俺の相方はハイエナです

水都(みなと)

文字の大きさ
23 / 34

12-2

しおりを挟む

「佐野……」
「久しぶり。Wアッシュってお前らだったんだな、驚いた」
「知ってて呼んだんじゃねえのかよ」
「下っ端作家にそんな権限ないって。ハイエナの芸人がいるってディレクターが聞きつけて、見たいって言ったからさ。あの相方、事務所に入れたのか」
「いや、社長に反対されて俺が事務所辞めた。今はフリーだよ」

俺が現状を伝えると、佐野は「へー」だの「ほー」だの新鮮に驚いていた。
俺らのことは、まったく佐野の耳には入っていなかったらしい。

「まあお前も辞める気だったんだから、獣人と組んで良い経験できるといいな」

なにか引っかかる。
佐野の顔はにこやかで、嫌味を言っているようには見えないが。

「俺ら、本気で売れようとしてんだけど」

佐野が豆鉄砲を食らったような顔をした。
こいつ、俺が芸人として最後の思い出作りにヨルと組んだと思ってたな。

「人獣コンビなんて売れないと思ってんだろ」
「いや、それは……でも現実的に……」

芸人を選ぶ立場になった佐野は、獣人がどれだけキャスティングされづらいかわかっているんだろう。
ついこの前まで芸人として夢見てたくせに、急に現実わかったような顔しやがって。

佐野はまだ何か言いたげだったが、黙って俺の肩を叩いた。

「ま、お互い頑張ろうな。どっかで仕事できるの楽しみにしてるよ、ヒナ」

からかうようにそう言って、佐野は廊下の奥に消えて行った。
自販機はもうすぐそこだったが、楽屋に踵を返す。一刻も早く、この建物から出たい。

「陽向さん」
「うわっ! なんだよ、ビックリしたー」

廊下の角からヨルが現れた。

「遅いので、迷ってるんじゃないかと思って」
「ああ、いや、ちょっと……な」

なんとなく誤魔化して、そのまま歩く。ヨルが横に並んだ。

「陽向さん、僕以外に下の名前で呼ばせてないって言いましたよね?」
「なんだよ急に」
「佐野さんには呼ばせてるんですね」

ピタッ、と足が止まった。二、三歩先を行ったヨルが振り返る。
目が笑ってない。

「べ、別に呼ばせてねえよ」
「さっき呼んでたじゃないですか。『ヒナ』って」

聞いてたのかよ! いつから見てたんだ!?

「『陽向』って名前が可愛いから嫌だって言ってたのに、『ヒナ』なんてもっと可愛いあだ名で呼ばせて」
「呼ばせてねえよ。やめろって言ってんのに勝手にふざけて呼んでくるんだって」
「本当ですか?」

ヨルの灰褐色の目から光が消えてる。
怖い。これが肉食獣人の迫力か。
ヨルに肩を掴まれた。強い力、抵抗できないことを本能で感じる。

「嘘つくわけねえだろ。呼んでいいって許可してんのは、ヨルだけだよ」

そう言うと、ヨルが掴んでいた手を放した。
恐る恐る顔を上げると、ヨルが嬉しそうに笑っている。

「僕だけなんですね!」
「そうだよ。お前だけ特別だから……ッ」

瞬間、抱き寄せられていた。おいここ局の廊下!

「僕だけ特別なんですね。嬉しいです」
「わかったから放せよ! 誰か来たら……」
「あれ? 陽向さん、震えてます?」

今更気づいたのか、ヨルが首を傾げる。

「だってお前……凄むと怖ぇんだよ」
「怖がらせてしまったんですね。ごめんなさい」

俺の頭や背中をよしよしと撫でてくる。
子ども扱いすんなと振り解いてやりたいのに、何故か心地良くてされるがままになってしまう。
抱き枕にされた夜は、あんなに居心地悪かったのに……

「ってかお前、話聞いてたのならもっと怒るところあるだろ。あいつ、Wアッシュをただの思い出作りだと思ってんだぞ」
「そんなの、これからの僕らを見て本気だってわかってもらえればいいですよ」

『そんなの』かよ。ヨルの怒りのポイントがわかんねえ。

遠くから足音が聞こえてきた。誰か来る。

「おい、もう放れろって」
「すみません。じゃあ、続きは帰ってからで」
「帰ったらネタ合わせ」
「はーい」

煌びやかなテレビ局から、俺たちはとっとと退散した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

処理中です...