上 下
21 / 56
2 アサータ王国へ

7 待ち人が

しおりを挟む
食事が終わる頃、といっても僕が半分くらい食べた気がするけど、さっきの二人が来てたから僕はベッドの下に潜る。そして二人がセクウの身支度を手伝うのを眺めていた。貴族が身支度を誰かに手伝わせるのは当たり前らしいけどセクウの場合は一人で立っているのも難儀って様子だった。

支度が終わるとセクウは僕を置いて杖を突きながら隣の部屋へ行った。隣の部屋からは声が聞えてきたから、レーナみたいにお勉強でもしているのかもしれない。
レーナと同じくらいに見えたから、これから学園に通う年ごろなのかな?
その前から勉強なんてアイツも大変だね ちょっとだけ同情してあげる

でも、同情するのと味方になるかは話は別。同じ事アイツも考えてるのかな?
迷子の僕に同情はするけど、利用もするつもりかな?

ナイショでこの国に来た僕は、レーナの弱みになっちゃうのかな?
勝手に外になんか出なきゃよかった。セクウに捕まんなきゃよかった。

レーナに会いたい。

悲しいような、悔しいような気持ちになって、丸くなったら涙が出てきた。舌を伸ばして舐めてみたらしょっぱかった。



遠くでノックの音がする。
それから、レーナとマオリの声――レーナ!!!

僕はベッドの下から飛び出してドアまで飛んで、ドアをひっかこうとして、止めた。
レーナが困るようなことはしたくない。
セクウは何を考えているんだろう?僕はなにかの交渉に使われたりするのかな?
このドアの向こうにレーナが居る、でも会うことは正解なのかな?
チリン、ドアの向こうからはリボンに付いていた金の鈴の音が聞こえる。
……僕はドアにピッタリとくっついてレーナの声を聴く。僕はここ、すぐそばにいるよ

「……マ……」

開きそうになった口を閉じた時、僕がくっついていたドアが開いて僕は居室に転がりこんだ

「マダナ!」

僕はレーナの両手に包まれて、レーナの頬っぺたの柔らかさを感じた。それから僕の顔がちょっと濡れたのは、僕の涙のせいだけじゃないと思う

「マー マー マー」

レーナに会えた 会えた 会えた




「取り乱して、失礼いたしました。マダナを保護して頂きありがとうございました」

僕を両手の中に包み込んだままレーナが深くお辞儀をする。
ねえ、レーナ、僕は保護なんてされてないよ、ただ、間違えてセクウの部屋に入って心読まれて、寝て、ご飯もらっただけだよ、って保護されたってことか?
レーナの手の間からセクウをまじまじと見る。
セクウはなんでか、片手で口元を覆ってこちらから少し視線をそらしている。レーナが挨拶しているのに失礼なヤツだな。文句を言ってやろうと僕は口を開

「何か、わたくしに出来る事があればお礼をしたいと存じます」
「では、レーナリア嬢一つお願いをしても?」

セクウ、そこは遠慮するところだぞ。レーナ、無理言われたら断るんだよ。
僕はセクウとレーナを交互に見る

「また、会いに来ていただけますか?お嫌でなければ」
「そんなことでよろしいのですか?」
「ご存じないでしょうが、ボクは御覧の通り、身体が弱くてあまり外に出ることがなく幽霊王子など――」
「それは奇遇ですわね わたくしも箱入り娘で部屋から出る事がありませんでしたの」

レーナが微笑むとセクウは少し首を傾げて口の端を上げた。なんか悪だくみしていそうな顔、セクウにはそのぎこちない笑いがちっとも似合ってない。
しおりを挟む

処理中です...