異世界で吟遊詩人のパトロンになりました

水都(みなと)

文字の大きさ
19 / 65

10-2

しおりを挟む

 家を追い出されることもなく、連れて行かれたのは屋敷の食堂だった。
 どうやら本当に昼食を食べるらしい。

 だだっ広い部屋に、クロスの掛けられた長い机が置かれている。
 その端と端にでも座りたかったのだが、上座側に向かい合わせに座らされた。
 
 食事は使用人たちと一緒に食べないから、わざわざ食堂を使うのも面倒だと相変わらず部屋で食べていた。
 この部屋で食べるのも一体何年振り、そして兄さんと食事をするのも……

 既に食欲がない。何も喉を通る気がしなかった。

 パン、サラダ、スープ、オードブルの魚。
 コース料理のようなメニューが一気にテーブルに並べられた。

 兄さんが上品に微笑む。
 
「フレディは順番に配膳されるのが苦手だっただろう? こうして並んだ料理を見ると、昔を思い出すね」

 食べてる最中に次の料理が運ばれて、食べたらその都度皿を下げられるのが苦手だった。
 早く食べろと急かされて、絶対残すなと言われているようで、落ち着いて食べていられない。
 アレク兄上には許されなかったが、リュシアン兄さんと2人だけのときは最初から全部の料理を並べてくれた。

 そんなこと、まだ覚えていたのか。

 兄さんが優雅な仕草でナイフとフォークを手に取る。俺も慌てて形だけ真似る。
 食欲はなかったが、白身魚を適当に口に運んだ。

「……旨い」

 魚が口の中でホロっと崩れた。ソースがまた堪らなく俺の好みだ。
 失せていた食欲が復活して、箸が……いやフォークが進む。

 気づくと兄さんが手を止めて、子供を見つめるような優しい笑みを浮かべていた。

「昔から、フレディは肉より魚が好みだったね。口に合ったようで良かったよ」
「……なんか、ありがとう。いろいろと」

 俺好みの配膳に俺好みの食事。
 全部兄さんが決めてくれたんだろう。

 俺が礼を言うと、兄さんは意外そうな顔をした。少しだけ目が潤んでるようにも見える。
 ノーマンといい、大の大人を泣かせてしまうほど、今までの俺は酷かったのか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

お疲れポメラニアンの俺を癒したのは眼鏡イケメンの同期だった

こたま
BL
前田累(かさね)は、商社営業部に勤める社員だ。接待では無理してノリを合わせており、見た目からコミュ強チャラ男と思われているが本来は大人しい。疲れはてて独身寮に帰ろうとした際に気付けばオレンジ毛のポメラニアンになっていた。累を保護したのは普段眼光鋭く厳しい指摘をする経理の同期野坂燿司(ようじ)で。ポメラニアンに対しては甘く優しい燿司の姿にびっくりしつつ、癒されると…

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

処理中です...