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1 フォレサクレ王国

1. 吾輩は猫である

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「やばい やばい やばい 遅刻 遅刻 遅刻」

塾に遅刻しそうで必死で自転車を漕ぐ。下り坂の抜け道はただでさえスピードが出るのに更にペダルをふみこんだ時、黒い影が目の端に映った

「え?猫」

ブレーキをかけながらハンドルを切る



黒猫が前を横切ると悪いことが起こるって本当だったんだ。猛烈な眠気の中でそんな事を考える。

ホント眠い たまんなく眠い。今日ってクラス分けテストなのに、ただでさえ遅刻しそうなのにこんなところで寝たら絶対に間に合わない。

あああ でももう頑張れない ちょっとだから寝かせて……五分だけでいいからお願い……



***

んんん 誰だ?
まだ眠いのに僕の頭を撫でるのは?

その手が優しくて、気持ちよくて、瞼(まぶた)の向こうが明るいから、目を開けようとしたら口が開いた

「マー」

え?僕の声?

「あら、あなたはマーって言うお名前なのね。でもね、ここは王宮で、あなたは王女のお友達なんだからそのお名前はダメよ。もうちょっと、そうねえ マ、マ、マダナはどう?」

可愛くて 優しい声がして ふんわりとしたものがボクに押し付けられた。
目を開けると一度にいろいろなものが見えて、なにがあるのかわからない?戸惑っているのに僕の口は勝手にまた開く

「マー」

「そう、気に入ったのね。マダナ、わたくしはこのフォレサクレ王国の王女マグダレーナよ レーナと呼んでくれていいわよ」

「マー」

同じ部屋にいる大人達が真面目な顔で僕とレーナを食い入るように見ているのが可笑しくて、また口を開けてしまった。





僕はコドモトビネコという、見た目は前に居た世界の猫にそっくりな魔物に転生したらしい。
大人の片手に乗っちゃうくらい小さくて、跳躍力が凄くて飛んでいるように見える猫というのがその名前の由来だけど、その生態はほとんど不明。

不明、ということは飼育なんてできるはずもない、だからなのか 僕は王女のお友達ポジションってことで王女の部屋で暮らしている。

王女は小学生くらいかな?
僕に懐いていて、朝ごはんは一緒に食べるし、ブラッシングもしてくれるから僕の毛並みはツヤツヤで、動かなければぬいぐるみにしか見えない。

猫のぬいぐるみとかわいらしい王女の組み合わせはどこに出しても恥ずかしくない。そう思うんだけど、この城で暮らし始めてだいぶたつけどこの部屋から出してもらえてない。

え?もしかして僕、軟禁されているんじゃない?
そういえば、居室とベッドルームの間のドアは僕がちょっとひっかくだけで王女は指一本うごかさず「扉よ開け」
この言葉だけで開けてくれるのに この部屋から出るドアは開けてくれない。




「ナー ナー」

外に通じているらしいドアの前で鳴いてみるとレーナがトコトコと来て抱っこしてくれた。

トントントン

目の前のドアがノックされてレーナの腕の中で身をすくめると、優しく僕を撫でてくれてそれだけで僕は安心する。

「開け」

レーナが小さく言っただけでドアが開いて、いつもの大人しそうな少女が朝食をワゴンで運んできて、テーブルにセットする。

毎朝ルームサービスなんて贅沢だね。僕の好みを知るためか、毎朝いろんな種類のものが運ばれてくる。

前世と好みは変わらないみたい。魔獣だからなのかな?甘いケーキとかもへっちゃらだよ。
僕は焼きそばとかたこ焼きとかも好きなんだけどそれはまだ出てこないなあ。いつか出てくるのかな?



朝食が済んだら、レーナと一緒に遊ぶ。

追いかけっことかかくれんぼとかするんだけど、レーナはかくれんぼが下手、というか かくれんぼしているつもりがないのかな?

見え見えでカーテンの後ろに入ったりしていて、僕が「みーつけた」って丸見えのレーナの足をペシペシって叩くと大喜びするんだ。そこは残念がるところでしょ!

ちょっと遊んだだけで、レーナは行ってしまう。
学校にでも行くのかな?って思ってたんだけど、帰ってくるレーナの話から想像するとお城の中の勉強部屋でいろんな勉強をしているみたい。
マナーとか歴史とか魔法とか。王女って小さい頃から大変なんだね


いつものようにレーナが僕をぬいぐるみがたくさん入ったかごに入れて「いい子にしていてね」って頭を撫でて行ってしまったら僕はお昼寝タイム。

気が向いたら、かごの中からメイドがレーナのベッドを整えたり、お掃除をしているのを観察する。

お城って人手不足なのかな?
朝と夕のワゴンを持ってきてくれるのも お掃除をしているのも同じメイドなんだよね

お掃除が終わったら、僕の自由時間
かごからさっさと出て 整えたばかりのベッドでゴロゴロしたり ゴロゴロしたり ゴロゴロしたり 飽きた~


バサバサバサ!!! 

突然大きな羽音がした。




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こんにちは 魔獣の猫のお話です。

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