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13-1.猿まわし
しおりを挟む結局、この前のオーディションは受からなかった。
まあそう簡単に上手くいくわけがない。
人獣コンビじゃなくとも、若手はオーディションに何百回と落ちるのが当たり前だ。
ただ、少しは俺らの存在も受け入れられてきたのか、オーディションに呼ばれることは増えた。
交通費程度だが、ギャラの出るライブにも呼ばれるようになってきた。少しずつでも、前進はしている。
今日もまた、テレビのオーディションだった。
「今日こそは」と挑んだものの、手応えはない。
ネタはロクに見てもらえず、「ハイエナってどんな感じなの?」「普段なに食べてるの?」「ちょっと尻尾動かしてみて」と、完全に興味本位で呼ばれただけだった。
ヨルが戸惑いつつ要望に応えてやると、お偉いさんたちは「いやあ、ハイエナをこんなにじっくり見たの初めてだよ」と満足そうだった。
見世物じゃねえんだぞ。……いや、芸人なんて見世物なんだが。
「時間の無駄だったな」
「そんなことないですよ。これで顔と名前は覚えてもらえましたから、どこかで使ってもらえるかもしれません」
「だといいけどな」
さっさと帰ろう。まだまだテレビ局に俺らの居場所はない。
廊下を歩いていると、ふとヨルが足を止めた。どこかをじっと見ている。
「どうした?」
「陽向さん、あそこにいるの……猿まわしですよ!」
ヨルが指差す廊下の向こうを見ると、男が2人いた。片方の男は細く柔らかそうな茶の髪に、短い尻尾がある。
猿渡猿之介、隣にいる柔和そうな顔した男は相方の南大和だ。
「本物の猿まわしさんだ! うわあ、生で見るの初めてです!」
「挨拶してくるか?」
「いいんですかね!? でも、あー、やっぱり近寄りがたいっていうか」
ヨルが芸人を目指したのは猿まわしがきっかけだったか。すっかり芸人じゃなく、猿まわしファンになってる。
挨拶しに行くか迷っていると、南と目が合った。
何かを猿乃介に囁き、片手を挙げて近づいてくる。
「やあ、キミたち。Wアッシュだね」
「俺たちのこと、知ってるんですか?」
「人獣コンビのことが僕らの耳に入らないわけないよ。ハイエナなんだって? 珍しいね」
「ぼ、僕、灰村ヨルといいます! テレビで猿まわしさんを見て、僕も猿まわしさんのようになりたくて芸人になりました!」
「へえ、それは光栄。良かったな、この子お前に憧れてるって」
「ありがとうございます」
南に言われて、猿乃介が遠慮がちに頭を下げた。
「2匹目のドジョウを狙って人獣コンビを組む芸人はたくさんいたけど、いまだに僕らの独壇場だからさ。キミたちには期待してるよ」
「はいっ、ありがとうございます!」
柔らかく微笑み、優しい言葉を掛けてくる南にヨルは目を輝かせていた。
「あの僕、ずっと猿渡さんとお話したくて」
「俺と?」
ヨルと猿乃介が獣人同士でなにやら盛り上がり始めた。
仲良くしてもらえるのはいいことだ。本当の意味でヨルの気持ちがわかるやつは他にいない。
同じ獣人芸人同士、可愛がってもらえるといいんだが。
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