孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)

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第二章

第78話 裏返し

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 家に帰ると、もう夕食の準備ができていた。
 今日はキノコのスープパイ。パリッとパイを破って飲むスープがオシャレでおいしい。

「ナーガのやつ、アリシアが魔力を使えるようになって驚いていただろう」
「うーん、あんまり」

 私が答えるとお父さんは渋い顔をした。けど、サディさんは笑い出す。

「ホント、ナーガは反応が悪いよね」
「サディが魔法を使えるようになったときもそうだったな。みんなで祝い酒飲んでたのに、相変わらずナーガだけ出てこなくて」
「でもみんなが引き上げた後、『随分時間が掛かったね』って言いに来てくれたよ」
「それは褒めてるのか?」
「あいつにとっては最上級の褒め言葉でしょ」

 ナーガさんってば素直じゃないんだから。
 でもナーガさんがそうやって言ってくれるほど、サディさんは頑張ったんだろうな。

「ねえ、サディさんも最初は杖を使ってたの?」
「そうだよ。でも、戦闘中に持ってたら初心者なことがバレるってナーガに言われて、必死で練習したからすぐ使わなくなっちゃったけど」

 そう言って、サディさんは人差し指を立ててくるくるとまわした。キッチンカウンターのバスケットを指さすと、中からりんごが飛び出す。ふわふわと浮かんできたりんごを、サディさんがキャッチした。

「ナーガだと指も使わないでできるけど、僕にはこれが精一杯かな」

 魔力の強さや習熟度によってやり方が変わっていくのか。
 でも、オタク的にはやっぱり杖を使うのが1番かっこいいと思うんだけど。

 サディさんが笑ってお父さんを見た。

「僕の杖はアルが買ってくれたんだよ」
「え! そうなの!?」
「杖って師匠から弟子に贈るものでしょ。でも僕は師匠がいないから自分で買おうと思ったんだけど、アルが」
「俺たちパーティーのために魔法を習得してくれたんだからな。リーダーとして、礼はしないと」

 なんて言ってるけど、本当はお父さんのためだってこと、もうお父さんは知ってますもんね。

「あの杖、今も部屋にあるよ」
「まだ持ってたのか!?」
「もちろん。アルから貰った大事なものだからね」

 サディさん! 尊い!
 お父さんと嬉しそうに微笑み合っちゃって、なにこれ私見てていいの? 退散した方がいい?

「アリシアちゃんはナーガから杖を貰えるんだよね?」

 ああ、私のことはどうでもいいから続けててくれてよかったのに。
 とも言えないので、私の話に戻る。

「うん、ナーガさんは枝でいいって言ったんだけど、私も杖がほしくてお願いしたの」
「枝!? 魔法使いにとって杖は大事な記念にもなるとリリアが言っていたぞ。アリシアの大事な杖を枝……」

 ああああ、お父さんの眉間に皺が寄ってる。不穏な空気。

「大丈夫! ナーガさん今度買いに行ってくれるって言ってた!」
「あいつが選ぶんだろう? 心配だな。買いに行くなら俺も一緒に」
「アルが選ぶのも心配だけどね。センス的に」
「なに!? サディの杖を選んだのは俺だぞ!」
「でもなんか、よくわかんないドラゴンの絵が彫られてるやつだったじゃん。ちょっとダサ……魔法に憧れる男の子が選びそうなやつ。アルがくれたから嬉しかったけど、デザイン的にはどうかと思ったよ」

 所謂厨二っぽいデザインってことかな。既に大人のサディさんに贈る杖としては、ちょっとイマイチかもしれない。いやでも、私はそういうの嫌いじゃないよ、お父さん。

 お父さんが拗ねたように、木のスプーンでパイをバリバリと砕いてる。

「リリアにも『それにしたの……?』と言われてはいたが」
「言われてんじゃん」
「それなら、ナーガと一緒にアリシアも杖を買いに行けばいい。本人の希望を聞くのが1番だろう」
「杖を買うなら街まで出ることになるよ。サウザンリーフまで行くかもしれないし、そしたら泊まりになるけどいいの?」
「ダメだ! ナーガとアリシアを外泊なんて! 絶対に許さない!」

 外泊って……不良娘ですか、私は。
 でも実際、ナーガさんも私を連れて行く気なんてないんじゃないかな。普通に嫌がられそう。

「俺とサディもついて行けばいいだろう」
「またナーガに過保護って言われるよ」
「言わせておけばいい!」

 開き直るお父さんに、サディさんがやれやれと頭を振った。

「じゃあ、僕がナーガと一緒に行くっていうのはどう?」
「サディが?」

 それ、いいかも。ナーガさんの独断で決められるより、安心できる。

「アリシアがいいなら、サディに行ってもらうか?」
「うん! サディさんがいい! ナーガさんが変なの選びそうになったら止めてね」
「わかった。じゃあ、ちょっとナーガに聞いてみるね」

 これで「気が変わった」とか言って枝にされる可能性はなくなった。サディさんに感謝。


 食事が終わって、食器をキッチンに持って行く。今日のお皿洗い当番はお父さん。
 サディさんに「アルに貰った杖、見せてあげるよ」と言われて、2人の部屋に行く。

「ほら、これ」

 クローゼットの奥に仕舞われていたのは、黒くて細長い箱。光沢のある箱は、蛇柄のような模様がついてる。
 中を開けると、ハリーポッターに出てきそうな茶色い杖がはめ込まれるように入っていた。

「うわあ、これが杖?」
「あんまり使わなかったから、キレイでしょ。今は僕のお守りなんだ」

 お父さんから貰った大事なものですからね!

 サディさんが箱から杖を取り出して持たせてくれた。柄の部分にドラゴンの絵柄が彫ってあり、金色に縁取られている。ドラゴンの目の部分には、赤い宝石みたいなものが埋まっていた。
 このデザイン、前世で小学生男子がよく持ってたキーホルダーに似てる。金色のやつ。うん、男の子が好きそう。

「カッコイイ!」
「僕が持つにはちょっと恥ずかしいんだけどね。ナーガにも『子供っぽい』って散々言われたんだ」

 まーたナーガさんはそういうこと言う。
 でも、そういえば……

「ナーガさんは杖持ったことないんだって」
「ああ、ナーガは最初から魔法使えてたんだもんね。すごい才能だよ」
「でも、欲しくなかったのかな」

 前世の頃、私は魔女っ娘アニメのステッキが欲しかった。でもその時はもうお父さんがいなくて、お母さんも病気してたから「買って」なんて言える状況じゃなかった。
 その代わり「アニメのおもちゃなんて子供っぽいのいらない」とか何度も言ってた気がする。自分に言い聞かせるみたいに。

「もしかしたら、ナーガさんも杖が欲しかったのかもしれないよ」

 私がそう言うと、サディさんが顎に手を当てた。

「そういえば、ナーガは杖のことになると妙にムキになるんだよ。旅先で杖を持った魔法使いがいると『あれは初心者が使う物であって、いい大人が持ってるのはみっともない。あんなの振り回してるのは子供だけ』とかわざわざ言ってさ。あんまりしつこいから、いつだったかリリアさんにブチギレられてたけど」

 お母さんにまで……。
 でもそうなるとやっぱり、杖に何かしらの執着があるのかも。

「あ」とサディさんが何かを思いついたように呟いた。それから、私にいたずらっぽい笑顔を向ける。

「いいこと思いついた。ありがとう、アリシアちゃん」

 どういたしまして……?

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