犬獣人は愛されたいのに

水都(みなと)

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11-1.罠

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 気持ちが悪い。

 子犬の頃、風邪を引いた日のことを思い出す。
 眠ることもできずにぐずぐずと泣いていると、誰かが頭を撫でてくれた。老婦とは違う小さな手が、ひんやりとして、まるで熱を吸い取ってくれるかのようだった。
 その手は、誰だっただろう。

 ジャラ、と何かが床に擦れる音。聞くだけで身が竦む思いのするそれは、鎖の音。
 目を擦ろうとしたが、手が動かない。何かに後ろ手に縛られているようで、動かすことができなかった。

 薄暗い中で賢明に目を見開き周りを確認すると、小屋のような場所で板張りの床に転がされていた。窓はなく、天井近くに空気口と見られる小さな穴があり、僅かに光が入り込んでいる。

 太い鎖は首に直に巻き付けられ、どこかに繋がれていた。
 ルーカスに貰った首輪は見当たらない。

「やあ、起きたかな?」

 声に反応して起きあがろうとすると、繋がれた鎖に阻まれた。

「鎖は短くしてるから、動こうとするのは危ないよ」

 鼻先に、泥の付いたズボンの裾が見える。上を向くと、トビーがこちらを見ていた。
 ニッと薄闇に笑みが浮かび上がる。

「すごく簡単に捕まってくれたから助かったよ。あのルーカスの犬だから、警戒されないよう時間を掛けたけど、その必要なかったかもね」
「トビーさん? これはなんなんですか? どうして僕を」
「恨むならご主人様を恨みなよ」
「ご主人様が、なに……ぐっ」

 トビーに指先を向けられた瞬間、鎖が上へと持ち上がった。首が吊られ、苦しさに鎖を掴む。
 滲む視界に、生ぬるい笑みを浮かべるトビーが見えた。魔術という文字が頭をよぎる。

 ブツッと切られたように床に落とされた。雪崩れ込む空気に咳き込んでいると、トビーがゆっくりと近づいてきた。

 目の前にしゃがんだトビーは、自らの服の襟元を引っ張り素肌をシェルに見せつけた。
 焼け爛れたような痕に、思わず目を逸らす。

「お前のご主人様のせいでこうなったんだ」
「ご主人様が、そんなこと……ッ」

 黙らせるように、垂れた耳ごと髪を鷲掴みにされる。

「僕はこれでも上級の魔術師でね。だからか、どこへ行っても疎まれることが多かった。でもそれは仕方がないと思っているよ。才能がある人間は常に嫉妬され、孤独を強いられる。それだけなら、僕は凡人たちの妬みを甘んじて受け入れたよ。それが才能ある者の義務だからね」

 けど、とシェルを掴む手に一層力が込められる。
 トビーの爪が耳に食い込み、鈍い悲鳴を上げた。

「魔術研究所のやつらは、ありもしない失態をでっちあげて僕を追放した。僕は研究所のために貴重な魔術を使って誰よりも貢献していたというのに。嫉妬という醜い感情で奴らは僕の、研究所の未来を奪ったんだ」

 ガンッと頭が壁に叩きつけられる。
 怒りと憎しみを滾らせるトビーの瞳は、自分に向けられたものではないとわかっていても恐ろしかった。

「だから僕は、奴らを成敗するため呪術を使った。これで少しは反省するだろうと思ったのに、それどころか僕の呪術を返しやがった。ルーカスなんて雇って」
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