俺の相方はハイエナです

水都(みなと)

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1.灰色のピン芸人

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煌びやかな都会に憧れ、影の中でもがく者は少なくない。
こいつもまた、その中の1人。

「灰村ヨルです。よろしくお願いします」

キャパ30人も入れない小さな劇場の舞台に出てきた男は、頭に獣の耳をつけ、尻からは尻尾が生えていた。数人しかいない客席が遠慮がちにざわめく。
本物……だとしたら、あいつ獣人なのか。

獣人を見ることは初めてじゃない。田舎にはほとんどいなかったが、上京してからはたまに街で見かけることがあった。
それでも芸人をしてる獣人は珍しい。

「この耳と尻尾は本物です。僕は獣人として生まれました」

持っていたフリップを捲ると、獣人の赤ちゃんのイラストが描かれていた。
丸っこい耳に、褐色がかった灰色の髪。尻尾は細っこく、毛先だけ墨に浸したかのように黒い。
そのイラストは、灰村ヨルと名乗った芸人の特徴と同じだった。
自分の小さい頃を描いたんだろうが、なんの獣人かわからない。犬? 猫? 狼?

「犬は賢い、猫はかわいい、狼はかっこいい。鳥は空を飛べるし、馬なら足が速い。僕にも何かすごい魅力や才能があるのだと思ってました。だって獣人は人間とは違う特別な能力があるんだから。そしてある日、僕はお母さんに聞きました」

フリップを置いて、灰村が芝居に入る。

「ねえねえ、お母さん。僕はなんの獣人なの? 犬?」

舞台の反対側に移動して、手を腹の前で組む。こっちはお母さん役らしい。

「いいえ、ヨル。あなたは犬じゃないわ」
「じゃあ、狼だね」
「違うわ、狼でもないの」

灰村は忙しなく移動して、1人2役で子供と母親の会話を続ける。

「それなら猫だね! お母さん、いつも僕のことかわいいって言ってくれるから、かわいい猫だ!」
「違うのよ。あなたは……ハイエナなの」
「ハイエナーー!?」

灰村が絶叫した。客席は水を打ったように静まり返る。
……もしかして、ここ、笑いどころなのか?

そこから、灰村は客席に向かって訴え始めた。
ハイエナは誤解されがちだが本当は悪いやつじゃない。
人のモノを横取りすることはないし、実はヒョウやチーターより足が速い、ハイエナ社会はメスがリーダーだからレディファースト。
ハイエナはバカで卑怯で意地汚いなんて言われるが、そんなことはない。
……という演説が延々続いた。なんだこれ。

もちろん客は誰も笑わない。地獄の空気だった。空調の音まで聞こえる。
ハイエナの生態をフリップ芸で説明するならまだわかる。が、これじゃまったくおもしろくない。つまらないと言う前に、ネタの形にもなっていない。

こんなの見ていられない……はずなのに、灰村の賢明な姿になぜか、目が離せなくなっていた。

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