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第二章
第84話 集中力
しおりを挟む翌日。
サディさんは疲れも見せないで、朝からいつも通り食事を作ってくれた。
サンドウィッチ祭りもこれでおしまいだ。
ナーガさんの家には午後から行くことになってるけど、つい朝から杖の入った箱を何度も開けたり閉めたりしてしまう。
「今日から杖が使えるね、アリシアちゃん」
「頑張って修行するんだぞ」
「うん! 頑張る!」
胸にはもちろんペンダントを付けて、箱に眠る杖をうっとりと眺めた。
これで私もやっと『魔法使い』って実感が持てる。
お昼を食べ終わると、ドキドキしながら杖を取った。
私の腕半分くらいのサイズの杖は、思ったよりも軽くて持ちやすい。紫色に輝くハートが宝石のようにキレイだ。
「行ってきます!」
2人に見送られながら、杖を握りしめて家を飛び出した。
今日はいい天気。絶好の魔法日和だ! ……と思う。
ナーガさんの家の扉をドンドンと叩いた。
「ナーガさーん! アリシアです! 修行に来ましたー!」
返事がない。もしかして、まだ寝てる?
何度か声を掛けると、ガチャリとドアが開いた。ボサボサ髪で寝起き感満載のナーガさんが、不機嫌そうに顔を出す。
「午後にしろって言っただろ」
「もうお昼は過ぎましたよ」
「午後って言ったら夕方なんだよ」
知りません、そんなこと。
部屋の中に入ると、ナーガさんがパチンと指を鳴らした。ナーガさんの周りに風が巻き起こり、あっという間にローブを羽織ったいつもの姿になった。寝癖まで直ってる。便利。
ナーガさんは棚からビンを取り出し、その中にある緑色の小さなキューブ状のものを口に放り込んだ。
「外に出る」
「ご飯食べなくていいんですか? 私、待ってますよ」
「食事なら今済ませた」
もしかして、今のが魔法食ってやつ? 確かにこれは味気ないな。
外に出ると、サーッと風がなびいていた。チュンチュンとどこからか鳥の鳴き声が聞こえる。
「なんだっけ? ……ああ、動物の言葉がわかる魔法だったか」
「はい! よろしくお願いします!」
杖を両手に握りしめて構えると、「違う」と言ってナーガさんがローブの袖から杖を取り出した。お父さんたちがプレゼントした、あの杖。
「杖は片手で軽く握るだけでいい。使うのは魔力だ、握力を使っても魔法の妨げになる」
「ナーガさん……杖、カッコイイですね!」
ナーガさんの蛇が巻き付いたような杖は、まさにハリー・ポッターにでも出てきそうな雰囲気だ。ローブを着たナーガさんが杖を指揮者のように構えると、本当にサマになる。
「キミの手本としてやってるだけだ」
「やっぱり大魔法使いの雰囲気ですね! お父さんたちにも見せたかったなー。この世界にもカメラがあればいいのに。あ、今度うちに来たとき持ってきてくださいよ。杖で魔法使っているところ見たら、お父さんたちもきっと喜んで――」
ナーガさんが青筋を立ててるのに気付いて口を結んだ。今にもへし折りそうな勢いで、わなわなと杖を握りしめている。マズい、怒らせた。
「弟子の分際で、キミまで僕をからかうとはいい度胸だ」
「か、からかってません! 本当にカッコイイなと思って! ナーガさん、まるでスネイプ先生みたいですよ。あ、スネイプ先生っていうのはハリー・ポッターって映画に出てくる魔法使いで、映画っていうのは……」
「黙れ」
すみませんでした……。
これ以上怒らせないよう、黙って右手に杖を構えた。なるべく力を入れないように。
「要領は前と同じ、魔力を全身に巡らせる。指先までじゃなく、杖の先まで行き渡るのをイメージして」
ナーガさんから「やってみろ」という視線が向けられる。
目を閉じて、じっと身体の内側に集中する。緑色のエネルギーが、身体を巡って指先を越え、杖の先まで流れ込む。
不思議と、自分の腕が伸びたように感じる。杖の先までが自分の身体のようになった。
「杖を対象物に向けて、『汝の声を聴かせよ』と唱えろ」
おお! すごい魔法っぽい!
パッと目を開いて、辺りを見回す。さっき、小鳥の声が聞こえたような……いた!
枝の上に小鳥が3羽止まってる。小鳥に向かって杖を振るった。
「汝の声を聴かせよ!」
…………
ザーッと風が流れる音だけが聞こえて、小鳥が飛び立って行った。チュンチュンという声を残して。
「……失敗、みたいです」
「うん、集中できてなかった」
「でも、ちゃんと魔力はコントロールできてたと思うんですけど」
「その後何か余計なことを考えただろう。鳥を見つける前に、キミの魔力は散っていた」
まさか、「魔法っぽい!」ってテンションが上がっちゃったから?
ナーガさんがやれやれと頭を振る。
「魔力は感情に左右されやすい。特にキミみたいな初心者には」
「余計なことを考えちゃいけないってことですね」
「キミにとっては魔力のコントロールよりも難しいかもしれないな」
う……昔はそんなことなかったんだけどな。少なくとも、前世では。
この世界に転生してから、私すっかり素直になったと思う。お父さんとサディさんのおかげで。
けど魔法を使うときは、少し落ち着きを取り戻さないとな。
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旧版を基に再編集しています。
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