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第一章
第46話 オバケ?
しおりを挟む「アリシア、学校はどうだ? 楽しいか?」
「……普通、かな」
「友達はできたか? 家に呼んでもいいんだぞ」
「うん、今度ね」
学校に行き始めてから、朝食のときにお父さんに聞かれるルーティーン。
素っ気ない返事を繰り返してるけど、急に反抗期がきたわけじゃない。
「お嬢様、馬車のご用意ができました」
「今行きます。ごちそうさまでした」
マドレーヌさんに呼ばれ、まだ何か聞きたそうなお父さんの話を切り上げる。
「お父さん、行ってきます」
「いってらっしゃい。しっかり勉強するんだぞ」
悲しげなお父さんに手を振って、馬車に乗り込んだ。
入学してから約1ヶ月。
私の嫌な予感は大当たりして、学校生活はまったく上手くいっていなかった。
入学したあの日、声を掛けたブロンドの女の子はヘレナという侯爵令嬢だった。
後から知ったことだけど、貴族は下の階級から上の階級に声を掛けてはいけないらしい。スクールカーストどころじゃない、子供の世界もガチの階級社会だった。
『勇者の子』というどこの階級に入るのかわからない私が侯爵令嬢に声を掛けたせいで、「私は侯爵令嬢より上なのよ」とマウントを取ったと思われてしまった。
そんなわけない! 知らなかっただけなのに!
と言い訳したところで「貴族のルールも知らないヤバいやつ」だと思われたことには変わらない。
ヘレナはそんな私を完全スルーすると決めたようで、クラスメイトたちからも空気のように扱われることとなった。
いじめられるよりマシだけど、クラス中からガン無視されるというのもなかなかキツい。
こうなったらもう開き直って、学校では勉強に励むことにした。
1番楽しいのは国語。やっとこの国の読み書きができるようになった。これで本も読めるし、なんでも書ける。
そう、BLだってね!
この世界にBLがあるのかはわからないけど、もしなかったら私が書けばいい!
いつだって私の孤独を救ってくれるのは、BLなんですよね。
今日の1時間目は、大好きな国語。
「では、どなたかに読んでもらいましょう。アリシアさん、お願いできますか」
「はい」
教科書を持って立ち上がる。
国語の時間、こうして音読を指名されることが多い。
「クマさんとリスさんは、2匹で食べ物を集めることにしました。寒い冬の間、冬眠をするためです」
「はい、よろしい。アリシアさんは読み書きのテストも1番で、音読もとてもお上手ですね。皆さんも見習うように」
国語の成績が良い私に、先生は高学年向けの本も読むようススメてくれた。それも私がスラスラ読むものだから、先生は自分のことのように誇らしそうだった。
でもあんまり褒められて、これ以上悪目立ちするのも不安なんだよね。
やれやれと着席すると……ナニカがいた。
机の上に親指サイズの小さな女の子が乗ってる。私が見ているのに気づくと、その子は踊るようにくるっとまわった。
……ナニコレ。夢でも見てるの?
女の子は走り出すと、ぴょんと隣のヘレナの机に飛び乗った。そして、ヘレナの腕をすいすいと登っていく。
ヘレナは背筋をピンと伸ばし、教科書に目を向けている。小人のような女の子には気づいていないみたいだ。
小人の女の子はヘレナの肩に乗って、こちらに手を振ってる。
ヘレナが私の視線に気づいた。ガン見してる私に、「なに?」とでも言いたそうに眉間にしわを寄せる。
もしかして、ヘレナには見えてない? あの小人、私にだけ見えてるの?
事情を説明したいけど、また私から話しかけて怒らせたくない。
苦肉の策で、ヘレナの肩を何度も指差した。「なんか乗ってるよ!」とジェスチャーで伝える。
なんとか伝わったのか、ヘレナが肩を見た。
その瞬間、小人がぐわーーんと大きくなった!
風船のように天井まで大きく膨らみ、可愛かった女の子は全身真っ黒になった! 真っ赤な口を開けて、牙を見せながらギャハハハと笑う。
「い……ぎゃあああ! オバケーー!!」
私が叫んだ瞬間、オバケはバチンと弾けた。
すると、弾けたオバケは小さなオバケに分裂した。それが教室中を飛びまわってる。
「な、なに……? なんなの? どうなってるの?」
叫び出した私を、無視できなくなったクラスメイト達が振り返る。
「アリシアさん、どうしましたか?」
「せ、先生! 教室に変なのが飛んでます! 小人がオバケになったんです!」
先生もみんなも「何言ってんだこいつ」って顔してるけど、私も何言ってるのかわかんない。だってこれが何なのかわからないんだから!
「アリシアさん、とにかく座りなさい」
先生が言った途端、オバケたちが私目掛けて一斉に飛んできた!
「キャアアア!!」
何なのかわからないけど、虫にだって大群で襲われたら逃げる!
私は教室中を走りまわった。紳士淑女の貴族の子たちも、ギャアギャア大騒ぎになる。
「皆さん、静かに! アリシアさん、席に戻りなさい! アリシアさん!」
そんなこと言ったって、追いかけてくるオバケは止まってくれない!
教室を飛び出して廊下を走った。大トカゲに襲われたあの日以来の全力疾走!
チラリと後ろを見ると、オバケの大群はまだまだ追いかけて来てる。しかもさっきより多い! 虫というよりカラスの大群に襲われてるみたいだ!
「お、お願いこないで! オバケか何だかわからないけどもう勘弁してー!」
ガシッと誰かに腕を掴まれた。オバケに捕まった!?
と思ったら、男の先生。
「キミ、1年生か! 授業中に何をしている」
「オ、オバケの大群に襲われてるんです!」
上を指差したけど、先生は怪訝な顔をする。
「あそこにいるんです! 早く逃げないと襲われちゃう!」
あんな大群がいるのにどうしてわからない……の……? あれ?
顔を上げると、空中には何もいなかった。辺りを見回しても、何もいない。
代わりに、大勢の先生たちが私を追いかけて来ているのが見えた。
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旧版を基に再編集しています。
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