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第一章
第26話 命日
しおりを挟む翌日にはお父さんも二日酔いから復活し、最終日まで旅行を楽しんだ。
ライラック号の馬車に乗り、私たちは帰路に就く。たくさんのお土産と思い出、それから衝撃の事実を抱えて。
数日後、お母さんの命日がやって来た。
花屋で買ったユリを持ってお墓に行く。毎年お父さんと2人きりだったけど、今年はサディさんも誘って一緒に行くことになった。
日本の墓地とは違って、芝生の広場に名前と誕生日、命日が刻まれた白い墓石が並んでいる。
お母さんの墓石の前に、ピンクのユリのアレンジメントを置いた。
「キレイだな。きっとお母さんも喜んでるよ」
墓石を見つめるお父さんの横顔は憂いに沈んでいた。
前世で父親の命日が来るたび、母親もこんな顔をしていた気がする。こういうとき、どんな言葉を掛けていいのかわからない。前世の父の記憶も、今のお母さんの記憶も私にはない。寄り添ってあげることすら、私にはできない。
「この後、アルの家行っていい?」
「うちにか?」
「たまにはいいでしょ」
夢で見た記憶を辿ると、毎年お墓参りの後お父さんはサディさんの家に行っていた。私はマドレーヌさんたちとお留守番だったけど。
「アリシアちゃん、遊びに行ってもいいかな?」
「うん! きてきてー!」
サディさんならお父さんの心に寄り添うことができる。
旅してた頃の思い出話もするだろうし、そこから少しでもお父さんがサディさんの気持ちに気づいてくれれば……
おっと、今日はお母さんの命日なんだから。腐女子は自重しないと。
3人で家に戻って、お父さんの部屋に行った。
マドレーヌさんが用意してくれたお菓子と紅茶を飲みながら、他愛もない話をする。
これ、私が一緒にいるとお母さんのこととか昔の話がしにくいよね。
「私、眠くなっちゃった。お部屋でお昼寝してくる」
「1人で大丈夫か。お父さんが付いてってやろうか」
「大丈夫だよ。お父さんはサディさんとごゆっくり」
そう断って部屋を出た。廊下には誰もいない。まだマドレーヌさんがお茶を下げに来ることもないはず。
ということで、扉をそーっと開けてお父さんたちを覗き見。最近私、こんなことばっかりしてるような。
「あの花、サディが選んだのか?」
「アリシアちゃんだよ。まあ、僕が『アルはいつもユリの花をリリアさんに渡してた』って言ったんだけどね」
「そうか……」
お父さんにも喜んでもらおうと思って選んだけど、思い出の花なんて逆効果だったかな。
そう思ったのはサディさんも同じだったようで、表情が曇った。
「……余計なこと、しちゃった?」
「いや、そんなことはない。ありがとな」
ぽつぽつと2人はお母さんのことを話し始めた。
初めて出会ってお父さんが一目惚れしたときのこと、ようやく告白して付き合い始めた頃のこと、そして結婚したときのこと。
明るく話すサディさんだったけど、お父さんの顔はどうやっても晴れない。ついには黙り込んでしまった。サディさんもそれ以上は無理に話そうとしないで、2人の間に静かな時間が流れる。
私もそろそろ本当に部屋に戻ろうかな。
と思っていると、お父さんがぽつりとつぶやいた。
「リリアは俺が死なせた」
――っ!?
お父さんの発言に動揺したのは私だけで、サディさんは驚きもしていない。
「アルのせいじゃないだろ」
「俺が旅になんて連れて行かなければ、あいつは……」
2人の話では、お母さんは私を妊娠したことでパーティーから離脱。妊娠中から体調が思わしくなく、出産は無事終えたものの更に体調は悪化。
「アリシアが生まれてから、体調は戻ったと思ってたんだ。リリアもそう言っていた。だから勇者だなんだと持て囃されて騎士団に雇われたのをいいことに、ろくに家に帰らなかった。気づいてやらなかった」
「アルに心配掛けたくなかったんだよ」
「俺が気づいてやれてれば、俺と結婚なんてしなければ、そもそもパーティーに入れてなければ、あいつはまだ生きて……」
「タラレバなんていくらでも言えるよ。違う道を選んでたら大丈夫だったっていう保証もないじゃない」
過去は変えられない。死んでしまえば、『これからいくらでもやり直せる』というチャンスもない。
残された人間の後悔だけが続いていく。
「リリアさんが亡くなってから無茶な仕事量こなしてさ。俺はいつかアルまで倒れるんじゃないかって心配してたよ」
「リリアがいない現実から逃げて、自分のことしか考えてなかったんだ。それで、また同じことを繰り返すところだった」
私が高熱で倒れたときのことだ。
『アリシア』として目覚めた、あの瞬間。
「あれは神からの俺への忠告だ。リリアを死なせたことを忘れるなと。己の罪を忘れれば、今度はアリシアが……」
「ネガティブに考えすぎだよ。小さい子が突然熱出すことくらいよくあるって。それで少しは仕事セーブして、アリシアちゃんと一緒にいるようにしたんだから良かったじゃない」
「それが俺の贖罪だからな」
「またそんなこと言って」
お母さんが死んだのはお父さんのせいじゃない。
客観的に、冷静に考えれば絶対にそうだ。
でもお父さんはそう思ってない。そう思えない。思ってはいけないと考えてる気がする。
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