21 / 65
10-4
しおりを挟む前世の俺。楓人としての子供時代は、あまり楽しいものではなかった。
小さな頃に両親が離婚して、母親は働き詰めで家ではいつも1人。
そんな時に支えになったのがアニメや漫画だった。
母親も漫画に寛容なタイプだったから、厳しい家計の中からたまに漫画を買ってくれた。
でも高校生になって、母親が再婚すると事情が変わった。
再婚相手の男は俺と真逆で、オタクが大嫌いなタイプだった。
嫌いなだけならともかく、義理の息子になった俺がオタクなことを許せなかったらしい。
アニメを見ていれば罵倒され、どんなに隠しても家に帰ると漫画やラノベが庭に捨てられていた。
アニメや漫画に支えられてギリギリのところでメンタルを保っていた俺は、完全に壊れた。
家にあの男がいるから完全に引きこもることはできなかったが、虚無な3年間を過ごした。
卒業と同時に家を出て、バイトしながら1人暮らし。
そのバイト先もブラックでパワハラやいじめを受け転々として、途中から日雇いバイトばかりしていた。
そんな中で紫月ノエルと出会い、細々と応援することが俺の生きがいになっていた。
「フレディも空想小説が好きだったのかい?」
兄さんの穏やかな声に、ハッと現実に引き戻される。
すっかり楓人の意識だったが、今の俺はフレデリックだ。
「ええと、本屋でちょっと見たのが、おもしろくて」
「どんな物語なのかな?」
「え……」
「聞かせてほしい。今フレディが何を好きなのか」
ナイフとフォークを置き、淀みのない純粋な目がこちらを向く。
適当に誤魔化してしまうこともできるが、兄さんへの罪悪感からか気が引ける。
とはいえ、前世の漫画やラノベの話なんてしてもわかるわけがない。
適当にこっちの世界にありそうな小説をでっち上げるか。でもそんなの……
俺の脳裏に、銀色の光が見えた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
64
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる