俺の相方はハイエナです

水都(みなと)

文字の大きさ
3 / 34

2-2

しおりを挟む

ファミレスに着くと、俺はオムライス、灰村はうどんを頼んだ。

「灰村くんって、ずっとピンでやってんの?」
「はい、俺の芸風だとピンでしかできないので」

芸風って程のモノか、と言いたかったが黙っておいた。

「そういえば、キューブさんって最近ライブ出てないですよね」
「解散した」
「解散!? どうしてですか?」

もうじき年度末だから、そこで正式に解散発表ということになってる。人に話すのはこれが初めてだ。

「相方……佐野が放送作家になりたいんだと」
「椎名さんは、どうするんですか?」
「俺は引退するつもりだったけど、気が変わった」

キョトンとする灰村の瞳を見つめる。髪色と同じ灰褐色。
心臓がドキドキする。告白するわけでもねえのに。

「俺と、コンビ組んでくれないか」

垂れていた灰村の耳が徐々に起き上がり、ピンと立ち上がった。

「僕とコンビ、ですか?」
「考えてくれないかと思って」
「でもどうして僕を……僕のネタ、おもしろかったですか?」
「いや全然」

きっぱり言うと、しゅんとまた灰村の耳が垂れた。

「どこがつまらなかったですか? あのネタずっとやってるんですけど、全然ウケなくて……」
「逆に聞きたいんだが、あのネタどこが笑いどころなんだ?」
「自信あるのは、『ハイエナー!』って叫ぶところです。でも、あんまり笑ってもらえたことなくて……」

まさかとは思ってたが、やっぱりあそこが笑いどころなのか。一丁前に笑い待ちしてたもんな。

「獣人の種族ってのはデリケートな問題だろ。それを大声で言われても笑えねえよ」
「でも犬か狼か猫かと思っていたところに、ハイエナという予想外の答えを言われる。お笑いって、こういう裏切りが大事なんですよね?」
「それは間違ってねえけど、お前の使い方は間違ってる」

「あいつは犬だから」とか「猫のくせに」と言うやつがいないわけじゃない。
が、暗黙の了解で人間が獣人の種族について触れてはならないとされている。
本人がいくらネタにされたいと思っていても、素直に笑える人間は少ない。

「そこはまだ笑わせたい意図がわかったけど、他はただ単にハイエナの生態説明だろ」
「でも僕は、ハイエナの誤解を解きたいんです。ハイエナは誤解されることが多いから……」

ハイエナは馬鹿で卑怯で意地汚い。それが一般的なイメージだ。

「それなら講演会でも啓蒙活動でもやればいいだろ。その方がまじめに聞いてもらえる」
「僕はお笑いがやりたいんです」

即答した灰村は本気で言っているんだろう。ただ、今のままじゃ無理だ。

「お前の気持ちは、あのネタから十分伝わってきたよ。上手くいけば、ハイエナなことは芸人として武器になる。でも今のネタじゃ、それを活かしきれてない」

3年もやっていてあれじゃ、はっきり言ってネタを書く才能はないだろう。
でも俺なら……

「俺なら、お前を活かすネタが書けるかもしれない」
「……椎名さん、獣人のこと知ってるんですか?」
「知らない。だから教えてほしい。俺にハイエナのネタを書かせてほしい」

キューブのネタは佐野と2人で書いていた。1人で書くことに不安がないわけじゃない。
それでも書きたい。書いてみたいと突き動かされる何かが、灰村にはあった。
そしてなにより……

「お前と一緒に、ネタをやってみたい」

じっと俺を見つめていた灰村が、ゆっくりと頭を下げた。

「よろしく、お願いします」

灰村の返事に、体温が徐々に上がっていく。
終わりまでのカウントダウンが、始まりのカウントダウンに切り替わった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

処理中です...