犬獣人は愛されたいのに

水都(みなと)

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「これを付けろ」

 ルーカスに突きつけられたのは、白い首輪だった。
 バックルの真ん中からは十字のシルバーのチャームが下がっている。

「首輪、もう用意してたのかい?」
「犬には必要だからな」

 目の前に立ったルーカスは、首輪のバックルを外した。
 恐々首を前に伸ばしたシェルに、首輪のベルトが巻かれる。
 首輪と首の間に、冷たいルーカスの指が挟みこまれた。

「苦しくないか?」
「大丈夫、です」

 恐ろしいと思っていたルーカスからの、初めて気遣いの言葉。
 首元は見えなかったが、代わりにゼノが感嘆の声を上げた。

「よく似合ってるよ。オシャレでいいじゃない。ほら、鏡を見てきてごらん」

 シェルはいそいそとドア横の鏡に向かった。細い首筋にはめられた首輪は、さながらチョーカーのようだった。
 揺れるチャームを気に入って、シェルは何度も首を振ってみた。
 ジルドではめられていた、自分を拘束するだけの首輪とは違う。

「血統書付きになったみたいです」

 鏡の中の顔が綻ぶ。しかし、バスローブからチラリと覗いた鎖骨に昨夜の痕を見つけ、さっと顔を伏せる。
 その視線の先に立てかけられたモノに、背筋が凍った。
 視線に気づいたゼノもそちらを見る。

「鞭も、もう用意してあるんだね」
「ああ」

 黒いステッキのようなそれは、木を削って作られたケインだった。
 獣人の飼い主は、首輪と鞭を揃えることが義務付けられている。

 とはいえ、子犬の頃は老婦に鞭を振るわれたことは一度もなかった。
 ジルドの商人に初めて叩かれた鞭は息ができなくなるほどで、その痛みに数日間苦しんだ。
 奴隷だった頃も、鞭は一番の恐怖だった。
 
 与えられた一瞬の優しさは吹き飛び、昨夜の恐怖が思い起こされる。

 鞭こそ使われなかったが、自分にあれほどの痛みを与えることをルーカスは厭わない。
 本来鞭は粗相をした獣人の仕置きのために使われるが、主人の気まぐれによって変わる。
 少しでも機嫌を損なえば、新しい主人もまた簡単にその鞭を振るうかもしれない。

 バサバサと小窓から何かが聞こえた。
 ルーカスがカーテンを開くと、サッと明るい陽射しがシルエットを映し出した。

 羽ばたいているのは一羽のカラスだった。
 何かを頷くと、ルーカスが息をひとつ吐いて部屋のドアに向かった。

「仕事だ。出てくる」
「いってらっしゃい」

 ゼノの返事に、シェルも慌てて頭を下げた。顔を上げると、ルーカスの姿は消えている。

「あの、ご主人様のお仕事って……」

 聞くと、ゼノがふっと笑って声を落とした。

「呪術師だよ。とびっきり強力な、ね」
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