犬獣人は愛されたいのに

水都(みなと)

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 食後のコーヒーを淹れ、ゼノの前に運ぶ。

「ありがとう。至れり尽くせりだね。こんな良い家族ができたのに、碌に帰らないなんて薄情なご主人様だ」
「ご主人様は、お忙しいですから」

 あの晩のことがあり、いまだルーカスへの恐怖は消えない。
 それでも自分のために首輪を用意し、丁重にそれをはめたその手からは温もりを感じた。
 主人に可愛がってもらいたいという願いが湧き上がってくるのは、犬としての本能だろうか。

「呪術祓いというのは、大変なお仕事なのですよね」
「そう。呪術はかけるよりも祓う方が、強い魔力と高い技術が必要になるからね」
「すごい方なんですね、ご主人様は」
「まあね、すごいやつだよルーカスは。生まれたときからね」

 ゼノがコーヒーを一口啜り、カップをソーサーに置いた。カチャリとスプーンが揺れる。

「呪術に手を出す人は意外と多いけど、祓える人間は極僅か。だからこそ仕事が引っ切りなしで、こうして1人暮らしにしては無駄に広い屋敷にも住める。シェルは、ルーカスが幸せそうに見えるかい?」
「それ、は……」

 言葉通りならば恵まれた生活だ。
 しかし、ゼノの重い口調にシェルは言葉を詰まらせる。ゼノがゆっくりと部屋を見渡した。

「ルーカスの家系は代々魔法使いでね、結構名の知れた家だった。その中でもルーカスの魔力は頭ひとつどころか、十も二十も抜けてたらしい。生まれながらのエリートだって、周りは持て囃したそうだよ」

 ゼノは頬杖をつき、視線だけでシェルを見上げた。

「強い魔力は尊敬と称賛に値するけど、強すぎる魔力は恐怖の対象だ。幼少期は、あまり良い思い出がなかったみたいだね。この辺はルーカスも詳しく教えてくれないけど、連絡の取れる家族はいないらしい。恐ろしい呪術師として、近づく者も誰もいない。呪術を祓ってもらった依頼人でさえ、金を渡したらすぐ追い返すそうだからね」

 漂う空気が重くなる。
 たった1人でいる孤独は、ジルドで嫌というほど味わった。
 しかし、家族が傍に居ながらにして感じる孤独は、想像することしかできない。そして今も尚、ルーカスは独りだ。
 その類稀なる才能によって。
 
 ゼノは顔を上げると、カップを脇に寄せた。

「ペットを飼ったらどうかって言ったのは僕なんだ。生存確認なんて言って僕もちょくちょく顔を出しに来てるけど、それにも限度がある。あいつの傍には、家族が必要だと思ったんだ。キミみたいなね」
「僕が、ご主人様の家族に……」
「ルーカスがキミにしたことは間違っていると思う。僕からも強く言っておく。あいつは愛情を知らないから、自分でもどう相手と接していいのかわからないんだ」

 カップに落とした視線の先に、揺れる顔が映る。

「ご主人様は僕に、愛情を持ってくださっているのでしょうか?」
「もちろんだよ。この前ルーカスを見て驚いた。あんな上機嫌な彼は見たことがなかったからね。それに、食材の配達を頼み始めたそうじゃないか。今まで僕が何度言っても『必要ない』って突っぱねてたのに、キミのためにコロッと変わった。大事にしてるんだよ」

 なんと言っていいかわからず、コテンと首を傾ける。首輪に下がったチャームが揺れた。

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