこで言葉を切ると、不意に真面目な顔をした。
「だけど、真凜が別れるとまで思い詰めていたとは知らなかった。それなら、違う案もあるよ? もう一つ考えているのは、二人でフランスへ移住することだ」
「――ええ!?」
 真凜は仰天した。
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