孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)

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第二章

第85話 悪い魔法使い

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 それから来る日も来る日も、魔法の修業をした。
 でも、少しでも成功できた日はまったくない。
 集中しようとすればするほど余計なことを考えちゃって、魔力が上手く杖に伝わらない。

 ナーガさんがダルそうに私を見る視線や、退屈そうにあくびしてるのも気になって仕方がない。
 さすがに魔法の修業を「勝手にやってなよ」というのは師匠として憚られるのか傍に付いててくれるんだろうけど、かといってアドバイスもなし。
 だったら、家の中に居ててくれた方がやりやすいんですけど。

 木陰で木に寄りかかってたナーガさんの大袈裟なため息が聞こえる。

「まだできないの?」
「そんな簡単にできないですよ……コツとかないんですか?」
「キミはそうやってすぐ楽をしようとする」

 楽しようとしてるんじゃなくて、少しでもやり方を学びたいんですけど。
 地面を睨むように考え込んでいたナーガさんが顔を上げる。目が合った瞬間、ヒュンッと顔の横に何かが飛んできた。掠った頬がジンと熱い。

「キミは女の子だし、アルバートの子供だから優しくしてあげてたけど、どうやら優しくしすぎたみたいだ。僕の師匠を見習って、少し厳しくする。次に集中力を切らしたら、魔法でキミに攻撃するから」
「なっ!? それ、当たったらどうするんですか!?」
「大丈夫、ケガしても魔法で治してあげるよ。まあ、回復は僕の専門じゃないけど」

 急にスパルタ特訓!?
 放任主義からスパルタって、極端すぎませんかナーガ師匠!?

「嫌なら集中すればいいだろう。僕だって子供を殺す趣味はない。……ああ、キミ本当は子供じゃないんだからいいか」
「いいわけないじゃないですか!」
「ちゃんと手加減するよ、たぶん」

 恐ろしいこと言ってる。お父さん助けてー!
 と叫ぶ間もなく、ナーガさんは私の正面にある大きな石の上に足を組んで腰掛けた。数メートル離れてるとはいえ、真正面にナーガさんがいると威圧感がすごい。

「早く魔力を杖に流しなよ。あと10秒で始めないと攻撃する。10,9,8……」
「やります! やりますから!!」

 杖を構えて、自分の内側に集中する。心臓を通って、体中に廻ったエネルギーが杖に流れ込む。
 そういえば、周りに動物がいるのかどうか確認するの忘れてた。小鳥の声が聞こえた気がするから、どこかにいるとは思うんだけど。
 最近よく木の枝に3羽の小鳥が止まってるんだよね。ピンク、青、黄色の小鳥。ナーガさんがご飯でもあげてるのかな? そんなわけないか。

 ビュンッと頭の上を何かが掠めた。思わず目を開けると、ナーガさんの鋭い目がこっちを睨んでた。

「次は当てるから」
「ごめんなさい! ちゃんとやります! 集中します!」

 チッと舌打ちしたナーガさんが「僕も舐められたものだ」と呟くのが聞こえた。これ以上失敗したら本気でられる。

 動悸がしてきた胸を押さえて、深呼吸を繰り返す。まずは落ち着かなきゃ。
 私の中に流れる魔力、どうか力を貸して、助けて、私の命が掛かってる……!
 瞬間、グンッと身体が熱くなった。イメージしなくても身体中に魔力が巡ってるのがわかる。指先まで、そして杖まで血が通ったように熱くなる。

 木の枝を見上げるといつもの小鳥が3羽。小鳥たち目掛けて、杖を向ける。

「汝の声を聴かせよ!」

 杖を握りしめた手が熱く、汗が噴き出る。小鳥たちはお互いを見つめて小首を傾げていた。でも、何も聞こえない。
 ダメ、か……?

 ほんの僅かに、杖の先に付いている紫のハートが光った気がした。

《あの子どうなるのかしら》
《きっと生贄にされちゃうのよ》
《悪い魔法使いの生贄にされる!》

 子供のような甲高い声が聞こえてきた。耳じゃなくて、頭に直接響いてくるみたいに。

「今話してるのは、小鳥さんたち?」

 小鳥たちはまた小首を傾げている。

《可哀想な子、また魔法が失敗したら悪い魔法使いに殺されちゃうんだわ》
《生贄にして食べられちゃうの》
《人間を食べる悪い魔法使い!》

 小鳥たちはくちばしを動かしているのに、ピーピー鳴く声は聞こえない。聞こえるのは人間の言葉!

 というか悪い魔法使いって、もしかしなくともナーガさんのこと?
 私は木に少し近づいて、小鳥たちに声を掛けた。

「あの人は魔法使いだけど、悪い魔法使いじゃないよ。私を生贄になんてしない」

 バサバサッと小鳥たちが羽を広げた。

《この子、私たちの言葉がわかってるわ!》
《魔法が成功したのね!》
《わあ! おめでとう!》
「ありがとう」

 小鳥たちは枝から飛んで、地面に転がっていた丸太の上に降りてきた。

「私はアリシア。お話できてすっごく嬉しい」
《アリシア、早く逃げた方がいいわ!》
《悪い魔法使いに生贄にされる前に!》
《食べられちゃう前に!》

 どんだけ怖がられてるんだ、ナーガさん。夜な夜な森で変な魔法でも使ってるのかな。見た目で判断されてるだけかもしれないけど。

「大丈夫だよ。あの人は私のお師匠様なの。私に魔法を教えてくれる良い人だから安心して」

 小鳥たちはまた顔を見合わせた。あんまり信じてもらえてないみたい。まあ仕方ない。
 それより、せっかくお話しできたんだから、お友達になりたいな。あ、そうだ。
 私は木の下に置きっぱなしだったバスケットを取りに行った。今日はサディさんにバゲットを持たせてもらったんだ。

「みんなお腹すいてない? 良かったらどうぞ」

 ちょっと硬いバゲットをちぎって丸太の上に置いてあげると、小鳥たちがついばみ始めた。

《まあ、あなたとってもイイコね!》
《私たちパンが大好きなの!》
《パン屋さんに行って食べてる!》
「じゃあ、これからは私が持ってきてあげるね。一緒に食べよう」

 小鳥たちはキャアキャア言って喜んでくれた。
 ピンクの小鳥はピチ、青い小鳥はルリ、黄色い小鳥はキキというらしい。

《アリシア、私たちもうお友達よ。もし困ったことがあったら相談してね》
《森のみんなで助けてあげる》
《森のクマさんに悪い魔法使いをやっつけてもらおう》

 おっと、まだ誤解が解けてないみたいだ。

「あのね、みんな。あの人は……」

 言いかけると、私と小鳥たちをヌッと黒い影が包んだ。

「僕を無視して遊んでるなんて、本当にいい度胸だね」

 バサバサバサッと、小鳥たちが蜘蛛の子を散らすように(鳥だけど)飛び去って行った。振り向くとそこには、もちろんナーガさんが。

「ナーガさん! 魔法、成功しました!」
「見ればわかるよ。師匠を放って小鳥に餌付けするくらい嬉しかったんだろう?」
「ごめんなさい……」

 小言で済んで良かった、攻撃されなくて。

「とにかく、ようやく魔法成功だ。僕の師匠のやり方は間違ってなかった。結局、人間も魔法使いも恐怖に勝るものはない」
「確かに成功しましたけど、もう少し他のやり方はないんですかね?」
「いいだろう。悪い魔法使いの僕にはピッタリだ」

 聞こえてたんだ……でも私が言ったんじゃありませんからね!

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