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8.飲み会
しおりを挟むあんな返事で、良かったんだよな。
バイトしてるときも、家にいるときも、ふとヨルのことを思い出してしまう。
ネタのこととか、今後のことをいろいろ考えなきゃならないときだってのに。
あれから、ヨルとは何度もネタ合わせのために会ってるけど、あの日のことには触れてこない。
ごく普通に、相方として俺の傍にいる。
向こうは告白してスッキリしてんのに、俺だけモヤモヤしてるとかバカみてえ。
ちょうど同期の芸人仲間に誘われたから、気晴らしに飲みに行くことにした。
安い居酒屋で、4人でテーブルを囲む。
「とりあえず生4つー」
「ビール4つですね。かしこまりました」
注文を取りに来た店員は、帽子から長く白い耳が飛び出している。ウサギの獣人だ。
思わずじっと見つめてしまうと、ウサギの店員と目が合った。
「他にご注文はございますか?」
「あ、いや、大丈夫です」
最近、街で獣人を見かけることが多くなった気がする。今までこんなにいたか? 急に増えた?
「椎名、キューブ解散したってマジか?」
ビールを一気に飲み干した荒川が開口一番にそう言うと、他の奴らも身を乗り出した。
「マジだよ。正式には今年度末で解散だけど」
「もったいねえなぁ。5年もやってたのに」
「俺に言うなよ。解散切り出したのは向こうだぜ」
放送作家になりたいと、突然言い出したのは佐野の方だった。
いや、前振りは確かにあった。昔は2人でネタを書いてたのに1人で書きたいと言い出したり、芸人仲間じゃなくスタッフと飲むことが多くなった。
結構前から、考えていたのかもしれない。
「新しい相方、獣人なんだって?」
清水がそう言い出しても、誰も驚いていない。
「なんだ、みんな知ってんのか」
「ライブ出たんだろ? 今すげえ噂になってるぞ」
「まだ獣人の芸人っているんだなー。でも、それにしてもさ……」
「ハイエナって、マジで?」
キューブ解散よりもそれが聞きたかったのか、俺が答える前からやけに盛り上がってる。
正式に事務所に所属するまでは黙っとくつもりだったけど、変な噂されるよりは先に言っておいた方がいいだろう。
「ああ、ハイエナの獣人。灰村って言うんだけど」
「マジで!?」
3人の大声が揃った。周りの客が一斉にこっちを見る。
「うるせえな。大声出すなよ」
「いやだって、お前ハイエナって……」
「人獣コンビってだけでもアレなのに、本気かよ。解散してヤケになってんのか?」
「悪いことは言わない。やめとけ」
そりゃ人獣コンビが売れないと言われてることはわかってる。
でもヨルのことを知らねえくせに、一方的に止められる筋合いはない。
「心配ねえよ。この前ライブで1位取ったんだぜ」
「でもそのハイエナ、なんか裏があるんじゃね?」
「ハイエナだもんなー。何か企んでるのかもしれないぞ」
「お前利用されてんだよ」
俺はビールを煽って、ダンと机に叩きつけた。
場がシンと静まり返る。
「あいつはそんなことしねえよ」
「あーあ、すっかり飼いならされちゃって」
「そのうち食われるぞ、椎名」
「いくら獣人でも人なんか食うわけ……」
脳裏に、あの日の夜がフラッシュバックした。
「え……おい、まさかホントに食われそうになったんじゃねえよな?」
「うっわ、獣人って人食うの!?」
「食うわけねえだろ! ……帰る」
なけなしの金を叩きつけて、居酒屋を出た。
くっそ、まだほとんど飲んでねえのに。
いくら獣人でも人は食べない。
でもヨルに噛み付くようにキスされたあのとき……食われるのかと、思った。
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