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4最終章//少年期2

4-6 小休止

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「あ!エディが追いついたよ。クレア、一度馬車を停めさせよう」

クレアがホッとしたように御者席の方へ向かい、馬車は速度を落とし道の端によって停車した。僕が窓を開けると騎馬のエディが寄って来た。

「エディご苦労様、首尾は?」
「上々!」

 エディが二っと笑って、親指を立てた。うん、これで糾弾劇の後始末も終了かな?クレアの方を振り向くとクレアもほっとしたような顔をしている。

「ねえ、少し休憩しない?少し暗いけど良いよね?」
「まだ明るさは残っているから、少々の休憩は問題ないでしょ?」

エディは馬の向きを変え、クレアは御者にその旨を伝えた。

「クレア、準備してある飲み物と食べ物から好きなの選んでよ。もちろん御者と護衛の分も好きなだけ持って行って!」

ほらっと僕が座席の下から食料の入った木箱を引っ張り出していると、エディが馬車に戻って来た。

「エディ、祝杯は後でだからお酒はダメだよ」

小さい声で言うとエディは肩を竦めた。それから僕の横に並ぶと木箱の中から食料を取り出して、そこにあったピクニックシートの上に並べながら、エディを挟んで反対側にしゃがんだクレアと何かを話しだした。



姉上がシートに座ったまま、そんな僕達の方をじっと見つめているのは「不思議に思っている事」をまた増やしているのかもしれない。

「ザベス様は今日の出来事についてお知りになりたい事が沢山あって、それはクレアには説明が難しい、と」

エディがピクニックシートで並べた食糧をくるりと包んで立ち上がる。

「じゃあ、ビイ様がここでザベス様に説明をするしかないっすね」

エディが少し屈んで、僕の顔を見る。

「わたくしは、二人きりでなくてもいいわよ。」

姉上は、そうでしょうね。僕はすこーしだけガッカリして、ポスンと姉上の隣にお尻を落とす。その様子をみてエディがフンと鼻で笑う。ホントにエディは失礼だなあ!僕の気持ちを読んだ上で笑うんだから……

「クレアかエディが教えてくれてもいいのよ?」

姉上が二人をじっと見ると、クレアがエディの服を引っ張り、黙って首を振る。

「ビイ様、俺もクレアもお二人を信用してますからね!」

エディはクレアを促して馬車を降りる

「ドアは閉めないでおいて下さいね」

クレアはそう言って馬車を離れた。

「随分 沢山持って行ったね?」
「護衛は何人いるのかしら?」

姉上と僕が同時に言葉を発して、二人とも黙る。お互いに目で先を促して、僕が先に口を開いた。

「その質問の答えは一人、御者のベンスは剣術の心得はあるけど護衛って程じゃないからね」
「そう。その他の質問もビイが答えてくれるのよね?」

姉上が僕を上目遣いに少し睨むようにして見つめる。久しぶりの姉上と二人きりの空間に 僕はドキドキして来た。しかも自分で座ったとはいえ距離も近い……深呼吸を一つ

「姉上、今、ここに居るのは姉上と僕だけです」
「そうね」
「これから話す事には僕と姉上の二人だけの秘密です」
「ええ、わたくしとヒビキ、ふたりだけの秘密にしましょう」

その言葉は小さいころ、あの秘密の場所で姉上に言われた言葉そのままだ。姉上が自分の人差し指を「しー」っと姉上の形の良い唇に当てる。

「はい!それなら、いいですね。」

あの時の自分の言葉を思い出しながら言って、僕は姉上の人差し指を取って、僕の唇に当てた。

「姉上と僕、ふたりだけの秘密ね」

姉上の指を僕の唇から離して、姉上のその手を僕の両手で包む。
姉上だけが知らない、誰からも知らされていない「運命神』が作った世界。クレアも父上も、多分母上も知っているのに姉上に秘密で回避しようとしてきた未来(いま)

「姉上は、僕がネイビー伯爵家の養子に選ばれた理由を知ってる?」
「ビイに夢見の力と才能があると判断されたから、でしょ?」

余りに簡単な質問に姉上が、肩透かしを食らったような顔で応える

「正解!では 夢見って何か知ってる?」
「怒るかもしれない未来、天災や災厄を予知する夢を見る事。それからビイの輪遊びの様に何か発見や発明につながる夢の場合もあるのよね?」
簡単な質問に答えてからふっと姉上が真顔になって僕を見る。
「今日の糾弾劇を夢見したのはビイなの?」

僕は何も言わずに、姉上に向かって親指を立てた。

「それで?どんな夢見なの?」
「夢見は僕の大事な仕事です」
「あ」

姉上が両手で口を隠した。扇が足元に落ちたのにも気が付かない、それが可愛くてギュっと抱きしめたい!けれど、全開にされている扉の向こうからエディとクレアが見ているような気がして、出来ない……

「だから、詳しくは言えないんだ。ごめんね。でも、姉上を大好きな皆が、姉上を守ったんだよ」

扇を拾って姉上の膝に乗せた。

「夢見の中でのビイの行動を今日のビイがなぞったの?」

姉上はイエスかノーで答える質問をする事にしたみたいだから、僕は首を横に振る。

「僕は、夢見には登場していないんだ」
「登場していない?ビイはここに居るのに?」
「運命神は、僕の事は忘れてたみたい。だからそれを利用させてもらったんだ」

僕の夢見では糾弾の場面に僕は居ない。運命神の世界では僕と姉上は不仲で僕なんて居ないような存在だったからね。それ故、姉上を助ける事が出来たのだから面白い。

「夢見の糾弾劇が起きたときの為にうちの馬車は帰らないで待っていたのね。でも、あのアル殿下の書類は?」
「アルも僕の夢見には登場しない。だからアルがどうしてあれを貸してくれたのかは僕にも分からない。でも、糾弾劇が起きた以上使わせてもらうためにエディがお城に届けた。姉上がピンクウサギと関わり合いになったことがないって証拠になるからね」
「アル殿下は、なんだか不思議な方ね?」
「そうだね。アルやアルの護衛も運命神のシナリオをは随分と狂わせたんじゃないかな?」
「フレーミイ王子とピンクウサギじゃなくて、ピンクウサギとアル殿下の護衛とのロマンスになるのかしら?」
「うーん それは無いかな?」

ふふふと二人で笑いあう。その軽い雰囲気に乗じて僕は姉上の両手を僕の手で包んで――

「そろそろ出発しませんか?」
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