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第二章
第83話 魔法の杖
しおりを挟むお店の真ん中のテーブル席をくっつけて、みんなで夕食を囲んだ。まるでパーティーだ。
わいわい賑やかにサディさんの話を聞くお父さんたちを見て、魔王討伐の旅もこんな感じだったのかな、なんて想像する。
めんどくさそうにおかずを摘まんでたナーガさんが、いつの間にか音もなく私の隣へとやって来た。
「これ」
テーブルに置かれたのは細長い箱。紺色で、大きさはちょうどサディさんの部屋で見せてもらったのと同じくらい。
ってことは、これ……
「杖。これでいいだろ」
魔法の杖!
なんかもっとこう、魔法陣の上に立って『汝に魔を宿す杖を与えん』みたいな儀式とかするのかと思ってたんだけど。結構あっさりなんですね。
とにもかくにも、嬉しい!
「ありがとうございます!」
蓋を持ち上げ、そーっと引き抜かれた箱から出てきたのは、紫のクッションに埋め込まれた杖だった。
アンティーク調のシックな金色。上の部分がペロペロキャンディーのように丸まっていて、その真ん中に紫のハートの飾りがついていた。
「うわあ、キレイ」
溜め息とともにそう言うと、サディさんがこっちを振り返った。
「あ、ナーガ! 一緒に渡そうって言ったのに」
「いいだろ。師匠は僕だ」
みんなが私の周りに集まってきて杖を覗き込む。
「はー、これが魔法の杖か」
「アリシアにピッタリじゃないか!」
「これ、僕が選んだんだよ。気に入ってもらえたかな?」
「うん!」
この杖の雰囲気、なぜか馴染みがある。あ。
思わず付けていたペンダントを見た。お父さんに買ってもらったペンダントと、ちょっと似てる。
サディさんが私の胸元を指差した。
「そのペンダントと雰囲気似てるでしょ? 見た瞬間にこれだって思ったんだ。まったく同じじゃないけど、ちょっとシックでお姉さんになったアリシアちゃんにピッタリだと思って」
確かにペンダントをもっと大人っぽくさせたようなデザインだ。
両方持っていると、まるで姉妹みたい。もともとペアで作られたように感じる。
「おお、ホントだ! いいじゃないか、アリシア」
「サディさん、ありがとう!」
「どういたしまして」
「買ったのは僕なんだけど?」
おっと、そうだった。
不機嫌そうなナーガさんに向かって、深々と一礼する。
「ありがとうございます、ナーガさん。大切にします」
「コレクションじゃないんだから、ボロボロになるまで練習してさっさと手放しなよ」
え……できればサディさんみたいにキレイに残しておきたいんですが。
でも杖は補助輪みたいなものだから、使わなきゃしょうがない。うーん、なるべく丁寧に使おう。
「明日、修行に行ってもいいですか?」
「いいけど、午後にして。疲れた」
小さく欠伸をしたナーガさんが席を立った。そろそろ限界みたい。
「あ、ちょっと待って。ナーガ」
呼び止めたサディさんが、どこからか紫色の箱を持ってきた。
「はい」とナーガさんに手渡す。ナーガさんはぼんやりした目で首を傾げた。
「開けてみて」
ナーガさんが箱の蓋を持ち上げると、中には杖が入っていた。
グリップの部分は黒く、先端に向かっては深い茶色。その周りにぐるぐると黒い蛇が巻き付いたようなデザイン。シンプルだけど、これぞ魔法使いって感じの杖だ。
「僕とアル、ハドリーさんからのプレゼントだよ」
「アリシアも世話になってるしな。受け取れ」
「なんで杖? 僕必要ないけど」
怪訝そうな顔を浮かべるナーガさんに、ハドリーさんがぷっと吹きだした。
「杖、欲しかったんだろ?」
「は? 僕がいつ欲しいなんて言った」
「欲しそうにしてただろ。杖使ってる魔法使いみると、いつもムキになって噛みついて。羨ましかったんだよな?」
「はあ!?」
滅多に顔色の変わらないナーガさんが、見る見る赤くなっていった。
その反応に、サディさんとお父さんも笑い出した。
「ナーガって、最初から魔法使えちゃってたから杖買ってもらえなかったんだもんね。天才も大変だね」
「欲しいなら素直に欲しいと言えばいいのに、世話の掛かるやつだ」
「僕は杖なんてほしくない。だいたい、こんなの杖職人の策略だ。本来は精霊が住む森の枝を杖にしていたのに、いつからか装飾品の付いた高価な杖を買うのが当然の流れになった。過度な装飾は逆に魔法の妨げになる。高価な杖を買い与えれば魔法が上達するわけでもないのに……」
早口でまくしたてるナーガさんは、なんともわかりやすい。
それを微笑ましく見つめてるお父さんたちは、まるで弟の癇癪に付き合うお兄ちゃんだ。
「いらないんじゃ仕方ないね。残念だけど、返してくるよ」
サディさんが手を出すと、ナーガさんが箱をサッと引っ込めた。
「……いらないとは言ってない」
「気に入ってくれたの?」
「杖職人は頑固だ。1度売った杖を返品するなんて許さない。仕方ないから貰っておく」
ハドリーさんが「やれやれ」と大袈裟に肩を竦めた。
「ナーガも素直じゃねえなあ」
「でも僕はナーガのそういうとこ、かわいいと思いますけど。ね、アル?」
「そうだな。ムスッと黙り込んでるときより、よっぽど可愛げがある」
3人にからかわれ、ナーガさんは箱を握り潰さんばかりにワナワナと震えていた。
「かわいいって何だ! バカにしてるのか!」
「なにお前、真っ赤になって。マジでかわいいな」
「かわいー、ナーガかわいー」
「先輩、サディ。あんまりからかうと可哀想だろ」
お父さんのフォローにトドメを刺されたのか、ナーガさんが「帰る!」と叫んだ。
すると、青い炎のようなものが上がりナーガさんを包み込む。炎が消えると、ナーガさんはいなくなっていた。
「あーあ、拗ねちゃったぞ。どうすんだ?」
「先輩のせいですよ。まあ、放っておけば大丈夫でしょう」
「ホント、ナーガってかわいいよねぇ」
3人にとって、ナーガさんは本当に弟みたいなものなんだろうな。
微笑ましい兄弟愛。ナーガさんもなんだかんだ言って、きっとあの杖を大切にしてくれるはず。
ともかく、明日私が修行に行くまでに機嫌が治ってますように。
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