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エントリー料を払って楽屋に向かうと、廊下にヨルが立っていた。
「ひな……椎名さん」
外では下の名前で呼ぶなというのは、覚えていたらしい。
「お前、楽屋入んねえの?」
「尻尾が邪魔になるので、いつも僕はここで」
楽屋は狭く、ヨルの部屋より若干大きいくらいしかない。そこに芸人が詰め込まれているのだから、リュックでさえ嫌がられる。満員電車状態だ。
ヨルが1000円を差し出す。
「エントリー料です。出し忘れててすみません」
「いいよ、今回は俺が出しとく」
「ダメですよ。コンビなんですから、自分の分は払います」
売れない芸人なんて奢りといえば飛びつくやつが多いのに、妙なとこ真面目だな。
こんなところで1000円の押し問答するのもみっともないから、受け取っておいた。
「僕は廊下にいますから、椎名さんは楽屋使ってください」
「俺もここでいいや」
「え、でも」
「特に着替えも用意するものもねえし」
漫才が楽なのは、特に持ち物が必要ないことだ。舞台スタッフとの打ち合わせも最小限で済む。
準備を終えた芸人たちがチラホラと廊下に出てきた。
ここに出ているのは、芸歴数年目の後輩たちばかり。俺が出ていた頃とは顔ぶれが全く違う。
俺がいることに驚いて声を掛けてこようとしたやつもいたが、横にいるヨルを見て更に驚いて引き返して行った。
皆、こっちを気にしながら何かコソコソ言い合っている。
「なんでキューブの椎名が? しかも灰村と一緒だぞ」と噂になってるんだろう。少し気まずい。
「ヨル、ネタ合わせするぞ」
「はい」
出番直前まで、俺たちは壁に向かってネタ合わせを続けた。
こうしていれば、周りの目は気にならない。2人だけの空間だ。
出囃子が鳴って、舞台袖にスタンバイする。
客席は20人くらいだが、今日は多い方だ。どんな反応をされるのか、もし反応が悪ければ……
「あー、緊張するな」
「え、そうですか?」
ヨルが涼しい顔で言う。こいつ、漫才初めてだってのに。
「Wアッシュとしては初舞台なんだから、普通緊張するだろ」
「でも今まで僕1人で舞台に立ってたので。隣に陽向さんがいてくれるだけで、安心です」
暗い舞台袖で、ヨルの顔はよく見えない。ゆったり揺れた尻尾の気配だけが感じられた。
「それに僕、陽向さんのネタおもしろいのわかってますから。絶対ウケますよ」
パッと舞台が明るくなる。横顔を照らされたヨルが、誰よりも頼もしく見えた。
「お前ら、喋ってないで早く出ろ!」
すっかり出るタイミングを逃していた。
スタッフに急き立てられ、俺たちは舞台に飛び出す。
「どうも、Wアッシュです!」
「ひな……椎名さん」
外では下の名前で呼ぶなというのは、覚えていたらしい。
「お前、楽屋入んねえの?」
「尻尾が邪魔になるので、いつも僕はここで」
楽屋は狭く、ヨルの部屋より若干大きいくらいしかない。そこに芸人が詰め込まれているのだから、リュックでさえ嫌がられる。満員電車状態だ。
ヨルが1000円を差し出す。
「エントリー料です。出し忘れててすみません」
「いいよ、今回は俺が出しとく」
「ダメですよ。コンビなんですから、自分の分は払います」
売れない芸人なんて奢りといえば飛びつくやつが多いのに、妙なとこ真面目だな。
こんなところで1000円の押し問答するのもみっともないから、受け取っておいた。
「僕は廊下にいますから、椎名さんは楽屋使ってください」
「俺もここでいいや」
「え、でも」
「特に着替えも用意するものもねえし」
漫才が楽なのは、特に持ち物が必要ないことだ。舞台スタッフとの打ち合わせも最小限で済む。
準備を終えた芸人たちがチラホラと廊下に出てきた。
ここに出ているのは、芸歴数年目の後輩たちばかり。俺が出ていた頃とは顔ぶれが全く違う。
俺がいることに驚いて声を掛けてこようとしたやつもいたが、横にいるヨルを見て更に驚いて引き返して行った。
皆、こっちを気にしながら何かコソコソ言い合っている。
「なんでキューブの椎名が? しかも灰村と一緒だぞ」と噂になってるんだろう。少し気まずい。
「ヨル、ネタ合わせするぞ」
「はい」
出番直前まで、俺たちは壁に向かってネタ合わせを続けた。
こうしていれば、周りの目は気にならない。2人だけの空間だ。
出囃子が鳴って、舞台袖にスタンバイする。
客席は20人くらいだが、今日は多い方だ。どんな反応をされるのか、もし反応が悪ければ……
「あー、緊張するな」
「え、そうですか?」
ヨルが涼しい顔で言う。こいつ、漫才初めてだってのに。
「Wアッシュとしては初舞台なんだから、普通緊張するだろ」
「でも今まで僕1人で舞台に立ってたので。隣に陽向さんがいてくれるだけで、安心です」
暗い舞台袖で、ヨルの顔はよく見えない。ゆったり揺れた尻尾の気配だけが感じられた。
「それに僕、陽向さんのネタおもしろいのわかってますから。絶対ウケますよ」
パッと舞台が明るくなる。横顔を照らされたヨルが、誰よりも頼もしく見えた。
「お前ら、喋ってないで早く出ろ!」
すっかり出るタイミングを逃していた。
スタッフに急き立てられ、俺たちは舞台に飛び出す。
「どうも、Wアッシュです!」
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